鬼族。
それは頑丈で力強く、最も生命力に溢れた理不尽な種族のこと。
馬鹿かと思われがちだが、実は頭が良い。それ故、敵に回すと厄介なことこの上ない。
鬼には有名どころもいるが、無名でも強力な者も多数存在しているため、なめてかかるのは大変危険である。
そんな鬼の一人が亜寿沙姉様だ。
「こら、酒呑童子。そんな格好で寝てないの。人様の家ではしたないでしょ?」
「うるさいなぁ〜。疲れてるんだよ。ちょっとくらい許してくれたっていいだろ?」
「だめに決まってるでしょ? ほら、暮葉ちゃんも見てるわよ?」
「んなこといったってよぉ。俺の特権ってことでいいよな? 暮葉」
人間界のボクの部屋で、酒呑童子が寝転がっていた。
まぁ具合悪そうだったので寝ることを許しているわけだけども。
「いいけど、なんでそんなに具合悪そうなのさ? 理由によっては亜寿沙姉様側につくよ?」
「うぅ〜。こんなに具合悪いのはあいつの寄越してきた酒を飲んだ時以来だ」
酒呑童子がだるそうに布団に突っ伏しながらそんなことを呟く。
「亜寿沙姉様、あいつって?」
「えっとね。源頼光っていう人なんだけど」
「あー。って、もしかして、酒呑童子が具合悪そうにしてる理由って二日酔い?」
なんだか、酒呑童子の具合が悪い原因がわかったような気がした。
「えぇそうよ。転生して若返ってるのに、昔のようにお酒を飲んで失敗したってわけ。あほでしょ?」
「あほだね」
「あほいうなよぉ」
まったくあほである。
「自業自得なんだから我慢しなよ? ほら、亡者を地獄に連れて行く鬼も似たようなこと言うらしいじゃん」
「あれは意味がちげーよ。たくよぉ」
「これはザマァって言うべき?」
「やめろおおおお」
ボクの一言を聞いた途端、酒呑童子が頭を抱えてジタバタしだした。
実にざまあない姿である。
「大体、未成年なのに飲むから悪いんだよ? 反省してよね?」
「ぐぬぅ」
未成年の飲酒は、たとえ親に勧められてもだめです。
しばらく突っぷす酒呑童子をいじったあと、彼女のために食べやすそうなお粥を作ることにした。
とりあえず卵粥あたりでいいかな? ちなみに酒呑童子は梅干しが苦手だったりする。
なんでも昔、それで嫌なことがあったらしく、それから苦手になったのだとか。
まぁ梅は好き嫌いの分かれる食品なので仕方ないと思う。
「それにしても、お酒強いと思ってたけど、やっぱり転生の影響ってあるのかぁ」
まぁ何にしても、お酒の失敗で懲りないあたり、酒呑童子もなかなかあほであると思う。
「よーし、できたっと。いい加減ボクも料理のレパートリー増やさないとなぁ。うちじゃ宗親兄様が一番料理できるんだよね。時点で弥生姉様、その次が葵姉様。ボクが一番下か」
余談だが、天津お母様は料理があまり得意ではない。でも葛葉お母様は料理が上手だ。
双子の姉妹でこうも違うものなのだろうか。
そんなくだらないことを考えながら、酒呑童子のいるボクの部屋へと卵粥を持っていく。
「酒呑童子、卵粥作ってきたけど食べる?」
未だ突っ伏している酒呑童子は、ボクの声を聞くと「食べる」とだけ言って身体を起こした。
「で、大丈夫なの?」
普段とは違い、弱々しい酒呑童子の姿に、ボクは少し心配になる。
ちなみに、酒呑童子は見た目だけならものすごくおしとやかそうな美少女である。
きれいな黒髪に、白い肌、薄桃色の唇に大きめの目と映える二重。胸は小さいけどコンパクトにまとまりつつも美しさすら感じさせる、そんな容姿をしている。おそらく男の子なら襲いたくなってしまうだろうと、ボクは思う。
そんな美少女がけだるげに、白い脚をむき出しにしながら寝転がっているわけだ。
まぁ今は起き上がっているけどね。
「んだよ。俺の方をじっと見てよ」
少し不機嫌そうに酒呑童子はそう言った。
「別にー? ただ普通にしてれば美少女なのに、口を開くとガサツだからもったいないな〜と思っただけ」
「んだよそれは。大体、俺は男にモテたことはねーぜ?」
