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じゃくまる
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第6話 天照の計画

公開日時: 2020年12月5日(土) 21:12
文字数:3,739

 今ここに邪悪なる鬼である酒吞童子は滅された。 

 その証拠にボクの足元には、はいていたショートパンツをはぎ取られて下半身を丸出しにされた鬼が転がっている。 

 ボクは復讐を果たしたのだ。 

 

「酒吞童子様ははかない人なのですね。意外です」 

「酒吞童子だけだよ? 茨木童子も熊童子も金熊童子も星熊童子もはいてるんだから。意外とかわいいやつをね」 

「くーちゃんが寝るときははかない主義の子ということはよくわかったわ。今度お泊りしましょう」 

「お断りするからね? あーちゃん」 

「天照様、それはずるいです。私もご一緒します。いえ、間違えました。暮葉様のお付きとしてはしっかり護衛しなくてはいけませんものね」 

「雫ちゃん、真顔で言うのはやめてください。寝室出禁にしようか?」 

「ちょ、まってください。狗賓ジョークです。ちょっとした茶目っ気です」 

 ボクの言葉に慌てだす雫ちゃん。 

 真っ白な髪と同じ色の尻尾がピンとたち左右に振れていた。 

 顔の表情は特に変わらないけど、尻尾の振れ方を見る限り相当焦っているようだ。 

 一種の興奮状態であることは間違いない。 

 

「そんなに尻尾振ってまでアピールしなくていいから。出禁にはまだしないから安心していいよ」 

「うぅ、そんなに尻尾に出てましたか? お恥ずかしい」 

 雫ちゃんは感情が表情に出にくいタイプだけど、尻尾である程度推察することができる。 

 そんな表情に出にくい雫ちゃんも、今はしょんぼりしている。 

 

「ところであーちゃん、何か用事があったんじゃないの? スサノオ兄様も来てるんでしょ?」 

「あ、忘れてた!」 

 ボクと雫ちゃんのやり取りを微笑まし気に眺めていたあーちゃんは、ボクの言葉で本来の目的を思い出したようだ。 

 スサノオ兄様も来ているくらいだし、一応用事があったはずなんだよね。 

 

「あたしもちょっとだけvtuberやってみようかな~と思ってるんだ。で、スサ君は巻き添え。というか生贄?」 

「生贄?」 

 あーちゃんの口から出た不穏な単語にボクは思わず聞き返してしまう。 

 

「そうそう。あたしもくーちゃんとコラボしたいんだけど、慣れるまで一緒にやる子が必要だったのよ。そこで白羽の矢を立てたのが、クシナダちゃんなんだけど、スサ君が猛反対しちゃってね」 

「だろうね~。可愛い奥さんを世間の目に振れさせたくはないだろうし、気持ちはわかるよ。うん」 

 スサノオ兄様は愛妻家であり恐妻家だ。 

 ボクから見てもとても可愛らしいクシナダヒメのためなら、害悪となりそうなら世界中の男性を滅ぼしかねない。 

 それくらい重い愛情を持っている。 

 そんなスサノオ兄様が一時とはいえ、あーちゃんと一緒にvtuberとして表に出るなんて反対しないわけがなかった。 

 

「で、生贄って?」 

「うん、だから、スサ君にも一緒にデビューしてもらうことにしました。バ美肉で」 

「は?」 

 あーちゃんから出た予想外の言葉に、ボクは思わず聞き返してしまった。 

「バ美肉で?」 

「そ、バ美肉で」 

 あのごつくてむさ苦しい古代の益荒男といった感じの大柄なスサノオ兄様が美少女の身体にに受肉するですと!? 

 

「で、本人には?」 

「まだ。一応益荒男とだけ伝えてある」 

 なんという詐欺。この子、弟をはめる気満々ですよ。 

「実態と乖離してたらどうするの?」 

「大丈夫、クシナダちゃんもやる気満々だから。事前に『文句言いそうなら私が両手を組んで上目遣いでお願いするから大丈夫です』って言ってたから」 

「あはは……」 

 ボクは哀れな生贄となったスサノオ兄様に同情するのだった。 

 

「うぅ~。寒い。なんで俺のショートパンツ脱がすんだよ」 

 ボクとあーちゃんが会話をしていると、下半身丸出しの酒吞童子が起きだしてきた。 

 酒吞童子は人間の姿の時と鬼の姿の時ではあまり差異はない。 

 肩口まで伸ばした意外にもきれいに手入れされた黒髪に、きめ細かい白い肌、小さめな薄桃色の唇、そして少し大きめな黒い瞳の眼をした身長が小さめな美少女という姿が基本だ。 

 そこに角が生えるかどうかの違いしかない。 

 

「はいてないはいてないってうるさいから、本当にはいてないやつはこいつです! ってあーちゃんたちに見せてあげただけだよ」 

「だったら一言言えばいいだろ。わざわざ酒飲ませて眠らせることもないだろ。俺がお前の酒を断らないの知ってるくせに、奉納済みの酒飲ませるなんてひどいぞ」 

「あはは、ごめんごめん。というか下はきなよ? いつまで丸出しにしてるのさ」 

 酒吞童子は上体を起こすとそのまま胡坐をかいて座り込んでしまっていた。 

 ボクならすぐにでも下をはくところだけど、酒吞童子はすぐには動かなかった。 

 理由は単純で、一応一目は気にするが気を許した仲間しかいないときはあまり気にしなくなり大胆になるのだ。 

 前にうちに泊まりに来た時なんかは他の鬼はパジャマを着ているのに対し、部屋の中では寝るときも含めて酒吞童子だけは全裸だった。 

 

