今日は、新年度初の選択科目である、美術の授業がある。
教室を出て、美術室まで移動する。
美術、音楽、書道の3科目は選択科目で、あらかじめ始業式が始まって早々に各生徒が希望を出している。
美術は人気のある科目なので希望者が多く、抽選になってしまい、抽選から漏れたものは他の教科に回されてしまうのだ。
ちなみに、僕は1年の時は美術の抽選から外れてしまい、音楽の授業を受ける羽目になっていたが、2年になった今年度は美術の授業に当選できた。
そんなわけで、美術の初授業。
今日は、鉛筆とスケッチブックを用意しろというので、何を描かされるのかと思いきや、2人1組になってお互いの肖像画を描けという美術教師から指示が出た。
2人1組とか、友達がいない僕は相手を見つけるのは困るなあ…。
ちなみに、毛利さんは書道を、雪乃は音楽を選択しているので、美術室にはいないのだ。
そんなわけで、余った人同士でペアになればいいか、などと考えていたが、すぐに黒髪の女子に声を掛けられた。
「武田君」
どこかで見たことある女子…。誰だっけ?
不思議そうにしている僕に、その女子は驚いた様子で尋ねてきた。
「え? わからない? 私、蜂須賀だよ」
「えっ?! 蜂須賀さん?!」
驚いた。
蜂須賀さん、昨日まで半分ピンク髪で半分金髪なのに、今は黒髪…?
「髪の色が違う?」
「放課後になるまでは、ウイッグかぶっているって言わなかったけ?」
「え…? ああ…」
そう言えば、そんなこと言ってたな。
蜂須賀さんの事は、髪色で判断していたので、すぐに誰かわからなかったよ。
「ペアにならない?」
蜂須賀さんは尋ねてきた。
「う、うん。いいよ」
早い段階で、ペアになれたので一安心した。
早速、向かい合って、肖像画を描き始める。
僕は、美術を選択したが別に絵がうまいというわけじゃない。
美術教師の指示なので、仕方なく蜂須賀さんを描く。
授業とはいえ、女子をじっと見つめるのは、ちょっと緊張する。
うまく描けないな…。
なんとか頑張って描き続ける。
そして、授業も終盤に差し掛かった頃、美術教師は出来たこところまでで終了し、絵を提出しろという。
「ねえ、ちょっと見せてよ」
蜂須賀さんは僕の横に回り込んで、僕が描いた蜂須賀さんの肖像画を覗き込んだ。
「あー、ああ…。なかなか、前衛的な絵ね」
蜂須賀さんは、精一杯のお世辞を言った。
「絵は得意じゃあないんだよ」
僕は一応、弁解した。
「蜂須賀さんの描いた絵も見せてよ」
僕がそう言うと、蜂須賀さんはスケッチブックを見せてくれた。
上手い。
写真みたいだ。
さすが、美術部。
春休みに、他の絵も見たことがあるが、それもすごく上手かった。
以前、新聞部の片倉先輩が、蜂須賀さんは絵の才能が天才的だと言っていたのを思い出した。
そして、片倉先輩は蜂須賀さんのことを“変わり者”だと言っていたが、僕が今まで接した感じでは、彼女は少々ぶっきらぼうな所はあるが、別に変わり者ってほどじゃあないと思った。
「ねえ。前に、お願いしたいことがあるって言ったじゃない?」
蜂須賀さんは話題を変える。
「そういえば、そうだったね」
忘れていたが、ホワイトデーのお返しを渡したときにそんなことを言っていたのを思い出した。
「で、お願いって、何?」
「絵のモデルをやってほしいのよ」
「モデル?」
「そう、モデル」
「なんで、僕なんかを? 別にイケメンでもないのに」
「イケメンより、どこにでもいるような普通の顔の方が難しくて練習になるのよ」
「あ、そう…」
あんまり嬉しくないな。
「今週は、歴史研の勧誘活動をするんでしょ? 今週は、忙しそうだから来週月曜の放課後、ここにきてよ」
「勧誘活動は、今週限りってわけじゃないけど…。まあ、いいよ、月曜日ね…。美術部のほうは、もう勧誘活動はしないの?」
「うん。何人かは入部してくれそうだから、明日の部活紹介オリエンテーションをやったら、一旦はおしまい」
入部する人が居そうとは、うらやましい限りだな。
世間話はほどほどに、描いた肖像画を提出して僕らは美術教室を後にした。
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