「御津(みと)、最近匂い変わった? どこか別の、ボクの知らない場所の匂いが混じってるよ」
ボクはくっ付いている御津の匂いを嗅ぎながら聞く。どうも最近、知らない匂いが混じっていて気になるからだ。
「うん。ちょっと昔、生まれ変わる前に管理していた世界がひどいことになっていたらしくて、そこの再生に行ってたの。まぁまだ準備中なんだけど」
「えぇっ!? 異世界に!? いいなぁ~、ボクはお母様がだめっていうからまだいけないんだよ。葛葉お母様はよく許してくれたね」
御津の母親は葛葉お母様、ボクの母親である天都お母様の双子の妹だ。同格であり、ほとんど同じ権限を有している美しくも強い妖狐の女性だ。
「そもそもお母様とお父様が原因だから、緊急事態として認めさせたの。生まれ変わるのはいいとしても、わたしの種族を勝手に変えちゃったの、あの二人だし」
少しむっとした感じで御津がそう言った。この膨れた顔をする御津も大変可愛らしくて大好きなので、抱きしめる腕にも力が入るというものだ。
「御津はいつも可愛いな~」
「もう。暮葉、苦しい」
同格で同性で同年代で家族、愛さない理由がどこにもなかった。妖狐族は特にこういった同性の家族間の結びつきが強い傾向にある。
「暮葉、もう一時間もそうしてるけど、飽きない?」
顔をこっちに向けて御津がそう問いかけてくる。
「全然飽きないよ? 御津は飽きた?」
「ううん。大丈夫。なんとなく落ち着くからそのままでいい」
やや恥ずかしそうに御津がボクにそう返事を返した。やっぱり御津は可愛い。
「ところでさ、御津の知ってる異世界って魔法とかあるの?」
最近のボクの興味の一つに異世界があることは言うまでもないだろう。でもボクがそこに行くことはできないので、お土産程度にでもそういう話を聞いてみたいと思っている。とは言っても、話のネタのために危険を冒してまで行ってほしくないので、ほどほどに聞けるならそれでもよかった。
「一応あるよ? 所謂詠唱呪文や無詠唱呪文とか」
「おぉー!! あるんだ!? 御津も使えるの!?」
御津の回答にボクは大興奮。御津はどんな魔法を使うんだろうか。ものすごく気になる。
「普通のも使えるけど、ほとんど使わないよ? そもそもわたし、管理者だから詠唱じゃなくて命令だし」
御津はボクにハグされながらそう答える。
「そうなんだ? ちなみにどんな感じで命令するの? もしボクがそこに行ったとしたら同じことができたりする?」
「えっとね、わたしはわたしたちのお父様である夕霧宗晴の元同僚で、始まりの七人のうちの一人なんだけど、それぞれにラテン語の数字でコードが割り振られてるの。それを使って命令するんだ」
「へぇ~、ちなみにどんなの?」
「わたしは八番目だから『オクトー』だよ。ちなみにお父様は二番目で『ドゥオ』。一番目の『ウーヌス』は廃番になってるから存在しないよ」
「おぉ~!! なんかすっごいね!! ボクも使えたらよかったのになぁ~」
御津が転生していることはお母様たちから聞いていたのでそこに驚きはない。前がどうであれ、今はボクの大切なかわいい姉妹なのだから愛し可愛がるのは当然だと思っている。
そんな御津はボクを見ながらこう言った。
「暮葉は新しい九番目の管理者として登録されてる。コードは『ノウェム』。ラテン語で9という意味。ここでは使えないけど、中間世界とかに行くと使えるよ。『アクセス アーカイブ オクトー』のように最後に自分のコードを告げると認証される仕組みになってる」
「そうなの!? やったーーーー!!! でも、こう言っちゃなんだけど、呪文っぽくないよね。データベースとかにアクセスしそうな感じ」
「ふふ、そうだね。実際データを管理する場所にアクセスしてるから。使い方の例としては『アクセス アーカイブ オクトー クリエイト ニューワールド』って告げると、新しい世界が作れるよ」
「なんかゲームっぽい!!」
御津の言った例はものすっごくゲームっぽかった。サンドボックスゲームとかきっとこんな感じだよね。
「暮葉楽しそう」
そんなボクを見ながら御津は微笑んだ。
御津はボクと双子かというくらいそっくりな見た目をしている。違いは一人称や色といったところだろうか。
「うん、ものすっごくワクワクして楽しいよ!」
「じゃあ今度、連れて行ってもいいかお母様たちに聞いてみるね? 助手としてなら大丈夫だと思うから」
「やったああああ!!」
思わぬ御津の提案にボクのテンションは爆上がりした。御津最高!!
