昨日、雪乃のヌードモデルの話を聞いた翌日。
放課後、僕は週1の生徒会長選挙の対策会議で生徒会室に来ていた。
部屋にいるのは、いつもの生徒会役員と次期生徒会役員候補の面々。
そして、僕の隣の席は、今日も密着取材ということで支倉君が座っている。
会議の内容といえば、いろいろと細かいことを長々と話している。
しかし、僕はさほど興味が無いので聞いているふりをしていた。
それよりも、昨日聞いた雪乃のヌードモデルの件のほうが気になる。
日中、教室では話をしなかったので、この会議が終わったら詳しく聞いてみようと思っている。
会議中はまだ続きそう。
退屈なので支倉君に小声で尋ねた。
「(僕のこんなところ、見てても僕の取材にならないでしょ?)」
「(そんなことないです。モテ男の生態情報が着々と集まりつつあります)」
“生態情報” って、動物の観察みたいだな。
まあ、いいけどね。
僕は話を続ける。
「(僕がモテ男ってのは、そもそも新聞部がでっち上げたんでしょ?)」
「(そうなんですけど、武田先輩はネタの宝庫って聞いたので)」
ただ、僕にへばりついて、ネタを探しているだけということか。
そして、僕はさらに気になっていることを支倉君に尋ねた。
「(その、メモ帳なんだけど。今時、手書きでメモを取るって、なんか古く臭くない? ボイスメモのほうが圧倒的に楽で早いと思うけど?)」
「(ワタシは古臭いのが好きなんです。それにこういう場では、ボイスメモは使えないですし)」
「(あ…、そうだね)」
なるほど。
高校生でも“昭和”とか“レトロ”が好きな人はいるからなあ。
「そこ、静かにして」
伊達先輩が、僕と支倉君をにらんで言った。
怒られた。
伊達先輩は会議を続ける。
「最後に…。織田さん。ちょっと、気になる話を聞いたんだけど」
「なんでしょうか?」
雪乃が尋ね返した。
「ヌードモデルの件よ」
おっ。
会議で、この話題が出るとは思わなかったな。
僕は聞き耳を立てた。
「あれは、どういう話なのかしら?」
「はい。美術部に頼まれてモデルを引き受けました」
雪乃は答えた。
「このことで、風紀委員が難色を示しているようなのよ。近いうちに美術部に話を聞きに行くって言ってたわ」
ここでも風紀委員か。
確かに、僕もヌードモデルはやり過ぎだと思う。
「私は別にどちらでもいいんですが、モデルをやるかわりに生徒会長選挙の時に投票してくれるっていう約束をしたので」
「そうなのね」
それって、買収だよな。
伊達先輩は、話を続ける。
「あと、食堂で武田君とキスしたでしょ? あの件でも、風紀委員はお冠のようよ」
あれは、僕も巻き込まれたし、やり過ぎだと思った。
そこへ支倉君が手を挙げて、割り込んできた。
「新聞部の調査でも、織田先輩のことをやり過だって思っている生徒が、風紀委員以外でもそれなりにいるようです!」
「ちょっと控えめにしたらどうかしら。選挙に悪い影響が出たら良くないわ」
伊達先輩がアドバイスする。
「わかりました。風紀委員が怒りそうなものは今後はしないようにします」
雪乃は、すんなりと伊達先輩の言うことを了承した。
そこで会議は終了した。
僕は気になることをさらに尋ねるために雪乃に近づいた。
「雪乃。先週、『なにか2つ公表する』って言ってたでしょ? ヌードモデルがその1つかい?」
「そうよ」
「ヌードモデルの件が1つなら、もう1つは何?」
「それは来週公表するわ」
「それは風紀委員は大丈夫なの?」
「次のは風紀委員に、にらまれるようなものじゃあないから大丈夫よ」
「そ、そうか…。なら良いんだけど」
雪乃の基準はちょっと変わっているからな、本当に大丈夫かな。
不安があるが、僕はそれ以上は追及しないことにした。
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