妖種と人間が一緒にいることは珍しいことではない。
とはいえ、寿命の違いからいずれは別離する関係でもある。
なので、妖種も好き好んで人間と関係を深めたりはしない。
ネックなのはただ一つ、早い別離だけなのだ。
「雫ちゃん、あの妖種と人間のペアだけど、どう思う?」
ボクは到着した料理を食べつつそう問いかける。
「私の見たところカップルでしょうね。男性が妖種で女性が人間のパターンですか。生まれる子供は半々ですね」
ボクの見ているカップルを見ながら、雫ちゃんはそう評した。
妖種と人間のカップルの場合、男性が妖種で女性が人間だと生まれてくる子供はおおよそ半分の確率で妖種か人間のどちらかになる。
もし双子が生まれた場合、最悪なのはどちらかが人間だった時だろう。
もちろん兄弟でもそうだけど、兄弟間で寿命が違うことが確定してしまうと、その後は非常に辛いものとなることが多い。
ファンタジー世界みたいに、ハーフ○○〇といった半分だけその種族の特性があるといった子供は生まれないので、どうしてもこういう問題が発生してしまう。
逆に女性が妖種で男性が人間の場合、とある特性により生まれてくる子供はすべて妖種となる。
これは、妖種女性のほうが遺伝的に勝ってしまうため、人間の子供が生まれなくなってしまうという特性によるものだ。
しかも妖種女性は男児より女児を生む確率が高く、下手をすれば全員女児の可能性すらある。
現在妖種人口における女児率は非常に高く、男性が極端に不足している。
なので、一人の男性に対して複数の女性を嫁がせるということがよく起きている状況だ。
もはやこれは仕方のないことであり、一部はどうしようもないので人間と子供を作るようになる。
まぁ結局のところ、妖種女児が増えるのは変わらないわけで、解決策にはならないわけだけど。
いずれは人類が妖種女児によって駆逐される可能性もあるので、どうにかしないといけない話ではある。
今のところは大丈夫なのだが……。
「とりあえず三百歳くらい生きる人間が増えれば、ある程度複数の妖種女児と婚約させるのはありなのかもしれないね」
ボクは何となくそんなことを口にした。
それを聞いた雫ちゃんは、若干眉をひそめながら言う。
「妖種女児と婚約させたらただの犯罪者ですよ? 少なくとも百年程度は幼いわけですから。それに、人間は一夫多妻制ではないので不可能です」
もっともである。
「じゃあ解決しないね~」
やはり一時的に性転換ができる特性を増やしたり活用しないといけないのかもしれない。
でもそれって、できる人そんなに多くないんだよねぇ。
「とりあえず母数を増やしても解決はしなそうですから、ある程度性転換が可能な薬品とかの作製が必要だと思います。そういえば、一時的な性転換薬が実験されているそうですよ? 知ってましたか?」
「えっ? なにそれ!?」
雫ちゃんが妙な情報を出してきた。
というか、どこ情報なのだろう?
「いえ、私も最近聞いたんです。なんでも、烏天狗のほうの製薬会社でそういう薬品の実験をしているらしくってですね。それぞれの天狗族から被験者を出すって話が出てるようなんです。狗賓は誰が行くんでしょうね」
いつのまにか烏天狗はそんな実験を始めていたらしい。
まぁうちにいる烏天狗はそんなに多くないので、ほとんど関わりないだろう。
特にみなもちゃんなんかは候補には上がらないと思う。
「妖狐族は変化できちゃうから候補になれないもんね」
「そうなんですよ。鬼族も何気に変化できてしまうので実験には不向きです。天狗族とか人狼とかあとは兎とかは変化できませんから、そこら辺の人たちは困ってる人が多いでしょうね」
雫ちゃんはそう周囲の分析をする。
なんだかんだいって天狗族って総じて情報を集めるのが上手だよね。
「人間形態になれる薬って作らないの? ぬりかべさんとか困ってるんじゃない?」
これはボクのちょっとした疑問だった。
そもそも、ぬりかべさんとかってどうやって増えてるんだろう?
人外の形をした、いわゆる妖怪の姿の妖種はまだまだたくさんいるのだ。
彼らの増え方は本当に謎で、妖狐族もだけどぬらりひょんさんですら把握していない。
「作ってはいるようですけど、続報はわかりません。そのあたりの情報はぬらりひょんさんに行ってるみたいですけどね」
う~ん、人間形態になれる薬については烏天狗とぬらりひょんさんの管轄なのかぁ。
でもぬらりひょんさんってなんだかんだ頼られるよね。
そのせいか妖怪の総大将ってイメージがあるようだけど、実際には長く生きているから生き字引みたいな扱いなんだけど。
「じゃあそのうち人間版ぬりかべさんとかそういうのが出てくるってことか」
「おそらくそうなりますね。なんだかんだ言って彼らも人間に交じって生活してみたいようですから」
「溶け込めない見た目だから疎外感感じてるって話は聞いたことあるなぁ」
やっぱりボクたち以外にも人間と一緒に暮らしたい妖種は多いんだなぁと実感できる話だった。
今現在近くでいちゃついている妖種と人間のカップルとかを見てもそう思うし、このカフェ自体もそうだ。
ボクたち妖種は、人間と共存したいんだなと感じることができる一日だった。
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