1ゲームが終わった後とてつもない疲労感をボクは感じていた。
正直もっと死なないように気を配るべきだったと思うし、もっとうまく立ち回れるようにできればよかったと反省している。
皆と一緒にやるときにはもっと頑張って活躍したい。
いつまでも皆と楽しく遊べるようにしていきたいというのがボクの素直な思いだった。
「今日の夕食は山の幸たっぷりです」
夕食の場所へやってきたボクに烏天狗の女中さんがそう教えてくれた。
海辺ではないので海の幸はないけど様々な山菜や木の実、キノコやその他作物で色々な料理を用意してくれたようだった。
個人的には山の幸も大好きなのでとっても嬉しい。
「お~い、こっちこっち」
中に入るとボクを見つけた酒吞童子たちから声が掛かった。
ボクが声のした方を見ると笑顔で手招きをしている。
「皆、浴衣がよく似合うね」
ボクは酒吞童子の浴衣姿を見てから茨木童子に熊童子、金熊に星熊童子、そしてスクナの姿を順に見ていく。
綺麗な黒髪なのは酒吞童子と茨木童子のみで熊童子はこげ茶色の髪の毛、金熊童子はやや金色に見える色素の薄い髪の毛をしている。
星熊童子は青味がかかっている髪の毛なので親近感が湧くし、スクナはスクナで白っぽい髪の毛がよく似合っていた。
人化している時とは違って、妖化している時は皆個性的な髪の色をしているのだ。
当然おでこからは角がにょっきりと生えている。
ここだけの話だが、彼女たち鬼の角は優しく擦るとくすぐったいらしくものすごく可愛く身悶えするのだ。
ぜひ彼女たちに出会ったら試してみてほしい。
「おう、ありがとな! ところでお前、人化したままなのか? その浴衣お尻のところから尻尾出せるようになってるからさっさと元の姿に戻れよな」
「あれ? そうなの? なんか空いてると思ったんだよね~。でもお母様はどうだろう?」
ふとボクはお母様のことが気になり、お母様の方を見る。
と言っても並び順はお母様の次がボク、その次に酒吞童子が来ているので隣なわけだけど。
「ここでは構わぬのじゃ。暮葉や妖化するがよい」
お母様はボクに優しくそう声をかけてきた。
よく見てみるとすでにお母様は妖狐の姿をしている。
金色の美しい毛並みがボクの隣に存在していた。
「うん、ありがとうお母様」
ボクはそう言うとすぐに妖化し、青銀色の毛並みの妖狐の姿になる。
うん、やっぱりこの姿の時はとても調子が良い。
「じゃあいただきま~す!」
こうしてボクたちは夕食を食べ始めた。
意外なことにボクの好きなお稲荷さんも用意してくれていたようで大満足だ。
しばらくして――。
夕食も食べ終わってのんびりしていた時、周りでは何やら催し物が始まっていた。
妖術を使った芸やちょっとした大道芸など、大人たちは色々な芸を披露していく。
皆長く生きているだけあってどれもこれもすごいものだった。
そんな光景を見ているとボクも思わず混ざりたくなる。
でもボクに出来ることと言えば絵を描くことか踊ることか歌うことくらい。
さて、どうしたものか。
「暮葉ちゃん、何を考えてるの?」
ボクが考え込んでいると弥生姉様がそばにやってきた。
「いえ、ボクも何かやってみようかなと思いまして」
ボクは続けて考え事をしながら弥生姉様にそう答える。
すると姉様が徐にこんなことを言ってきたのだ。
「それなら、私と歌わない?」
「歌……ですか?」
弥生姉様の提案を聞き、思わず聞き返してしまった。
一体何を歌うんだろう?
「うん、歌うのは暮葉ちゃんも大好きなあの歌」
「あの歌ですか。いいかもしれませんね。久しぶりですけど」
ボクはなんとなく気分も良かったので弥生姉様の提案に乗ることにした。
どうせ歌うなら嫌々歌うよりも好きなものを気分のいい時に歌うほうがいいから。
「続きまして、弥生様と暮葉様によるデュエットソングです~。暮葉様が歌うというレアな機会! 今日は奇跡のような日ですね! それではどうぞ~」
司会の雫ちゃんにより、ボクたちの演目が紹介される。
今回歌う歌はアカペラ曲なので演奏はなくてもいい。
「それじゃあいくよ~、暮葉ちゃん」
「はい、弥生姉様」
弥生姉様のリードで歌が始まる。
最初のパートは弥生姉様が担当し、次のパートをボクが担当。
そしてデュエット部分に入ると二人で合わせて歌う。
ボクが高音を担当し、弥生姉様が少し低めの音を担当する。
弥生姉様よりもボクのほうが少し声が高いのでやるならこういう分担になるのだ。
「♪~~」
久しぶりの歌でボクは少しずつテンションが上がり始めていく。
人のいないところではこっそり歌っていたのでいきなり下手になることはないけど、やはり気分の良い時に人前で歌うのはまた違った気持ちになる。
思いっきり歌っているとあっという間に終わりが近づいてきてしまった。
もう少し歌いたい気もするけど、それは今度にとっておこう。
そう思いながら弥生姉様と一緒に歌い切ると周りから拍手が巻き起こった。
「暮葉の歌は久しぶりに聞いたが、昔と変わらずうまいのぅ。弥生も相変わらず上手じゃな。ふむ、二人でユニットを組ませるのもありかのぅ」
お母様はひとしきりボクたちをほめた後、何やらぶつぶつ言いながら考え込んでしまった。
「うおおおおお、暮葉に弥生姉! すげえじゃねえか!!」
酒吞童子が嬉しそうにボクに飛びついてきた。
この子がここまで感情を露にするなんて珍しい。
「俺はよぉぉぉ、暮葉が歌えなくなったことにやっぱり責任感じてたんだよぉぉぉ」
「あはは、そんなに気にしなくてもいいよ。あれは時期が悪かったんだから。今はあの時とは違うでしょ?」
そんなことを言いながら涙目で抱き着く酒吞童子をボクは優しく撫でさする。
どうやらこの優しい鬼には心労をかけてしまっていたようだ。
もっと酒吞童子たちにいろいろしてあげないとね。
ボクは改めてそう思った。
「暮葉~、すごいよ~、と~っても上手だった~」
「ありがとう、スクナ」
スクナもそう言いながら酒吞童子に負けじと抱き着いてくる。
ボクの知る限りスクナはスキンシップがちょっと過剰気味だけど、それは寂しさから来ている。
この小さな鬼は長い間孤独だったのだから。
もしかするとあの時のクリスマスのプレゼントはこの小さな鬼だったのかな? なんて少し思ってしまったりもする。
とにかく可愛らしいボクの大切な友達だ。
それからしばらくして、ボクは黒奈たちにも抱き着かれてもみくちゃにされるのだった。
長い間トラウマをかかえていたけど、今日思い切ったことで吹っ切れたかもしれない。
今後も少しならみんなのために歌ってもいいかもね?
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