満更でもなさそうな顔をしつつ、酒呑童子はそう言う。
「本当にもったいないわよね〜。もう少ししつけたほうが良いのかしら?」
そんな酒呑童子の姿を見て、亜寿沙姉様がため息を吐きつつそう言う。
まぁどうやっても酒呑童子は変わらなそうだけど。
「やーだよ。だってモテたって面倒だろ? 力では俺にかなうやつなんて多くないんだからよ」
実際、酒呑童子に勝てるポテンシャルを持つ者は多くない。
言うに及ばず、亜寿沙姉様なら余裕で勝てるわけなんだけども……。
「まぁそれもそうね。無理強いするのも良くないから、必要なときは言いなさい。いいわね?」
「あいよー」
酒呑童子はそう言うと、卵粥を食べ始めた。
「おっ、これは意外とうまいな! 出汁も利いてて、いやうまい!!」
「そう? 見様見真似でやってみたんだけど、うまくできたようで良かったよ」
実に美味しそうに食べる酒呑童子を見て、ボクも少し嬉しくなる。
「これは今後の暮葉の料理にも期待できそうだな。いやー、まさかこんなにうまいとは思わなかったよ」
酒呑童子は卵粥を平らげると、小さなお腹を撫でながらそう口にした。
これでいて、酒呑童子は意外とグルメだったりするので、ボクも褒められて鼻が高いというものだ。
「あら? そんなに美味しいの? 私にもちょうだいな」
「はい。今持ってきますね」
亜寿沙姉様のお願いを利いて、ボクはキッチンから残りの卵粥を持ってくる。
「どうぞ、亜寿沙姉様」
「ありがとう。どれどれ」
渡されたお椀を胸元へ引き寄せると、そのまま匂いを嗅ぐ。
「ふむふむ。良い匂いね。お味はどうかな〜?」
匂いを嗅いだあと、持ってきたスプーンを使ってお粥を口元に運んだ。
「うん、おいしい。お粥というより卵雑炊みたいなイメージね。でもとても美味しいわ」
よかった。どうやら亜寿沙姉様にも気に入ってもらえたようだ。
亜寿沙姉様も料理上手なので、受け入れてくれるか少し不安があったのだ。
「ふぁ〜。少し眠くなったな。暮葉、ちょっと」
「ん? なに?」
眠そうに欠伸をした酒呑童子に呼ばれたので、近くに行く。
すると不意に手を掴まれて引き倒されてしまった。
「ちょっ、あぶないよ!? ていうか、酒呑童子が下敷きになってるんだけど」
「いいんだよ。ちょっと眠いから抱き枕代わりになってくれねーか?」
どうやら酒呑童子は、ボクを抱き枕にするために呼んだようだ。
「あのさ、ボクは抱き枕じゃないんだけど?」
「細かいことはいいんだよ。抱き心地良いんだからこのままな」
「あほか」
わけのわからないことを言う酒呑童子の腕をどかそうとしたものの、酒呑童子のほうが力が強いため全く動かない。マジですか……。
「あー、体温が心地良いし、柔らかくて落ち着くわ」
「ボクはペットじゃないんですけど!?」
「あらあら、仲良いこと」
「亜寿沙姉様、見てないで助けてください」
「うっせーよ。俺は寝るからしばらくそのままな」
助けを求めるボクをニコニコ顔で見守る亜寿沙姉様と無防備に眠り始める酒呑童子。
なんだか今日は終始振り回されてる気がする……。
「うー。お酒臭い……」
近くで見ても可愛い顔をしている酒呑童子だが、今はその口からはお酒の匂いがしている。
正直酔いそうだ。
「まぁまぁ。もう少ししたら助けてあげるから、しばらくそのままね。たまには酒呑童子にもご褒美をあげなきゃね」
無責任にそう言う亜寿沙姉様。せめてお酒に寄ってない時にしてほしい。
「はぁ。まぁいいですけど。あとで酒呑童子には文句をいってあげるよ」
「ん〜。つるつるすべすべ。やわっこい」
「ぐっ。強く抱きつかれると苦しい……。ていうか、脚を絡めるな!」
「あらあら、うふふ」
どうにか酒呑童子の拘束から逃れようとするボクと、それを見てニコニコする亜寿沙姉様。
酒呑童子だけは幸せそうな顔をして眠るのであった。
ていうか、本当にお酒臭い。
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