雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

第1回推理大会

公開日時: 2023年11月4日(土) 22:15
文字数:3,196

 放課後。

 僕は、帰り準備を終える。

 毛利さんに別れの挨拶をしようと立ち上がって、彼女に顔を向けた。

「じゃあ、また明日」


「あっ、これから、新聞部に行くんだよね?」


「うん、怪文書についての情報が来てるっていうから、それを確認に行く」


「私も一緒に行っても良いかな?」

 毛利さんは、朝、僕と片倉先輩の話を聞いて、昼休みにXに投稿された怪文書の画像を見たみたいなので、興味を持ったのかもしれない。


「えーっと…、いいよ。毛利さん、謎解きとか得意だっけ?」


「得意ではないけど…。一応、探偵小説も読んでいるから、ちょっと興味があって」


 そうか、彼女の家に行ったとき、確かドイルとクリスティーの小説があったな。

 片倉先輩も毛利さんを連れて行っても拒否はしないだろう。学校新聞に小説を提供しているぐらいだし、謎解きは大人数で当たった方が早く解決できそうだ。

「じゃあ、協力してくれるってこと?」


「うん。役に立てるかはわからないけど」


 少し心強いな。

 という訳で、ぼくらは連れ立って新聞部の部室まで移動した。

 扉を開けると、今日は部員たちはおらず、片倉先輩のみが座って待っていた。

 僕は挨拶して尋ねた。

「こんにちは。今日は、1人なんですね」


「ああ、みんな取材で出てるよ…。おや、毛利さんも来たのかい?」


「はい」

 毛利さんは短く返事をした。


「毛利さんにも手伝ってもらおうと思って。いいですか?」


「もちろん、いいとも。じゃあ、早速、第1回推理大会をやろう。まずは、届いているDMを確認していこう」


 僕と毛利さんが椅子に座るのを待って、片倉部長は数枚の紙を取り出して机に広げた。

 それはPC版のLINEの画面をスクショしてプリントアウトしたもののようだ。


 片倉部長の分だけでなく、わざわざ僕用にも1部用意してくれたようで、それを差し出してきた。

「ここ数日で届いたDMをプリントアウトしたよ。こうした方が確認しやすいからね」

 僕と毛利さんは紙を受け取ると、それぞれ内容を確認した。


「数で言うと50件ほど届いている。皆、勝手に色々と推理してるよ。けど、有力なものは少ない。一応、武田君たちも目を通してみてよ、気になるものがあれば言ってみて」

 片倉部長は、そう言って笑って見せた。

 僕と毛利さんは、内容をゆっくりと確認する。

 確かに有力な情報は、あまりないようだ。


 僕が黙っていると、片倉部長が口を開いた。

「ともかく、まずは“北参道に通う者”についての情報だ。北参道駅から通学している者が2名いるということだ。2年と1年に1人ずつ」


「これは有力な情報ですね!」

 僕は、少し嬉しくなって少々声が大きくなってしまった。


 片倉部長は落ち着いた調子で続ける。

「彼らに何か手紙が届いていないかどうか確認した方がいいと思うけど、すでに手紙が届いているかもしれない。ただ、この怪文書のような理解不能な内容だったら、いたずらと思って捨てれられてしまっているかもしれないね」


「そうか…、そうですよね」


「まあ、一応、そういう手紙が届いたかどうかの確認をした方がいいと思っているよ」


「なるほど」


「それは新聞部でやっておくよ」


「助かります」


 そこに毛利さんが割り込んできた。

「“北参道に通う者”って、“北参道から通う者”って意味でいいんでしょうか?」


「僕も最初、その疑問を持ったんだけど…」

 毛利さんのツッコミは当然だろう。


 片倉部長は答える。

「今は、“北参道から通う者”で探しているけど、“北参道に通う者”としてはDMで情報は無いね」


「ところで、北参道駅って降りたことが無いんですが、何かありましたっけ?」


 片倉部長は、椅子に座ったまま伸びをするように後ろに身体をそらして答えた。

「僕は一度あるよ。地上出口は明治通りに面していて、付近は雑居ビルやマンション、少し入ると住宅街といった感じだね。明治神宮も近くにあるけど、乗降客数は少ない。雑司が谷駅よりは多いみたいだけどね」


