たまたま小説投稿サイトに投稿した短編小説がバズってしまった売れない小説家。
しかし、その小説のせいで、思わぬ事態に巻き込まれ……。
「すいません、オチを付けないと殺されるんですが……こんな状況じゃ、アイデアが湧く筈ありません。誰か助けて……」
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
『昨日、チョ〜さんが小説投稿サイトに投稿した小説、完璧にマズいっすよ』
大学時代に入っていたアニメ研究会の後輩の通称『アキちゃん』から、そんなLINEが届いた。
同じ大学の同じサークルの先輩・後輩で、同じくラノベ作家とは言え、向こうは売れっ子、俺は新人賞受賞作以降はパッとせず、小説家とコンビニや警備員のバイトのどっちが本業か判らない状態だ。
ちなみに、こいつの渾名の「アキちゃん」の由来は、大学の頃のサークル内で流行ってた漫画「無敵看板娘」の登場人物の八百屋の太田明彦と同姓で、しかも実家が築地(当時は)の青果仲買だったからで、俺の「チョ〜さん」は例の「いやぁ、映画って本当にいいものですね」の爺さんと同姓だったからだ。(あの爺さんの下の名前の読み方は「ながはる」だが、そそっかしい先輩が「ちょうじ」だと思い込んでいたのだ)
『どういうこと?』
そう言えば……ちょっと気にはなっていた。
その「昨日、投稿した小説」は複数のサイトに投稿したんだけど……サイトによってPV数や「いいね」的なモノが全然違っていたのだ。
『twitterでバズってます』
『それで、何か問題あるの?』
『チョ〜さん、言いたかないですけど……小説家としての腕、落ちてません?』
『おい、何だよ、それ? どういう意味だ?』
『あの小説、C**をdisってる連中をdisる話ですよね?』
『そうだけど?』
C**は不正会計の疑惑が出てる女性支援のNPO法人だけど……一応、大学時代に必須科目で、そっち系の計算を散々やらされた俺からすると「ポカミス」以上の「不正」は見当らないように思えた。
『あの……率直に言っていいですか?』
『いや、いいけど』
『すげ〜書き方が下手だったんで、パッと見、C**をdisってる話にしか思えませんでした』
『えっ?』
『マジで、チョ〜さんがネトウヨになったかと思いましたよ』
……。
…………。
……………………。
『おい、バズってるって、どんなクラスタでバズってんだ?』
『だから……C**をdisってる連中の間でバズってるんですよ』
そ……そんな……馬鹿な……。
『チョ〜さん……今や、あの馬鹿どもの間で英雄扱いですよ』
俺が軽蔑してる連中が俺を英雄扱いって、こんな嫌な英雄扱いも、そうそう無い。
数ヶ月後、NPO法人のC**は解散する事になった。
twitter上の阿呆どもが、C**が保護した女性の居場所を拡散したらしい。
デマの出所である新田原蒼士とか云う奴は、裁判でC**にボロ負けしたが……「実質勝利だ」とtwitterに書いたら、信者どもは、それを鵜呑みにしやがった。
そりゃ、そうだ。
素人を騙すのに、「玄人でも騙される」ような出来が良過ぎるデマを広める必要は無い。
玄人でも騙せるような精緻なデマは……騙される以前に、そんなデマに着目するのは玄人だけだ。
デマだと指摘する奴が出るのは想定内、1人でも多く信じる奴が出ればいい、と云うのが最終目的のデマなら、素人しか騙せないデマで十分だ。
素人しか騙せないデマとは……信じてしまう素人がゾロゾロ出るようなデマだ。
玄人でも騙せるデマをこしらえるのは労力の無駄だ。
流行ってる新興宗教の教義や設定に限ってオカルト・マニアや宗教学者からすると「浅い」「『玄人受け』しない」代物なのと同じ理屈だ。
そして、C**は裁判では勝っても、一度、付いた悪評を払拭する事は出来ず、活動に重大な支障が生じる事態となり……。
