そして、その日の放課後。
今日から上杉先輩の命令で卓球部に行かなければならなくなっている。
卓球なんて、やる気が全くないのだが、奴隷に拒否権は無い。
諦めて、体育館に向かう。
体育館では、先日の球技大会の時のように、卓球部が中の1/3ぐらいを占拠して卓球台が並べられていた。
残り2/3は、バスケ部が使っている。
僕は卓球部の部員が集まっているところに向かう。
天敵の明智さんの姿も当然見えた。何か睨まれたけど、知らないふりをする。
そして、部員の人数、少し減ったのかな? まあ、どうでもいいけど。
僕の姿を見つけて、卓球部の羽柴部長が声を掛けてきた。
「武田君! よく来てくれたね。島津先生から話は聞いているよ」
「どうも、よろしくお願いします」
僕は落ち込んだ暗い声で挨拶をした。
「はい、ユニフォーム。更衣室で着替えて来て」
羽柴部長はそう言うと、臙脂《えんじ》色のユニフォームを手渡してきた。
僕はしぶしぶそれを受け取ると、更衣室に行きユニフォームに着替えた。
そして、体育館に戻る。
羽柴部長は僕が戻るのを確認すると、部員たちに号令を掛ける。
「じゃあ、今日は、まず、校庭をランニングする」
ランニングもするのか。
寒いし、疲れるしなあ。しかし、仕方ないのでついて行く。
校庭に出ると大きく一周した。
スピードはそれほど速くないので、ついていける。
部員たちは掛け声を出している
ファイト、オー、ファイト、オー。
僕は面倒なので声を出さない。その代わり、心の中で、
寒い、しんどい、寒い、しんどい。
と声を出している。
ランニングは1周で終了。
体育館に戻ると、僕は再び羽柴部長に声を掛けられた。
「武田君は初心者だから、特別に福島さんからマンツーマンで指導を受けてもらうよ」
そんなわけで、福島さんがやって来た。
先日の球技大会で僕と卓球勝負した小柄なショートカットの女子。
確か、下の名前が、珍しい人。なんて名前かは忘れたけど。
「よろしく」
福島さんが挨拶してきたので、僕も何とか愛想笑いをして挨拶を返す。
「どうも。初心者だけどお手柔らかに」
「武田君、球技大会の時、初心者とは思えない動きだったよ」
福島さんは笑顔で言う。
本当かなあ?
いくらおだてても奴隷生活が終わったら、卓球はもうやらないぞ。
そんなこんなで、ラケットを借りて卓球のレクチャーが始まる。
途中、歴史研の女子3人が体育館にやって来た。
僕がちゃんと卓球やってるか監視に来たようだ。壁際で少し遠巻きに見学している。
それにしても、上杉先輩が僕に卓球やらせるメリットが良くわからない。
まあ、こっちは校内をリードを付けて散歩させられるよりかは、卓球は恥ずかしさが無いので、少しましか。疲れるけど。
しばらくして、伊達先輩と毛利さんは体育館2階の観客席の方に移動して、スマホいじりや読書をしている。
上杉先輩は転がっていたバスケのボールで遊んでいる。丈を短くしたスカートのままでバスケなんかやると、パンツ見えそうなんだけど。
上杉先輩の見えそうで見えないパンツに気を取られていたら、福島さんに注意された。
「武田君、よそ見しないで」
はいはい。
そんなこんなで、休憩も入れながら下校時間まで卓球をみっちりやらされた。
疲れた。
「武田君、なかなか上達が早いね。明日もよろしくね」
福島さんに別れ際に言われたが、あんまり嬉しくない。
そして、男子更衣室で着替えるとき、羽柴先輩にも、
「なかなか、良いみたいじゃない。大会にもすぐ出れるよ」
「はあ…」
大会に出るつもりはない。
そもそも、そんなに簡単に大会なんて出れないだろうに。
さっさと帰りたいので、先に帰らせてもらう。
部室から出ると、部室棟の近くで、歴史研の女子3人が待っていた。
「お疲れ!」
上杉先輩が挨拶してきた。
「卓球、活躍してたね!」
いや、あんたら、ほとんど見てなかったでしょ。
「あすも頑張ってね!」
上杉先輩は笑いながら僕の背中を叩いた。
「上杉先輩も卓球やったらどうですか?」
「アタシは運動が得意じゃないの、知ってるでしょ?」
知ってるけど、あえて言ってみたんです。
次に伊達先輩が声を掛けてきた。
「終業式の後なんだけど、生徒会室の大掃除があるから、生徒会室の方に来て。掃除のあとに卓球に行っていいから」
「はい、わかりました」
そうか、僕は副会長だったな。忘れてたよ。
「そう言えば歴史研の部室の掃除もしないといけないですね」
「まあ、理科準備室は普段から綺麗にしているから、さほど掃除するところないわ。だから、明日、私たち3人でやっておくつもり。だから、武田君は、心置きなく卓球やってて」
「はあ…」
まあ、いいか。卓球と掃除、どっちもやりたくないな。
しかし、卓球部は何となく気を使うので居心地が良くない。天敵の明智さんも居るし。
僕らは掃除の予定の話しながら、下校した。
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