さあ、あと2時間、オムライス作りをやれば、もう終わり。もうひと頑張りだ。
占いメイドカフェは、まだまだ混んでいた。
「武田君」
今度、声を掛けて来たのは、卓球部兼歴史研顧問の島津先生だ。
「お、お帰りなさいませ、お嬢様。先生、卓球部の方は良いんですか?」
「ええ。それに、こちらの方も見ておかないとね。一応顧問だから」
島津先生は教室内を見回してから続ける。
「とても繁盛しているみたいね」
「はい。忙しくて倒れそうです」
「さすがは伊達さんプロデュースね」
確かに伊達先輩でなければここまで繁盛しなかったかもしれない。僕をダシに使っているというのは、少々不満だが。
「肝心の伊達さんは?」
「今日は生徒会室に籠っているようですよ」
「そうなの? 後で、様子を見に行ってみるわ。じゃあ、オムライスも食べていくわね」
そう言うと、島津先生は席についた。
さらに、忙しくオムライスを作り続けていると、僕の名前を呼ぶ聞きなれた声がした。
「お兄ちゃん」
顔を上げて見ると、そこには妹の美咲とその友達らしき3人の女子がいた。
「お、お帰りなさいませ、お嬢様。ていうか、また来たのか?」
「えー、ひどいなー。折角友達も連れてきたのに」
「それは、どうも」
その友達女子3人が僕を見て何か言っている。
「これが美咲のお兄さん? きゃはは」
「はー、……」
「お兄さんに似なくてよかったね」
なんだぁ? 笑われて、落胆されて、ディスられたぞ。
「じゃあ、頑張ってね」
そう言うと、美咲たちはメイドに誘導されて席についた。
さて、そんなこんなで、そろそろ閉店時間の5時に近づいた。4時半をラストオーダーにしたので、お客さんもぼつぼつ減り、オムライスの注文も最後の1つとなっている。
そして、ついに最後のオムライス作り終えて、ホッとため息をついて椅子に座った。
お客さんも大分減った。メイドたちも少々、手が空き始めたようだ。
座って休んでいると、ギャルメイドの上杉先輩が絡んできた。
「ねえねえ! 折角だから、ご奉仕してあげるよ」
「え? いいですよ、別に」
「遠慮しないで、ご主人様ぁ」
上杉先輩が、可愛い子ぶってるのは、気持ち悪い。
「こっち座って! ご主人様ぁ」
しょうがないな…。客席の方へ引っ張って行かれた。
「ご注文は? ご主人様ぁ」
ウザい…。
「ええと…、オレンジジュースを」
「かしこまりました。ご主人様ぁ」
そう言うと、オレンジジュースをコップに注いで運ん来て机の上に置いた。
「じゃあ、一緒にご唱和ください! 美味しくなあれ、萌え萌えキュン!」
僕は指でハートマークを作る上杉先輩を見つめていた。
「は? キミも一緒にやるんだよ!」
メイドに脅された。
「僕もやるんですか?」
「折角、メイドカフェに来ているのに、これをやらないなんて、何しに来たの?」
僕は自分の意思でここにいるのではないぞ。
でもやらないと、もっと面倒なことになりそうだ。恥ずかしいけど、一緒にやる。
「「美味しくなあれ、萌え萌えキュン!」」
上杉先輩は満足そうにしている。
僕はオレンジジュースをストローですすりながら思った。
今後、メイドカフェには絶対行かない。
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