——シックザール近郊前線A-05地区、後方基地、野戦病院 12月25日
一人の少女が即席の病院の簡易ベッドで目を覚ます。視界に映るのはオリーブドラブの天幕だ。どうやら死んで過去に戻されたというわけじゃなさそうだ。まずは一安心といったところだろうか。
そんな安心しているサルヴィアに見知らぬ女性が声をかける。
「ようやく目が覚めたみたいだな、丸一日眠っていたんだ。最年少エース様が死んでしまったのではないかと心配していたよ」
綺麗な黒髪のショートヘアの女性だ。顔立ちはきりっとしていて格好いい。パイロットに支給されるジャケットが実に似合っている。女子校にいたら間違いなくモテるタイプだろう。
「すいません、あなたは?」
「あぁ、自己紹介が遅れてしまったね。私は第144戦術戦闘飛行中隊の隊長、
エレドア・クレマチス中尉だ。……ウィング01といったらわかるかな?」
ウィング01と言えば、十二機相手に孤軍奮闘している際に援護に来てくれた飛行中隊の隊長機だ。もっと早く来てくれれば死に掛けることもなかったのにと思わなくもないが、あの助けが無ければ自分は死んでいた。
いくら死んでも過去に戻されるだけだと言っても、痛みが無いわけじゃないし、死ぬというのはあまり気分のいいものでもない。それに、あと自分が何回死に戻りできるのかもわからない、もしかしたら次はないかもしれないのだ。
「はっ、先ほど、……先日は救援ありがとうございました!」
「ハハッ、まだ困惑しているみたいだね。無理もない、なんせ機銃の弾が頭を掠めたんだから。……あぁ、脳に障害とかは残らないみたいだから安心していいよ。」
弾丸が頭を掠めたという、あと数ミリずれていたら機内に自身の頭蓋の中身をぶちまけていたかもしれないという恐ろしい事実がサルヴィアを戦慄させる。
「……はっ、了解致しました。……ところで最初の方におっしゃっていた最年少エースとはどういうことですか?」
「あぁ、そのことについてだが、君は単機で敵十二機を相手に生き残り、その上五機も撃墜した。ほら、これ今朝の新聞。今君は結構注目されているみたいだよ」
渡された新聞には、小見出しにではあるが
『士官候補生が単機で十二機を相手に五機を撃墜し生還! 若きエース誕生か⁉』
といった文が書かれていた。内容を読んでみるとどれもプロパガンダじみた文面ではあるが嘘はまったく書かれていない。まるでスポーツ新聞でホームラン王が誕生したみたいに書かれてはいるが実際はただ五人の命を奪っただけだ。
この新聞を読むと、戦争がエンターテインメントとして扱われているという前世ではありえない現実を実感せざるを得ない。本当にこの世界は狂っている。
「ではそろそろ私は行くとするよ。じゃあね」
「はっ、本当にありがとうございました!」
クレマチス中尉は背中越しに手を振ってテントから出ていく。
その後フィサリスや、シティス、同期の連中がお見舞いに来て、医官からほかの傷病者もいるから静かにしろと怒られたりもしたが、平穏にその日は終わった。
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