「喜んでくれて嬉しい」
御津はそう言うと、ボクに体重を預けるのだった。
「暮葉様と御津様、すごく仲良しですよね」
「お? 雫ちゃんだ」
ボクと御津が仲良くイチャイチャしていると、狗賓の雫ちゃんがやってきた。
ここ最近忙しそうにしていたのであまり話せなかったけど、今日は時間があるようだった。
「雫ちゃん、最近忙しそうだったけど何かしてたの?」
ボクがそう尋ねると、雫ちゃんは少し考えてからこう言った。
「はい、御津様関連で少し調整してました。護衛の選出とかそのあたりも含めてですけど。それと、暮葉様に天都様から手紙を預かってきております」
そう言うと雫ちゃんはボクに一枚の可愛らしい封筒を手渡してきた。
お母様お気に入りの桜色の封筒だ。
「近くにいるんだから直接私に来ればいいのにね」
「天都様は各種調整でお忙しいですから仕方ありませんよ。今回のお手紙もその件です」
「ふぅん」
実際お母様が何をやっているのかはわからない。けど、忙しい理由がこの手紙にあるなら、読んでみるしかない。
『暮葉へ
今回、御津の件が落ち着いたら、御津と共に御津の管理する世界へ一時的な見学をしに行くことを許可する。
くれぐれも無理はしないように』
「おぉぉぉぉ。まさかの許可!」
ボクは手紙の内容にうち震えていた。まさか御津がお願いする前に許可が出るとは思いもしなかったからだ。ただ問題は御津の現地での進捗状況なわけで……。
「御津、お母様から許可出た!」
「おめでと~。これで一緒にいけるねぇ~」
「ありがとう。でも問題があるんだよね」
「問題?」
「うん。御津の進捗次第らしいんだけど……」
「あぅぅ……」
ボクが御津にそう尋ねると、御津は唸って黙り込んでしまった。どうやら芳しくないようだ。
「そんなに焦らなくていいからね? いつでも待ってるし」
「うん、ありがとう」
ボクと違って御津は放ってはおけないくらいマイペースな女の子だ。無理して失敗されても困るので、ゆっくりのんびりとやってほしいと思う。
「そういえば、雫ちゃん。調整って何してるの?」
「御津様と暮葉様の護衛やお付きは全員女性にしなければなりませんので、そういった調整ですね。御津様の異世界行きの際もある程度人を出しましたが、まだ追加が必要ですので。それでは、また後で時間を作りますので失礼しますね」
そういうと雫ちゃんは部屋を出ていった。相変わらず真面目である。
「御津も大変だね~」
「ほぇ? でもあっちには一人だけ例外定期に男性いるよ? お母様も知ってるし」
「そうなんだ? どんな人?」
ボクにくっついてのんびりしていた御津は、ボクを見上げながらそういった。
それと御津の選んだ男性も少し気になる。
「ん~? 昔から執事してくれている古い部下だよ。『冥王』って呼んでる」
「へぇ~、そうなんだ。今度教えてね」
「うん。暮葉にも仕えるように言っておくね」
そう言うと御津は再びボクにくっついて、胸元をもふもふしだした。いつの間にか膝からずれ落ちて胸の位置に頭が来ていた。
「まったくもう」
「えへへ~」
それからボクと御津はそのまま一緒にお昼寝をした。
時々ファンタジーな話が出ますけど、基本的には現代で配信したり生活したりします。
妖精郷部分とかは現代ファンタジーな感じですが、メインじゃないです。
異世界の細かいことは別の物語で作ります。
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