ぼくも不安になってきた。
ぼくの手を握っていた子供たちが、北の方を指差し、声にならない声を発した。
それからだった。
みんなが逃げ出したのは。
祭りは一瞬にして、パニックになった。
遥か北からおびただしい羽音を発し、黒いものが幾つも飛来してくる。
広場の周りの建物が急に、白煙を上げた。
でも、燃えたわけじゃないみたいだ。
なんだか、臭いがそうじゃない。
うん??
この臭い??
建造物が至る所で、不気味な音と共に白煙が立ち上る。
それは、腐った臭いだった……。
北の城の方から、大量の白い煙が爆発的に上がり。鎧を着た大軍がこちらに向かって逃げてきていた。だが、その中で、一人の男がぼくのところへ駆けて来た。その後ろには、兵がどんどんと現れては、倒れ、現れては、倒れていた。
壮齢のその男は、白一色の鎧を着ていて、いかつい顔がどことなく、ライラックに似ていた。
「その服装! 君が、勇者だな! この国はもう駄目だ! すぐに南へ逃げろ!!」
「え?? 一体? 何が起きているんですか??」
「白い腐敗だよ」
「白い腐敗??」
「触れると、腐って白骨化するんだ!! さあ、逃げろ!!」
「えええ!!」
ぼくはコーリアのことを思い出した。
「コーリアは、トルメル城にいる!」
「もう助からん!!」
「……」
ぼくは、唖然とした。
勢い余って、ぼくはその男の腕を握り捻り上げた。
ぼくはあまり力を入れていないというのに、その男の腕がミシミシと悲鳴を上げる。
「その鎧と剣は?! どこに??」
「ムッ! この腕力!! 君は勇者だったな。なら、トルメル城の祭壇に行け!! そこには、特別な鎧と剣と盾がある!! だが、そこは白い腐敗が覆っているぞ!!」
「わかった!!」
ぼくはトルメル城へと走り出した。
ぼくは元来た城下町の道を走った! おおよそ自分に出せる限りの全速力で!
コーリア!!
頼むから無事でいてくれ!!
ぼくは心の中で叫び続ける!
逃げ惑う人々をどかしどかし、思いっ切り走った。
白い腐敗が建造物の隙間から漂ってくる。
その白い腐敗の発生源は、黒いボロボロの衣服を着た羽つきの二本足で立つ獣の大軍だった。獣は白い腐敗を吐き出しながら、北の方から進軍してくる。同時に多くの人々を牙や爪でも犠牲にしていた。
ぼくはそれらを無視して、城下町の脇道を突っ切る。
トルメル城の外壁が見えてきた。
正門へと回ると、そこは……濃霧のような白い腐敗が包む込んでいた。
ぶすぶすと白い煙が発生し、正門や外壁が腐り落ちている。
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