サンシャインシティで無事にプレゼント購入任務が完了し、予想より安くついたので、妹に提案する。
「今日、プレゼントを選んでくれたお礼にジュースでも奢るぞ」
「ええっ?!」
妹は驚いて僕に向き直った。
「ど、どうしたの? お兄ちゃんらしからぬ言葉だよ」
「そんなに驚くか?」
僕は困惑しつつ尋ねた。
「驚くよ。別人だよ。エリア51から逃げて来た宇宙人だよ」
妹がまた、何やらブツブツ言い始めた。
「ひょっとして、紗夜さんの調教の成果か? いやいや…」
「いいから行くぞ」
僕はそう言って、妹の腕を掴んでいつものカフェに移動する。
妹はジュース、僕はコーヒーを頼んで、それを手にすると通りに面した、いつもの席に座る。
しばらく妹と世間話をしていると、聞き覚えのある声がした。
「武田君」
顔を上げると、前髪に赤いヘヤピンの眼鏡女子=新聞部の小梁川さんが立っていた。小梁川さんも学校帰りなのか、僕らと同じように制服のまま。
「久しぶりね」
彼女は挨拶してきた。
「そうだね、久しぶり」
小梁川さんとは、学校の廊下でもすれ違ったりしなかったな。前に会ったのはいつだっけ? 1か月ぐらい前だったっけ?
小梁川さんは、僕と妹をジロジロ見てから言い放った。
「新しい彼女? その制服、中学生でしょ? 武田君もやるねぇ」
妹は中学のセーラー服のままだ。だから中学生とわかったんだろう。
しかし、当然、僕は否定する。
「いや、こいつは妹だよ」
「妹なの…? 似てないね」
どうせ、妹と似てなくて…(以下略)
「兄がお世話になってます!」
妹が元気よくあいさつした。
「クラスメイトですか?」
「学年は同じだけど、クラスは別よ」
僕は妹に紹介する。
「彼女は新聞部の小梁川さん」
そして、妹を小梁川さんに紹介する。
「こいつは妹の美咲」
「一緒にカフェだなんて、仲いいのね」
「まあね…、今日はちょっとお願いしてたことがあって、一緒に買い物してたんだよ」
「へえ。買い物まで一緒に。本当に仲が良いのね」
「別に良くないよ」
僕は答えた。
「良くないです」
妹も反論する。
「そうかしら。世の中には、口も利かない兄妹も居るぐらいだから、それに比べたら仲が良いわよ」
「そうかな? 小梁川さんは、きょうだい居たんだっけ?」
「兄が居るって言わなかったっけ?」
「そうだったね」
全く忘れていた。
「で、仲は良いの?」
「うちは普通ね」
「あ、そう」
普通がどういうものなのかわからないが、面倒なので突っ込まないことにする。
小梁川さんが話題を変えて来た。
「そういえば、武田君が副会長になってから、順調に生徒会の支持率が上がっているみたい」
「それはよかった」
そうだった、生徒会の支持率を上げるために副会長を引き受けたんだっけ…。生徒会の仕事ほとんどしてないな…。“居るだけ副会長”だから別にいいんだろうけど。今後の予定は、掃除に呼ばれてるぐらい。
「ねえ。来年の生徒会長選挙に出てみたら? 知名度から鑑みて、きっと、圧勝するよ」
小梁川さんは唐突に提案してきた。
当然、僕は拒否する。
「いや、生徒会長みたいな大役は僕には荷が重すぎるよ」
「そうなの、残念ね。ひょっとしたら、武田君が立候補表明するだけで、他のみんなは諦めて立候補しなくなるかもよ」
「1人しか立候補しなかったら、選挙はどうなるの?」
「無投票で当選よ」
「へー」
「まあ、今までそういうことはなかったみたいだけど。武田君が史上初の無投票生徒会長になれたかもしれないのに」
「それって、名誉なことなの?」
「さー。見方によるんじゃない?」
「あ、そう」
まあ、立候補は絶対しないから関係ないな。
そういえば…、雪乃が生徒会長選挙に出たいとか以前言ってたな。彼女はそのためのコネづくりで生徒会役員になったんだった。
この話を全然しないから忘れてたが、雪乃は本当に来年の生徒会長選挙に立候補するんだろうか?
今度、確認してみよう。
「じゃあ、行くね」
小梁川さんは手を振るとその場を去って行った。
「お兄ちゃん」
妹が僕の事を睨みつけて来た。
「まさか、あの人も毒牙に掛けようとしてないよね?」
「はあ?! 毒牙ってなんだよ?」
「最近、お兄ちゃんは女をたらしこんでばかりだから」
「たらしてないよ。どういう目で僕を見てるんだよ」
「そういう目だよ。部屋に女連れ込んで、いちゃつくし…、まったく」
「最近はそう言うことしてないだろ? それに2回だけじゃないか」
「わたしが居ないうちに、他にも連れ込んで、やってるかもしれないし」
「やってるってなんだよ…。もう、いちゃつく相手もいないよ」
「ほんとかなぁ…」
妹は僕の言葉を信用していていないようだ。
怪訝そうな顔をしてストローでジュースをすすった。
僕もコーヒーを一口飲む。
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