ある事情から取り止めになった「祭」。
だが、毎回、その「祭」を楽しみ続けていた「誰かさん」は大いに不満なようで……。
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「ここ数回の大会で起きた数々の不祥事によって、歴史有るこの大会を取り止めねばならぬ事態となった事は……誠に遺憾であり……」
その大規模な国際的スポーツ大会の主催団体の会長は、記者会見でそう述べた。
「おい、『遺憾』で謝ってるつもりって、あんたは、自分を日本の天皇だとでも思ってんのか?」
その声は、会見会場ではなく、ネット経由で会見に参加している記者のものだった。
ネット会見となった理由は、ある年の大会で、ようやく終息に向かっていた、あの伝染病の世界的再拡大を招いた為だった。
その次は、国内の少数民族や民主派への弾圧を続けている国で実施され、世界は、ボイコット派の国・地域と、参加国で真っ二つに割れ……。
更にその次では、主催団体の不祥事や不正・腐敗が一気に明みに出た……。
そして、近代オリンピックの約一三〇年の歴史は一端、幕を降す事になった。
「ふざけんじゃねぇぞ。おい、お前らも、ちょっとガツンと言ってやれ」
オリンピックを楽しみにしていた、「彼」とその部下達の間には……ヤクザやマフィアのように擬似的な家族関係が有った。
「いや、でも、親父……時代の流れってやつですよ」
「他にも楽しみは有るでしょ。諦めましょうよ」
「うるさい。とっととやれ」
世界各地で異常気象が続き……戦争が発生し……新しい疫病や……これまで流行していた伝染病の変異株が生まれ……。
人類は……急速に滅亡に向かっていた。
最早、人類は二二世紀を迎える事は絶望的となり……それどころか、早ければ二〇五〇年には、文明の維持すら困難になる、との予想さえ行なわれる事となった。
当然ながら、人類の中に、オリンピックの再開など考える者は1人として居なかった。
自分に捧げられた祭である「オリンピア競技祭」が取り止めになった事で、ゼウスは人類に神罰を与えたが……。
「どうすんですか? 滅んじゃいましたよ。もう、オリンピック開催どころじゃないですよ……」
「何、言ってんだ? 今回が初めてじゃないだろ。また作り直せばいいだろ。残りの面子を集めろ」
「はぁ……」
伝令の神ヘルメスは「新しい人類を生み出すのを手伝え」と云うゼウスの命令を他の神々に伝えるべく出立しようとしたが……。
「あの……兄貴たち……何で、親父の暴走を止めなかったんすか?」
「そう言われてもさぁ……」
「親父が、ああなのは、今に始まった事じゃないだろ……仕方ねえよ」
たまたま、その時、天界に居た疫病の神アポロンと、戦争の神アレスは、やれやれと言った口調と表情で、そう答えた。
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