近隣のスーパー・コンビニ・薬局・ディスカウントストアで噂になってる例の「クレーマー」が、俺が店長をやってるスーパーに現われた。
前回とは違って、憔悴しきった様子で……。
……この話の悪役と作者本人または作者の知人の誰かの間に、ある身体的特徴に関する共通点が有るか否かに関しては、黙秘権を行使します。
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「すいません、不良品なので、返品お願いします……」
近隣のスーパー・コンビニ・薬局・ディスカウントストアで噂になってる、その人物が、そのスーパーにクレームを入れに来たのは、約1年ぶり2回目だった。
夏の一番暑い時期なのに、きちんとしたネクタイと背広の上下の中年男だ。身に付けている靴や眼鏡やタイピンも高級品に見える。
全てが噂通りだった。
1年前は多くの人が「クレーマー」と云う言葉から想像するような高圧的な態度で。
今回は、完全に憔悴しきった態度で。
その点もまた……「あのクレーマーは前回現われた時とは様子が全然違うぞ」と云う噂通りに……。
良く見れば、前回と違って、髪は乱れ気味で、髭も剃り残しが有った。
「あの……どう云う問題が有ったのでしょうか?」
スーパーの店長は、男に聞いた。
「えっと……酷い悪臭がすると……」
前回と同じクレームだった。
「あの……貴方が使われたのでは無いような言い方ですが?」
「いえ……センセイが……そう言って……」
「センセイ?」
「あ……職場の上司です……」
「あの……貴方は、これらから悪臭がすると思われますか?」
そのクレーマーは、大量の……そのスーパーの置かれている全ての種類の「大人の男性向け」のサイズのマスクを前にして、首を横に振った。
「そりゃ、こんな御時世だ。俺だって、マスクを付けなきゃいけないのは判ってるよ。でも、なんで、この辺りのスーパーでもコンビニでも薬局でも、不良品のマスクしか置いてねぇんだ?」
その市内に有るスーパー・コンビニ・薬局の店長やチェーンの地元責任者を呼び出したのは、与党の地元県連の大物だった。
呼び出された者達は……どう説明すれば良いか判らぬまま……あるいは顔を見合せ……あるいはうつむき続けていた。
「おい、何とか言えよ。何黙ってんだよ? 何で、あんな鼻が曲がりそうな臭いのするマスクしかねえんだよ?」
その大物政治家は、マスクをしていない口から、もの凄い口臭と共に罵詈讒謗を喚き散らし続けていた……。
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