でも……俺は……腹の底で阿呆だと思ってるクズどもの事を阿呆だと公言出来なくなっていた。
その阿呆どもに人気が出たせいで、俺の小説が再版され、しかも新作の依頼まで来てしまったのだ。
「ですからねえ、あんな噂、C**の残党が撒いたデマですよ、デマ」
「は……はぁ……」
更に数ヶ月後、俺は、金の為に、かつて俺が軽蔑していた阿呆どもよりも、更に下衆な糞野郎に成り下がっていた。
新田原蒼士のファンである編集者と一緒に、今日も飲み屋で新田原蒼士の御高説を拝聴する羽目になった。
かつて、俺が軽蔑していた連中は、単なる阿呆だ、と云う情状酌量の余地が有る。
でも、俺は確信犯だ。
新田原が言ってる事を腹の底では嘘だと思ってるのに、奴に愛想笑いを向けている。
自分の中の人間として大事な何かが壊死していくような……最低最悪の営業活動だ。
仕方ない。
俺の人気は実力で勝ち取ったモノじゃなくて……新田原の人気に便乗したモノだ。
新田原に喧嘩を売れば、俺の小説家生命は断たれる。
コンビニや警備員のバイトで食い繋いでいた頃には、もう、戻れない。俺には、そんな選択をする矜持も勇気も高潔さも無い。
と言うか、かつて俺より売れてた大学のサークルの後輩の「アキちゃん」は、twitter上で新田原に食ってかかったせいで……小説の売上がズンドコまで落ちた。
俺とあいつの立場は、たった数ヶ月で逆転した。
俺は売れっ子小説家。
「アキちゃん」は、多分、次の確定申告の後は……コンビニや警備員のバイトで食い繋ぐ自称「小説家」。
冗談じゃねえ。
「ざまぁ」した方が胸糞悪くなる「ざまぁ」ものって何なんだよ?
「今度、クラファンで資金をつのって、C**の元代表を名誉毀損で訴える予定なんですよ……」
C**の代りに、東京都内で家出少女なんかを保護するNPOが立ち上がったが……黒い噂が絶えなかった。
保護した少女を違法な風俗に売り飛ばしている。
保護した少女を幹部がレ○プしている。
しかし……SNSと云うモノの特性上、新田原の信者には、そんな情報は入って来ない。
どうやら……新田原は、新しいNPOの黒い噂は、全てC**の関係者が撒いたデマだと云う事にして、C**の関係者を名誉毀損で訴える気らしかった……。
しかし、俺がこの上なく不味い酒を飲んでいる最中、全てが一変するような事態が起きていた。
「では、これからは私達が、淀川さんの警固に付かせていただきます。外出される際は、必ず我々のどちらかが同行します」
「は……はぁ……」
あの日の夜、新しいNPOの理事の体の一部を切り取られた死体が新宿歌舞伎町で発見された。
どんな状態だったかを詳しく書くと、この小説投稿サイトの規約に引っ掛かる可能性大だが、早い話が「被害者が性犯罪者である事を揶揄する」ような殺され方だった。
それから、問題のNPOの関係者が次々と殺されていった。
警察の対応は後手後手に回っていった。
明らかに、問題のNPOの関係者の個人情報を握っている者の犯行だったが……該当する者には、ほぼ全員、アリバイが有った。
……とうとう、昨日、新田原蒼士までもが失踪してしまった。
そして、俺まで警官2名に警固される事になり……あっ……。
時間は……ギリギリだ……まだ開いてる……。
「すいません……早速ですが……近くの家電量販店かホームセンターに行きたいんですが……」
俺は、警官にそう言った。
「どうされました?」
「仕事にプリンタ用紙が要るんですが……切らしちゃって……」
新作のゲラのチェックが有るのに……紙が無くなっていた。
「わかりました。私が同行しましょう。君、大丈夫だと思うが、念の為……私達が、そうだな1時間経っても帰りもしないし連絡も無ければ、捜査本部に連絡してくれ」
2人の警官の内、齢の方が、そう言った。
あ……あれ?
