放課後。
僕と雪乃、毛利さん、そして、なぜか新聞部の支倉君まで一緒になって、雪乃の家を訪問することになった。
学校から徒歩で雑司ヶ谷駅まで、地下鉄に乗って1駅移動し、西早稲田駅まで。
西早稲田駅チカのマンションの一室が雪乃の家である。
ということで、久しぶりに雪乃の部屋にやってきた。
以前来たのは、2月ごろだったっけ。
部屋の家具やカーテンは淡いピンク色。
今日も部屋は綺麗に片付いていた。
今日は織田家の両親は仕事と用事で不在。
そして、小学生の弟は最近は寄り道して遊んでくることが多く、今日も夕飯ごろに帰ってくるだろうと雪乃は言う。
僕らは座布団に座ってしばらく世間話をする。
支倉君は雪乃に生徒会長選挙のことを質問している。
「ところで、昨日、『私もいろいろ考えがあるから』と言っていましたが、それは何ですか?」
「いいわ。ちょっとだけ教えてあげる」
「ありがとうございます!」
支倉君、めっちゃ嬉しそう。
雪乃はニヤリと笑って話を続ける。
「実は、たまたまなんだけど、ちょっと頼まれごとがいくつかあって、生徒会長選挙の票の取りまとめしてもらうのを条件にOKしようかと」
「ほほーっ! その内容は?」
「それは秘密」
「えーっ! そこまで言ったら教えてくださいよ!」
支倉君、今度は不満そう。
「まあ、来週ぐらいに1つは公表するわ」
「それは楽しみです! 頼まれごとは、いくつあるんですか?」
「今のところ、2つね」
「来週が待ち遠しいです!」
などと、選挙の話が一区切りつくと、雪乃は立ち上がった。
「じゃあ、私たちはちょっとコンビニに行ってくるわ」
そういって、支倉君の腕を引っ張って立ち上がらせた。
「え? どういうこと?」
僕は何のことか、わからず質問する。
「だって、今日は純也と歩美がキスするためにこの部屋に来たんでしょ?」
「ああ…」
そうなのだ、メインは僕と毛利さんがキスするため、今日は雪乃の部屋を提供してくれるという話でここに来たのだ。
「と、いうことで30分ぐらいコンビニで買い物してくるから。純也、バッチリ決めてよね。なんだったら、エッチもしていいけど」
「い、いや…。そこまではしない…」
「ワタシは残っちゃダメですか?」
支倉君が尋ねた。
「ダメにきまってるじゃん!」
雪乃は答えた。
「いいから、颯太も行くの!」
そういって支倉君を無理やり部屋から引っ張り出した。
玄関の扉が開いて、雪乃と支倉君が出ていく音。
そして、静寂。
キスのため、2人きりにされてしまったが、気まずい…。
何から話を切り出していいのやら。
そして、キスの前に気になっていることがある。
それは、最近の毛利さんと悠斗の関係だ。
バレンタインデーで毛利さんが悠斗にチョコを渡すのを目撃し、その後日、仲よく話をしているを何度か見たことがある。
僕が目撃したのとは別に、雪乃も見たことがあると以前言っていた。
2人は付き合ってるのだろうか?
いや、付き合っているなら、ここで僕とキスしようとするわけないよな…。
でも、今日は毛利さんの意思とは別に、雪乃がやや強引にこの部屋に連れてきた感じもしなくはない。
毛利さん、押しに弱そうだからな。
僕も人の事を言えないけど。
などと、しばらく考え事をしていたが、思い切って悠斗との関係を聞いてみることにした。
「あのさ…」
僕は口を開いた。
「うん」
毛利さんは小さく答えた。
「悠斗なんだけど…」
「え? 足利君がどうかしたの?」
「最近、よく毛利さんと話しているみたいじゃん?」
「う、うん…」
毛利さんは、ちょっと気まずそうに答えた。
「なんの話をしているのか気になって…」
「それは…、『相談事があって』、って前も言ったよね?」
「そ、そうなんだけど…。なんの相談?」
「それは秘密」
そうだよな。
相談内容をほかの人に言うわけないよな。
そもそも、毛利さんは秘密主義なところがあるし。
しかし、気になる。
しばらく沈黙。
今度は、毛利さんが口を開いた。
「ねえ…。キスしないの?」
「え? ああ、そうだね」
もう悠斗のことはどうでもいいや。
トラブルになったら、その時の僕に頑張ってもらうことにする。
僕は意を決して毛利さんの隣にズイッっと近づいた。
そして、手を彼女の肩に回して体を近づける。
毛利さんが目を閉じてキス待ち。
その瞬間。
玄関の扉が勢い良くひらく音が。
バタバタと廊下を走る音。
そして、声がした。
「ねえちゃん! ねえちゃん!」
雪乃の弟が帰ってきたのか?!
僕と毛利さんは身体を離した。
ほぼ同時に雪乃の部屋の扉が開く。
「ねえちゃん!」
学ラン姿の弟が扉から顔をのぞかせた。
そうか弟は、中学生になったんだな。
その弟は、僕と毛利さんしかいないのを見て不思議そうに尋ねた。
「あれ。ねえちゃんは?」
「え、えーっと。コンビニまで行ってるよ」
「ふーん。そっか」
そういうと弟は扉をしめて、他の部屋に行ってしまった。
僕と毛利さんは、すっかり興ざめしてしまった。
せっかくのチャンスを。弟め。
しばらく無言。
そして、雪乃と支倉君が部屋に帰ってきた。
「純也、やった?!」
開口一番雪乃は尋ねた。
「いや。いいところで、雪乃の弟が部屋に入ってきたので、できなかった…」
「はあ?!」
雪乃はちょっとあきれたように大声を上げた。
「弟、帰って来てるの?」
雪乃は部屋を出て行く。
そして、奥のリビングルームかどこかで弟になにやら文句を言っている声が聞こえる。
一方、支倉君は正座して、僕をまじまじと見て言う。
「いまから、キスしてもらってもいいですよ」
「できるか!」
さすがに拒否した。
雪乃が部屋に戻ってきて、座布団の上に座ると僕に言う。
「ごめんねー。弟、いつもはもうちょと遅く帰ってくるのに」
「ま、まあ、仕方ないよ」
僕は答えた。
「コンビニでお菓子買ってきたから、皆で食べよう」
と雪乃がレジ袋からお菓子を何種類か床に並べる。
気を取り直して、お菓子パーティーが始まった。
世間話の中で、毛利さんは言う。
「再来週の4月20日は伊達先輩の誕生日だから、何かお祝いしたいね」
「え? そうだっけ?」
僕は驚いた。
「私たちもお祝いしてもらったから、何かしたほうがいいの思うの」
「まあ、そうだね…。でも、サプライズ的なのじゃあなく、普通にお祝いでいいんじゃない?」
これまでに僕、毛利さん、雪乃はサプライズで歴史研メンバーからお祝いをされている。
「じゃあ、みんなで負担してケーキでも買ってきて、お祝いしよう」
雪乃は提案する。
その程度でいいだろう。
別で、なにかプレゼントは用意した方がいいよな。
その後も、伊達先輩談義で盛り上って、夕飯の前には失礼させてもらった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!