恒例のお弁当交換会で、僕と毛利さんと雪乃は中庭のベンチで並んで座って弁当を食べていた。
そして、いつものように支倉君も並んで座っている。
世間話の途中、僕は雪乃に話しかける。
「そういえば、ヌードモデルはどう?」
「『どう』、とは?」
「い、いや。うまくいってるのかなって」
「ええ。ただ、じっとしてるだけだからね。今日の放課後まで美術室に行ってモデルをやるわ。でも、シーツで体を覆っているからヌードって感じじゃないわね」
「ふーん」
「なに? 純也、私のヌード、見たいの?」
「え? い、いや、別に」
見たいけど。
「いつでも見せてあげるけど」
「お、おう…」
そんなやり取りを見て支倉君が突っ込んできた。
「本当に、武田先輩と織田先輩は付き合ってないんですか?」
「つ、つき合ってないけど」
僕は否定する。
「そうね、つき合ってないのよ。ただのキス友」
雪乃はニヤリと笑いながら言う。
「それでもすごいですね!」
支倉君は感心したように言う。
「さすが、武田先輩は遊び人ですね!」
「僕は遊び人じゃあない」
「みんな遊び人って言ってますよ!」
この話題は嫌なので、話を変えるため毛利さんに話しかける。
「そういえば…。毛利さん、LINEでも送ったけど、お城巡りは高遠城に行くよ。5月5日でいいかな?」
「うん。いいよ」
毛利さんは快諾した。
「高速バスと路線バスを乗り継ぎで、バスタ新宿~伊那バスターミナル~高遠駅というのが行程。片道4890円で、4時間47分かかる」
僕は事前に調べておいた行程について伝える。
「ワタシも行きます!」
支倉君が元気よく割り込んできた。
「う、うん。いいけど」
支倉君は、前も付いて行きたいっていってたしな。
僕は話を続ける。
「朝、早いけど大丈夫かい?」
「頑張って起きます!」
僕は再び毛利さんに言う。
「旅費は、今日の放課後に先生もらいに行くことにするよ」
「私も一緒に行くわ」
毛利さんは言う。
支倉君は雪乃に話を振る。
「織田先輩は、一緒に行きませんか?」
「私は部活とか、いろいろ用事があるから、ちょっと無理ね」
「そうですか」
支倉君は残念そうに言った。
雪乃は演劇部だし、そっちの予定もあるのだろう。
そんなこんなで、放課後。
僕と毛利さんは職員室に行き、島津先生に高遠城に行くことを告げ、承諾をもらうと旅費をもらって、歴史研の部室にやってきた。
椅子に座って、ホッと一息をつく。
「でも、早く部員を見つけないと、残りのお城巡りに行けないよね」
毛利さんは心配そうに言う。
「うーん…、そうだよなー…」
僕は別にお城巡りに行けなくても構わないのだが。
でも、もし、毛利さんと2人きりで旅行に行けるのであれば、楽しいことが起こりそうなので、お城巡りに行ってもいいんだけどな。ゴム持参でな。
ただ、部員が増えないと、上杉先輩に折檻されそうだしなあ。
困ったな。
そうだ! 先日、生徒会室で却下されてた部活の申請書に載っていた生徒たちをスカウトしようと企んでいたのだ。
それはゴールデンウイーク明けにでもやるかな。
そのことを毛利さんに伝えて、しばらく世間話をしたりして過ごした。
あと15分程度で下校時間になったところで、毛利さんが少し恥ずかしそうに言ってきた。
「今って、2人きりだよね」
「え? そ、そうだね…」
「キス…、できるよね…」
「そ、そうだね…」
そうだった、この状況を有効利用しないとは、遊び人失格だな。
いや。僕は遊び人じゃあなかったな。
僕は椅子ごと毛利さんの隣に移動して、彼女の肩に腕を回してグッと身体を引き寄せた。
すると、その時。
「武田先輩! 緊急事態です!」
突然、ノックもせずに扉を開けて部室に入って来たのは、またもや支倉君。
僕と毛利さんはあわてて体を離した。
支倉君は僕らの様子から状況を察知して、気まずそうに言った。
「あっ…。すみません…。ワタシに構わず続けてください」
「もう、いいよ…」
僕はあきれるように言った。
「それより、緊急事態なんです!」
支倉君は再び言った。
「緊急事態の概要を述べよ」
「お、お、織田先輩が!」
「今度は何?」
「じゅ、じゅ、柔道をやるそうです!」
「はあ?! 柔道って、なんでまたそんなことに?! 昼休みはそんなこと言ってなかったよね?! 演劇部の役柄とか?」
僕は、すごく驚いて尋ねる。
「なんでも女子柔道部が試合に出るには5人いなければならないんですが、今年は新入部員が1人しか入らなくて、人数が1人足りなかったそうです」
「いや、それで、なんで雪乃が足りない部員の補充をするの?」
「それはよく知りません!」
「なんだよ…」
「これから、織田先輩に聞きに行こうと思っています!」
なるほど、下校時間も近いから、ヌードモデルも終了だろうしな。
「僕も理由を知りたいから、一緒に行くよ」
雪乃って柔道やったことなかったよな、前に寝技には興味を示していたけど。
そんなわけで、僕と支倉君と毛利さんは歴史研の部室を後にして美術室に向かった。
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