雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

日本100名城をすべて巡る!
谷島修一
谷島修一

焼きそば

公開日時: 2022年6月2日(木) 07:39
文字数:1,621

 僕は、出演した舞台“白雪姫”が終わり、午後から、執事として従事しないといけない“占いメイドカフェ”がある。

 それまでの約1時間休憩をもらっていたので校内の出し物を少し見ようと思っていた。

 先日、卓球部の羽柴部長に「来てよ」と言われていた焼きそばの屋台に向かう。天敵の明智さんも居るが、まあ口を利くこともないだろう。


 学園祭のパンフレットによると、卓球部の焼きそば屋台は校舎の外、いろんな部活の屋台が並んでいるところの一角に出ているようだ。


 卓球部の焼きそば屋台の前に立つ、卓球部顧問で歴史研の顧問も兼任している島津先生見つけると、声を掛けた。

「どうも、お疲れ様です」


「あら、こんにちは。良かったら、食べていく?」


「はい。1つ下さい」

 屋台のあるテントを覗き込む。夏休みに合宿に参加させられたので、部員は全員顔見知りだ。

 鉄板で焼きそばを作っているのは、部長の羽柴先輩だった。


「やあ、武田君。来てくれてありがとう」

 

「ええ、約束しましたからね」


 僕は500円を支払って、焼きそばの入っているパックと割りばしを受け取った。


「舞台、終わったのかい?」

 羽柴部長が尋ねてきた。


「ええ、まあ、なんとか」


「こっちがあったから見れなかったけど、どうだった?」


「ええ…、まあ、つつがなく…」


 羽柴先輩は、前日に本番さながらのリハーサルを見ていたから、本番を見なくても別にいいだろう。

 そして、本番はリハと違って、ステージ上でキスされたことには触れまい。


 僕が屋台を離れようとした時、島津先生が僕の肩を叩いた。

「あと、練習にも来てね」


「ははは…」

 僕は、その場は笑ってごまかす。

 絶対行かない。


 僕は卓球部の屋台を離れ、中庭のベンチまで移動して焼きそばを食べることにした。

 中庭のベンチはいつもならあまり利用者が居ないのだが、学園祭ということもあってか、空いているベンチは少なめだった。

 というのも、中庭では小ステージが作られていて、午後から何か出し物があるようだ。

 なんとか、空いているベンチに座り、焼きそばを食べ始める。結構おいしい。


 焼きそばを食べていると、さっきの“白雪姫”の舞台のことが脳裏をよぎった。

 織田さんは、なんで急遽演出を変えたのか? いくら急だったにしても事前に相談か、一言あってもいいだろうに。

 やっぱり、ちょっと納得いかない。 


 焼きそばを食べ終わる頃、僕の名前を呼ぶ声がした。


「武田さん、こんにちは」

 聞きなれない声の主は正面に立った。

 僕は顔を上げる。


 立っていたのは、二つ結びの三つ編みを胸のあたりまで垂らし、丸い縁の眼鏡をかけている。小柄な彼女は確か、東池女子高の生徒会長。名前は、えーっと…。


「東池の宇喜多です」


 僕の心を読み取るように、自己紹介した宇喜多さんは僕の隣に座った。


「どうも、こんにちは」

 僕は挨拶を返す。

 今日の宇喜多さんは、白いシャツにパステルピンクのスカートという出で立ちだった。可愛いな。


「舞台、見ましたよ」


「えっ?! そうなんですか?」


 宇喜多さんも、あのキスシーンを見たということか。


「なかなか良かったです。白雪姫の人、演技が上手いですね」


「織田さんですね。彼女は、演劇部ですからね。上手いですよ」


「そうなんですね。それに、武田さんも良かったですよ」


 最後にちょっとだけ出ただけなので、良いも悪いも無いだろうに。

「ありがとうございます」

 僕は宇喜多さんのお世辞に、とりあえず礼を言い、残りの焼きそばを急いで食べつくしてから尋ねた。

「この後は、どうされるんですか?」


「今日は一日、見学させてもらうつもりです。“占いメイドカフェ”にも行きますよ」


「そうですか…」


 王子様だけでなく執事姿も見られてしまうのか。まあ、いいけどね。


「じゃあ、これで失礼します。他にも、いろいろ回ってみたいので」

 宇喜多さんは、そう言って学園祭のパンフレットを手にして、それを見せてきた。そして、会釈すると立ち去って行った。


 僕もちょっと他の出し物を見てみたいと思っていたので、ベンチから立ち上がった。

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