この世界にはいろいろなジャンルの小説がある。
最近だと異世界転生や異世界転移が流行っているし、追放系といったものも流行っている。
それに照らし合わせると、ボクたち妖種と妖精郷、そして高天原の神々や異世界へと転移できるシステムがあるこの世界は、現代ファンタジーとでも言うべきなのかもしれない。
とまぁ、そんなことをボクは一人のオタクとして日々思っているわけだけど、別に人間界になにか影響があるかと言うとそれほどではないと言える。
まぁ、若干日本のお金周りが良くなってる点を除けば……。
現代日本には特殊な法律がいくつか制定されているし、妖種を新たなる住人として認める法律も存在している。
新たに作られた役所の課には、異世界へ行く資格を発行する部署があったり、異世界からの持ち帰り品について検査・売却する部署があったりするようだ。
まぁ大抵の場合、こちらに持ち込む前に中央管理世界である程度検査・売却をして、現代日本で流通しても問題ないものだけ流通させることになっている。
換金自体は向こうでもこちらでも行えるらしく、結構盛況ではあるようだ。
そんな向こう側の話は今は意味がなく、また別の機会に詳しくしたいと思う。それよりも今日はボクのすぐ上の姉である、弥生姉様の話だ。
「弥生姉様、本当にその武器で訓練するんですか?」
「そうよ? 暮葉ちゃんもこれ、使ってみない?」
「えっと、まだ持てないんで……」
ボクの姉である弥生姉様は朗らかに笑うと、その手に持った鋼鉄製の八角金棒を肩に担いだ。
可愛い顔して持ってる武器がエグい。
「それにしても、冥府ダンジョンですか。あーちゃんはまた訳のわからないことを始めたんですね」
「そうねぇ。とりあえずお試しで見に行ってみようかなと思って。まぁ今日じゃないんだけど」
どうやら弥生姉様は冥府ダンジョンに行ってみたいようだ。でも、一人で行くのかな? ここはボクも一緒に行くしかないよね!
「あ、暮葉ちゃんだ」
「ん?」
弥生姉様と話していると、不意に誰かに呼ばれたので声の方向を見る。
するとそこには、黒髪の巨乳美少女がいた。
「あれ? 久遠さん?」
「暮葉ちゃんに会えて嬉しいよ〜」
黒髪巨乳美少女こと、東雲久遠さんがボクの方に近寄ってくると、そのまま抱きしめてきた。
むにゅんと顔が胸に埋まる。そしてそのまま、久遠さんによって頭を撫でられてしまった。
「く、くるしいです。柔らかいですけど……」
「もう、暮葉ちゃんったら」
久遠さんは外しそうに言うものの、ボクを離そうとしなかった。
東雲久遠。猫又族の女性で、きれいな長い黒髪と水色の瞳、柔らかそうな白い肌と大きな胸が特徴だ。
性格は小動物的というか、臆病で、男性恐怖症に近いものがある。でも優しいので、普段はそのことを表に出さないようにしている。良くいえば控えめ、悪くいえば相手の好きなようにできる、そんな印象を受けてしまう。
「久遠さん、今日はどうしたんですか?」
久遠さんは弥生姉様の幼馴染ということもあってか、昔から弥生姉様の影に隠れるようにしながら一緒にいた。
ボクもかなり可愛がってもらっていたのでよく覚えている。
「弥生ちゃんと一緒に冥府ダンジョンに行くためにちょっと訓練にきたの」
どうやら久遠さんもダンジョンへ同行するようだ。
なら、ボクは必要ないかな?
「暮葉ちゃんも一緒に来てくれると、心強いんだけどね」
ふんわりほほえんだ久遠さんにそう言われてしまったら断れない。
相変わらず可愛くてずるい人だ。
「構いませんよ? でも、ダンジョンで何をするんです?」
今ボクたちがいる場所は、妖精郷のボクたちの屋敷の庭だ。
なので、久遠さんも変な目で見られないので弥生姉様の影に隠れることもない。
「ダンジョンの奥に、願いを叶えてくれる宝玉があるらしいの。それがどうしてもほしくて」
ほう、宝玉とな? 久遠さんが叶えてほしいお願いってなんなんだろう。ボクはそれが非常に気になった。
「叶えてほしい願いって?」
ボクがそう聞くと、久遠さんは恥ずかしそうに言う。
「胸を、小さくしてほしくて……」
どうやらかなりのコンプレックスなようだ。
内容と教えてくれた久遠さんが、言い終わると同時にシュンとしてしまった。
持つものは持たざるものにはわからない苦労があるようだ。
でも、ボクだって大きくなったらお母様くらい大きくなるんだから、いずれは持つものだよ!
