だが、「思い出した」事そのものが、貴方自身が持っている事を今まで知らなかったチート能力の暴走か超自然の存在の悪意だとしたら?
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『あるニュースを聞いたら、人権団体が小人プロレスを潰した事を思い出した』
Twitterにそう書き込んだら、変なレスが山程付いていた。
『一体、何を思い出したんだろ?』
『事実じゃない事を思い出したのか。器用なヤツだ』
何だこりゃ?
変なレスを1つ1つ調べてみると……どうやら「人権団体が小人プロレスを潰した」なんてデマだ、と云うデマを撒き散らしてるヤツが居て、そいつが俺のtweetを拡散したらしい。
昔の2chで云う「ソース出せ」ってヤツか?
生憎と証拠はここに、ちゃんと有る。そうだ……この前買った小人プロレスの歴史に関する新書が……待て……何で床の上に落ちて……?
ああ、そうだ、俺は、普段、本なんて買わないせいで、俺のアパートには本棚なんて無いから床の上に本を置いとくしか……。
いや、待て、待て、待て、待て。
普段、本を買わない俺が……いつ……本を買ったんだ?
ええっと……。
何か手掛かりは無いかと思って、その本の最後の方のページを見ると……えっ? 発行年月日は……つい最近?
なら……買った日の事が記憶に有る筈だ。
……たしか……ああ、そうだ。勤め先でプログラムのテストをやってて、面倒臭くなってテスト結果を捏造して定時に仕事を終えた日に帰りに寄った本屋で……。
待て、俺……そんな事をやるような奴だったか? 仕事でテスト結果を捏造したり……会社の帰りに本屋に寄ったり……。
いや……なのに、鮮明な記憶が甦り……いや……この記憶、一体全体、何なんだ?
「おい、いつ、こっちに着くんだ?」
さっきまで自分のアパートに居た筈なのに、車で会社に向かっていた。
どうなってる?
「い……いや……あの……その……」
「お前がテストのエビデンスを捏造したせいで、どんだけの騒動になったと思ってんだ? すぐに来い」
スマホからは上司の怒鳴り声。
何だよ……どうなってんだよ……。
まさか……。
ある可能性に気付いた瞬間、スマホで上司と話をしながら車を運転していたせいで……。
待て……この上、事故なんか起こしたら……嫌だ……。
間に合わない。
助けて……。
次の瞬間、またしても……有りもしなかった事を鮮明に思い出した……。
俺は、今の会社に就職なんてしてなかった。
「あんたねぇ……いい齢して、いつまで親の脛かじっとる気ね? バイトの面接ぐらい行ってみんね」
実家の自室。
ドアの外からは母親の声。
どうやら……俺が……有りもしなかった事を思い出す度に……現実が書き変わっていき……そして……。
母親の声を聞くだけで、心臓が高なり……呼吸が荒くなる。
どうやら……パニック障害ってヤツらしい。
さっきより酷い。
さっきは死にそうだった。
しかし……今は……消せない不安や恐怖を抱いたまま生き続けないといけない。
嫌だ……。
次の瞬間、俺は、また……思い出した。
就職に失敗した後……実家を出て……。
臭い……。
俺の体臭だ。
浮浪者になった俺は……死に掛けていた。
どうやら……何日もマトモに飯を食ってないようで……頭も働かない。
あれ?
警官なのか?
待ってくれ、何故、俺を警棒で殴ってる?
今度の「現実」は……どんな「現実」なんだ?
何が起きてる?
ああ……最初の現実で「浮浪者なんて死ねばいいのに」とかtweetした覚え……いや……本当にそれは俺の記憶なのか?
もう嫌だ……俺なんか生まれて……こなければ……良かった……。
助け……やった……有りもしなかった事をまた思い出せた。
俺の父親は……人権団体のせいで仕事を無くした小人レスラーで……露頭に迷って、お袋と結婚しないまま、のたれ死に……。
そうだ、俺は本当は生まれていなかったんだ、俺なんて人間は元から存在しなかったんだ。
俺は……自分の体が……と言うか全存在が……消えていくのを実感しながら……小人プロレスを潰してくれた人権団体に感謝していた。
いや、待て「小人プロレスを潰してくれた人権団体」も……俺が捏造したのか?
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