「なるほど」


「まずは、北参道から通っている2人に聞いてみて、何か動きがあれば伝えるよ」


「よろしくお願いします」


「次に、“CROWNから奪う”のことだけど。これは“王冠”のことでいいのかだ。DMでは、こちらについての有力な情報はない」


「以前、伊達先輩に聞いたのですが、学園祭のミスコンとイケメンコンテスト優勝者には王冠が贈られています。でも、それが奪われたということは無いとのことです」


「伊達さんがそう言っていたのは、いつの話?」


「学園祭の最終日です」


「だとすると、もう5か月も前だよね。ひょっとしたら、その間に盗まれてるかもしれないね」


「ええと…、ミスコンとイケメンコンテストの優勝者って誰でしたっけ?」

 以前、聞いたことがあるような気がするが、思い出せない。

 ちなみに、なぜか僕が5位だったことは覚えている。


 片倉部長は言う。

「イケコンの優勝は北条だよ」


「げっ」

 そうだった。

 嫌な思い出がよみがえってきた。

 11月頃に、北条先輩にトイレに連れ込まれて胸倉をつかまれた上に、生徒会の情報をスパイしろ、さもなくば雪乃に危害を加えると脅されていたのだ。

 そして、片倉部長がそのトラブル解決をしてくれた。

 今は、片倉部長が北条先輩が僕を脅したことをネタに、逆に北条先輩を脅しているのだ。

 僕にとって、脅されたことは余りにも嫌な思い出だったので、北条先輩がイケコンで優勝をしたということも記憶から抹消していた。


 僕が嫌な顔をするのを見て、片倉部長はちょっと笑っている。

「王冠が盗まれてないかは、僕が北条に聞いとくよ。ついでに、改めて脅しとくし」


「よ、よろしくお願いします…」


「あとは、ミスコンの優勝者にも聞いておくよ」


 ミスコンの優勝者は聞いてなかったような。

 なので、僕は質問した。

「それってだれですか?」


「水泳部、1年の赤松真琴」


「そうですか」

 知らない人だ。まあ、僕は大抵の人のことを知らないけどな。


「後は“王冠”って、王冠そのものじゃなくて、何かで優勝した時にもらえるトロフィーとか盾とかのことかもしれないし。そう考えると、部活で賞をもらったことがある人物にも、そういった物が盗まれていないかどうか確認した方がいいかもしれない」


「えっ? それは、大変そうですね」


「そうでもないよ。新聞部では部活の受賞はすべて把握しているから、これもこっちで確認しておくよ」


「お願いします」


「最後に、差出人“P”について…。これも有力な情報は無いようだね」


 僕はもう一度DMがプリントアウトされた紙を見て答えた。

「そのようですね」


「引き続き情報は集めているし、またDMが溜まった段階で声を掛けるよ。新聞部としても取材をしながら、ついでに何か手掛かりが無いか探っておくよ」


「はい」


 手掛かりは少なかったかが、解決に向けて少し進んでいるような気がする。

 片倉部長に頼りっきりだけど、こんなことなら最初からお願いすればよかった。

 報酬の半分は新聞部に渡す約束にしたからなのか、やたら協力的だし。


「話は変わるけど」

 片倉部長は、前のめりになった。

「武田君、毛利さんと織田さんと、どっちと付き合ってるの?」


 僕は、突然の質問に驚いた。

「はあ?! どちらとも付き合ってませんよ!」

 そして毛利さんにも同意を求める。

「だよね?!」


「うん…」

 毛利さんは静かに答えた。


 片倉部長は畳みかけて来る。

「だって、毎週金曜日に体育館で3人一緒に弁当食べてるじゃん?」


 お弁当交換会を見られているんだな。

 そう言えば、片倉部長のXで、その僕らの一緒にいる写真が投稿されているのを思いだした。

 まあ、秘密にしているわけではないから、いいのだけど。

「いや、あれは、ただ弁当を食べてるだけで、それ以上もそれ以下もないですよ」


「そうかー。場合によっては3人で付き合ってるのかと思ったよ」


「まさか、そんなことは…」

 これ以上、変な話になったら困るので適当に誤魔化した。

 その後は、また怪文書の話題に戻って、少しだけ話をしてから解散した。

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