「んだよ。下着はいてほしいんならお前の貸せよ。サイズ同じだろ」 

「はぁ? いいけど、なんでサイズ知ってるのさ」 

「んなのどう見てもわかるじゃねえか。違うのは上のサイズくらいじゃねえの?」 

 そう言って酒吞童子は自分の胸部を指さす。 

 つられてボクもそこを見る。 

 

「は? 誰に断って成長してるの? なんで? どうして?」 

 酒吞童子め、いつの間にか微成長していた。 

 微々たる差ではあるけど、ボクからしたらとんでもない裏切りに思えてならなかった。 

 なので詰め寄った。 

 

「ちょ、ちけえちけえ! 最近ほんの少しだけな。まぁあれだ鬼のほうが少し早いんだよ。同じ肉体年齢でも妖狐はまだしばらく無理じゃねえか? 俺もお前も妖種全体から見たらまだ幼子なんだしよ」 

 この裏切り者はぬけぬけとそう言ったが、言いたいことはわかっている。 

 ボクたちは人間の世界ではある程度人間と同じような成長をするが、十代からその差が如実に表れるようになる。 

 ボクたち妖種は十代から百代にかけてゆっくり成長し、二百代くらいになると人間の十代後半のような見た目へと変化していく。 

 もちろん個人差があり、弥生姉様のように小柄でも色々なところが成長したりする子もいれば、同じ肉体年齢でも酒吞童子とボクのように微妙な差が出たりもする。 

 ちなみに弥生姉様は今でこそ胸が大きくなっているけど、ほんの数年前まではボクと大差なかったのだ。 

 いくら個人差があるとはいえ、これはひどい話だと思う。 

 

「弥生姉様は選ばれし者なのか」 

「弥生姉は良い感じに成長するパターンに入ったよな。近い年齢のお前らだから、生姉にある程度先に持っていかれちまったのかもな。でもそれも今だけだろ? ならその差を楽しんでおけよ」 

「ぐぬぬ」 

 悔しがるボクの頭を撫でながらなだめる様にそう言う酒吞童子。 

 クラゲみたいな生態をしてるくせに、こういうときだけは人生経験が出ていて少し悔しい。 

 

「でも一番の例外はそこの狗賓だろうけどな。あいつ、見たところ俺らと変わらないだろ? なのに弥生姉より身長高くて、出るところは出てるぞ?」 

ボクは言われて雫ちゃんを見る。 

 酒吞童子の指摘通り、彼女は結構成長していた。 

 ただ狗賓の女性は小柄な体躯が多いため、高くなっても165cmがいいところだ。 

 雫ちゃんはすでに155cmほどあるように見えるので、そろそろ身長は頭打ちかもしれない。 

 

「雫ちゃん、ちょっとお話が」 

「あ、はい。暮葉様でしたらどうぞ? なんならベッドの上で……」 

 それから詳しい話を聞こうと雫ちゃんに声をかけると、彼女は顔を赤くしながらボクにそう言ってきた。 

 

「させないわ!」 

 すかさず割り込んでくるあーちゃん。 

 その素早さは神の如しと言えるだろう。 

 一瞬の間にその身をボクと雫ちゃんの間に割り込ませてきたのだ。 

 

「あたしの眼が黒いうちは許さないわよ! どうしてもというならあたしを倒していくことね!」 

 あーちゃんはボクたちとそう変わらない体躯で胸を張りながらそう言った。 

 ただ悲しいかな、あーちゃんは小柄で平坦なまま成長してしまったのでちびっこが虚勢を張っているようにしか見えないのだ。 

 

「ついに神殺しの時代再びというわけですね。私、負けません」 

 立ちはだかるあーちゃんを見て、雫ちゃんは静かに神殺しを決意していた。 

 この二人怖いんですけど。 

 

「ところであーちゃん、お話って美少女になったスサノオ兄様の話とあーちゃんたちのデビューのことだけ?」 

 あーちゃんの要件が終わったなら後は遊ぶだけなので、一応確認しておく。 

 

「あ、あとね。人間って二次元行きたいっていうじゃない? なんなら推しに会いたいっていうじゃない? だからね、妖精郷の一部にバーチャル街作ろうかなと思ってるのよね」 

 ボクのほうを振り返りながらあーちゃんはそう言う。 

 

「バーチャル街?」 

 聞きなれない言葉だ。 

 一体どんな計画なんだろう。 

 まさか二次元世界を三次元に作るとでもいうのだろうか。 

 

「自分のvtuber用キャラクターもしくはVR用キャラクターを持っている人限定で、妖精郷にいる限りはその姿になって生活することが出来るっていう計画なの。もちろん触れることもできるし、男性も女性に、女性も男性になれるわよ? どう?」 

 如何にも名案でしょ!と言わんばかりに胸を張る最高神の言葉にボクは頭を抱えたくなった。 

 

「ちなみに月読には?」 

「まだ。あの子にはあとで伝えるわ」 

 しれっとそう言うあーちゃんを見て、ボクは月読に同情するのだった。 


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