ボクは少し離れた場所から、二人の訓練風景をぼーっと眺めていた。
というのも、弥生姉様もそうだけど久遠さんもこれでなかなか強いのだ。
久遠さんは刀で戦うのだけど、弥生姉様の凶悪な八角金棒を華麗に避けては反撃を繰り出しているのだ。
もちろん、振り抜いた弥生姉様もそれで終わるわけもなく、手技や足技、尻尾技で反撃をしのぎつつ応戦、そして隙を見て金棒で攻撃を加えていた。
正直、今のボクではとてもじゃないが戦いにならない。あの二人の戦いに割り込めるとしたら、酒呑童子たちか亜寿沙姉様あたりになるだろう。もちろんお母様たちも強いのだが、あれはまた次元が違う強さなので割愛する。
「はぇ〜、すっごい」
「や、ほんとすごいよね〜。弥生ちゃんたちがあんなに強いなんてね〜」
「ほえ?」
ボクの漏らした独り言に、誰かが同意してきたのだ。さっきまで誰もいなかったはずなのに、一体誰だろう?
そう思って声のした方を向くと、そこにはなんとーー。
「く〜ちゃん。来ちゃった」
「あーちゃん、いつのまに……」
そこにはなんと、天照大神こと、あーちゃんがいたのだ。
「ん〜、くーちゃんやわらか〜い」
ボクが驚いている隙に、あーちゃんはボクに抱きついてきた。この人、本当に素早いんだ。
「ちょ、いきなりはだめだってば」
「えへへ。いいのいいの。ところで、なんで戦闘訓練なんかしてるの?」
あーちゃんはボクの抗議など意に介さず、ボクの頬に自分の頬を擦り付けながらそう聞いてきた。
「ほっぺ擦り付けながら喋られるとくすぐったいんだけど……。まぁいいや。二人とも冥府ダンジョンに挑戦するんだってさ」
「ほぉ〜」
ボクが事情を説明すると、あーちゃんは驚いたような声を出した。
「あーちゃんでも驚くことなの?」
ボクがそう聞くと、あーちゃんは首を横に振る。
「ん〜ん。そうじゃなくて、あんなところに挑戦するなんて物好きだなって思っただけ」
「ふむ?」
そんなに変なことだろうか?
「あ、その顔はそんなに変なことなのかな? って思ってる? そもそもあそこはね、あたしが作ったのよ」
「えっ? あーちゃんが?」
「そそ。元々は冥府の罪人、こっちで言うところの亡者とか悪鬼とかの刑罰の場所として用意してたのよね。それでどうせなら何かイベントとかできないか? ってお父さんたちに聞かれたから、お母さんたちのいる冥府をダンジョンとして運営してみれば? って言ったわけ」
「えっ、そうなの!?」
驚きの事実だった。まさかイザナギ様とイザナミ様も絡んでいたとは思わなかったからだ。
ちなみに、血の繋がりの有無に関係なく、あーちゃんの兄弟姉妹はイザナギ様を父、イザナミ様を母としている。
「そうそう。それでついでにってことで賞品を用意して、暇そうにしてたオオマガツヒに管理を頼んだってわけ」
オオマガツヒ。大禍津日、大禍津とも言われている厄災の神様で、この世界では女性の姿をしている。ちなみに弟はヤソマガツという。
場所によっては男性であったり、性別がなかったりもする。
「へぇ〜。じゃあもしかして、願いが叶うっていう宝玉を提供したのもあーちゃん?」
「そーそ、よく知ってるわね。偉い偉い」
あーちゃんは嬉しそうにそう言うと、ボクの頭をなでなでしてきた。ものすっごくくすぐったい。
「んと、ボクがって言うより、あそこにいる猫又族の東雲久遠さんが教えてくれたんだよね」
ボクはあーちゃんに見えるように、戦闘訓練中の久遠さんの方を指差した。
「へぇ。胸、大きいわね」
「でしょ? あれがコンプレックスらしくて、願いを叶えてもらって小さくしたいんだってさ」
「は?」
ボクの言葉を聞いたあーちゃんは、そう短く言葉を発した。
その時のあーちゃんは、ものすごく冷たい顔をしていたと言い添えておこう。
そういえば、あーちゃんって貧乳だったね。
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