次の日、放課後は部室に寄らず、図書室へやって来た。
今日は生徒会長選挙の応援演説を考えなければならないので、図書館で何か参考になる本を探すためだ。
相変わらず、図書室は空いていた。
スピーチの内容を作る本はあまりなかったが、適当に見繕って借りることにした。
『犬でもわかるスピーチの作り方』
『猫でも感動するスピーチの話し方』
こんなところかな?
これら2冊を借りるため、図書室の受付カウンターへ向かう。
受付には、おかっぱメガネの見知った顔が居た。
同じクラスの文学少女・毛利歩美だ。
図書委員として、火曜、金曜の週二日、図書室に居る。
彼女は読んでいた本を閉じて顔を上げた。僕はその本の表紙に視線をやった。
『変身』/カフカ著
知らない本だった。
表紙に何か昆虫の絵がかいてあるけど、映画『スターシップトゥルーパーズ』みたいに、昆虫型エイリアンが攻めて来るSF小説だろうか?
それより、僕は自分が借りるための2冊の本を差し出した。
「武田君が本を借りるなんて、珍しいね」
彼女は本のタイトルを確認してから挟まれた貸出カードを抜き取る。
「いやー。応援演説を引き受けてしまって、内容を考えないといけなくなってしまってね」
「大変そうねぇ。そういえば、歴史研究部はどう? 週末に旅行も行ってたみたいだけど?」
「先輩2人の押しが強くて、圧倒されっぱなしだよ」
「ふーん、そうなんだ」
彼女は本の貸出カードに日付のハンコを押していく。
「そういえば、週末にみんなで旅行に行った話は、誰に聞いたの?」
「足利君よ」
「そうか。日本100名城ってのがあって、それを2年かけて全部回るっていうのが、部の活動なんだよ」
「100も回るのって、結構大変そうね」
「週末で5つ回ったんだけど、大変だった」
「どこかに泊ったの?」
「名古屋で一泊したよ」
「先輩たちと同じ部屋?」
「いやいや、別だよ。さすがに女子と同じ部屋はまずいでしょ」
僕は改めて本2冊を彼女から受け取った。
「私も入ろうかなあ」
「え?、何に?」
「歴史研究部よ」
「えー。あまり、お勧めしないよ」
「どうして?」
「先輩2人の個性がキツイ」
「でも、伊達先輩に勉強を教えてもらえるんでしょ?」
「うん」
「それは魅力的」
僕は毛利さんが中間テストでどれぐらいの成績だったか知らないが、耳に入ってきた情報だと彼女も成績優秀者のはずだが。わざわざ伊達先輩に見てもらう必要あるだろうか。
「じゃあ、帰るよ」
僕は受け取った本を鞄にしまうと、毛利さんに手を振った。
「またね」
毛利さんも手を上げて挨拶を返した。
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