ここは……どこだ?
お……俺は……椅子に縛り付けられ……ええええ? あそこに居るのは……新田原?
俺と同じく椅子に縛り付けられ……顔には殴られた痕。
死んでいるのか……気を失なっているのか……判らない……。
「先生、気が付いたかい?」
えっ?
おい、何で……。
どうやら、誘拐された事は判るが……誘拐犯が、何で、こいつなんだ?
「先生、警察ものの小説は書いた事有るかい?」
……多分、俺は、ポカ〜ンとした顔をしたのだろう。
「ああ、そうか、無いのか。じゃあ、知ってるかい? 警察官ってのはなぁ……上の方に銀行口座まで把握されてんだよ。だから……もし、警察官が犯人だったら、上の方にすぐバレるだろう」
俺を警固していた筈の中年の警官は、得々と、そう説明した。
「けど……そんな用心深い警察も……俺と被害者の関係までは把握してなかったようだ」
どうなってる?
わかんない……わかんない……わかんないわかんないわかんない。
「少し、昔話をしようか、小説家のセンセイ。あんたの小説ほど、面白いかは保証出来ねえけどな。昔、ある所に、仲のいい高校生3人組が居ました。2人は男で、1人は女だ……男の方は2人とも、その女の子が好きだったが……当然、結婚出来るのは1人だ。片方の男が巡査になって何年か経って、そいつは、警察の寮に届いた結婚式の案内状で、自分が失恋した事を知った」
おそろしく、淡々とした口調だった。
「失恋した警察官は、何年もかけて自分の気持ちに折り合いを付け、かつての親友と惚れてた女の夫婦とは、家族同然の付き合いをするようになってた。これで終れば、めでたしめでたしだったが……夫婦の間に出来た娘は反抗期になり、家出して……悪い噂のあるNPOに『保護』されてな……」
警官と呼ぶべきか、誘拐犯と呼ぶべきか、よく判らない男は……新田原の方を向き……。
「この野郎が……余計な事をしなけりゃ……バッドエンドとやらは回避出来たかも知れねえんだよ……。こいつのせいで出来た……マトモじゃねえNPOの理事に、その娘はレ○プされてな……」
少しも感情的じゃないのに……まるで地獄の底からでも響いているかのような声だった。
「ああああ……」
「安心しな、こいつは殺さねえよ。殺すなんて、生易しい目に遭わせるつもりはねえ……。でも、残念ながら、警察官ってのは、頭が固くてな。で、小説家先生、相談が有るんだが……この話にどんなオチを付ける? この糞野郎にとって死ぬよりツラい、自分のこれまでの人生全てを自分自身で呪うようにするには、どんな目に遭わせりゃいいと思う? おい、考えてくれよ。あんたにも責任の一端ぐらい有るだろ?」
警官だか誘拐犯だか判らない男から言われた制限時間は……既に半分以上が過ぎた。
でも、こんな状態で、いいアイデアが思い付ける訳が無い。
けど……別のアイデアを思い付いた。
たのむ……俺の命を助けると思って……いいアイデアが有ったら、この小説のコメント欄に書き込んでくれ。
期限は……次の夜明けまでだ。
たのむ、たのむ、たのむ。
お願いだ。
新田原を殺す事なく……でも、新田原にとっては死よりツラい目に遭わせるとしたら、どうしたらいいと思う?
アイデア募集ッ‼
思い付いた人はコメント欄にお願いしますッ‼
※本当の作者より:
本作は、あくまでフィクションなので、いいアイデアを思い付いた方は、この小説のコメント欄に書き込まずに、御自分の小説ででも使用して下さい。
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