雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

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谷島修一
谷島修一

女装男子高校生の日常

公開日時: 2025年2月1日(土) 20:20
文字数:2,226

 ジャージャー麵を食べた翌日。

 今日は、昼休みというのに僕はクラス委員長ということで、島津先生からの拒否できない依頼で職員室に行ったりしていたので、少し遅くなってしまった。


 ちょっと遅れて中庭のベンチまでやってきた。

 毛利さんは弁当を食べずに待っていてくれて、申し訳ない気持ちでいっぱいである。

 一番悪いのは、用事を言いつけてきた島津先生なんだけど。


 僕らは、弁当を食べながら世間話をする。

 まずは、昨日、食べたジャージャー麵が美味しかったという話題。

 僕はほとんど新大久保界隈に行ったことはなかったのだが、毛利さんは何度か行ったことがあるそうで。

 女子は韓流、好きだよな。なんでだろ?


 そして、毛利さんは怪文書の犯人“P”は、成田さんじゃあないかとまだ疑っているという。

 確かに成田さんがノリノリなのは、ちょっと不自然だと感じたが、だたのミステリー好きなのかもしれないし。

 コーラス部の楽譜が盗まれた時も、成田さんが音楽室には出入りしてなさそうだという風に片倉先輩や小梁川さんも言ってたしな。


 そういえば、昨日、“P”が何か盗んでいるはずなのだが、今のところ小梁川さんからは何も言ってきていない。

“事件”は、なかったのだろうか?


「ちょっと、お手洗い」

 毛利さんはそういうと、ベンチを立ち上がり、中庭を一旦去って校舎の中へ入っていった。


 そろそろ昼休みも終わりなので、中庭のいくつかあるベンチに座っているのは僕1人となった。

 しばらく毛利さんを待っていると、見慣れない女子生徒がスカートたなびかせて、早足で中庭にやってきた。

 胸のリボンの色から、あれは1年生だな。

 ちなみに3年生は赤、2年生は黄色、1年生は青となっている。

 などと思っていると、その女子生徒は僕の座っているベンチまでやって来て、隣に座った。


 えっ? 何?

 他のベンチがいくらでも空いているのに、なぜ、わざわざ僕の隣に座る?

 さすがの僕も気になって、隣に座った女子をチラリと見る。

 ショートボブの華奢で小柄な女子。

 彼女は僕のことが気になるのか、僕をチラチラ見ている。

 そして、何か言いたそうにしている。


 ちょっと、気まずくなってきた。

 こんな時、何か言えばいいんだろうか?

 いや、こんな時にぴったりなイカしたセリフがあるじゃあないか!


「今日は……風が騒がしいな…」


「プッ!」


 笑われた。


「あはははは! やっぱり武田先輩って面白い!」

 ショートボブ女子は大口を開けて笑う。


「はあ?! 全然面白くない!」

 僕は、精一杯のイカしたセリフを笑われたので、ちょっと不機嫌に言った。

「で、君、誰?」


「ワタシは、1年の支倉颯太っていいます」


「そう、僕は武田純也。2年」

 僕は違和感を感じて、繰り返した。

「ん? 颯太?」


「はい! ワタシ、戸籍上は男です!」

 ショートボブ女子…、いや、ショートボブ男子は元気よく答えた。


「お、おおう…。君が有名な女装男子…?」

 見た目、完璧に女子だ。

 声は、男子とも女子ともとれる高さの声。


「はい!」

 支倉さんは話を続ける。

「さっき新聞部に入部したいと、入部届を小梁川部長に出してきたんですけど、 武田先輩の話になって」


「え? なんで?」


「小梁川部長曰く、『武田先輩とは仲よくしとけ』って。それで、今、中庭に居るのをたまたまお見かけしたので、ご挨拶をと思って」


「ああ…。そう」

 小梁川さんが僕と『仲良くしとけ云々』とは、新聞部のXのネタにしたいからなのだ。

 あんまり、うれしい話じゃあないな。

 でも、とりあえず挨拶をしておく。

「まあ、よろしく」


「はい! それに先輩たちが生徒会長選挙で、男子のスカート着用を校則に盛り込もうとしている話も聞きました!」


「ああ、それね…。雪乃…、織田さんが生徒会長選挙に出るときの公約だよ」


「武田先輩も副会長になるんでしょ?」


「いや。それは決定じゃあないよ」


「副会長候補として生徒会長選挙対策会議に出てるって、小梁川部長が言ってましたよ!」


「まあ、会議に出てるのは確かなんだが…。副会長は決定じゃあない」


「ともかく! 校則があるか無いかで、僕の高校生活の日常が変わってくるんです! 自由な校風の雑司ヶ谷高校に入って、やっと女子の制服を着れたのに、これが着れなくなったら悲しいです! だから頑張ってください! じゃあ!」

 そういって、支倉さんは立ち上がって、元気よく小走りで校舎に消えていった。

 でも、よりによって新聞部に入部かよ…。


 それと入れ替わりに毛利さんが中庭に戻ってきた。

 僕の隣に座ると尋ねた。

「今の誰?」


 見てたのか。

「あれは、支倉さん。噂の女装男子」


「えっ?! 男の子?!」

 毛利さんは驚いて僕の方を向いた。


「そうみたい」


「てっきり女の子かと…。それで、なんで純也君と話をしていたの?」


「なんでも新聞部に入部したから、挨拶に来たとかで」


「新聞部? 純也君とは関係ないよね?」


「僕にはないんだけど、新聞部には僕をイジる目的であるみたい」


「ふーん。そっか…。また、新しい女でもできたのかと思った」


「支倉さんのこと? 新しい女って…、今までもそんな相手いないじゃん?」


「いるじゃん。雪乃ちゃんとか、アイドルの細川さんとか」


「あの2人とは、そういう関係じゃないでしょ?」

 まったく、毛利さんをはじめみんなは、僕のことを誤解しているな。

 そして、たまに悠斗とイチャついている毛利さんに言われる筋合いはない。


 毛利さんは続ける。

「それに純也君…。ひょっとして、男子も大丈夫とか…?」


「それはない」

 などと話をしていると、予鈴が鳴ったので僕と毛利さんは教室へ急いだ。

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