爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

堀口裕子の見る世界 [7]

公開日時: 2021年3月20日(土) 18:05
文字数:2,372

ゲームセンターのオーナーに案内され通された事務所は、表のきらびやかさとは打って変って非常に無機質な空間だった。


 ひしめきあうメタルラックに事務机、従業員用であろうロッカー。

事務所というよりも倉庫のようで、ラックに収納されているものが景品のぬいぐるみであったり、新作ゲームのポスターでなければ業種を特定できそうなものはない。

他の棚もゲーム機のメンテナンス用であろう工具やボタンなど、どちらかと言えば電気屋さんのようなイメージだ。


 長机の前に座ると、紙コップに入ったコーヒーを差し出される。

それを用意してくれた、オーナーである男と名刺交換をし、私たちがここへ来た理由を説明すれば、「またか」といった雰囲気を出す。しかし、さすがに嫌味を言ったりする事は無い。


 オーナーの名は黒川クロカワ サトル

ところどころ白髪交じりの黒髪で、無精ひげを生やしてはいるが、ゲームセンターの経営者にしては落ち着いた雰囲気だ。というよりは、少し疲れているように見える。

こんな人で、客の相手をできるのかと疑問に思ったのだが、話を聞けば実際に疲れているようだった。



「防犯カメラの確認ですよね。こちらのモニターで見られますが……」


「何か問題があるのかしら?」



 少し気まずそうな雰囲気を感じ取り、先回りして尋ねた。



「いつもの方には説明してあるのですが、カメラの調子がよくないんですよ」


「あら、映ってないの?」


「いえ、時々ノイズが入ったり、数秒画面が真っ黒になって、録画されてなかったりという程度です」


「となると、映ってて欲しい場面が撮れてないかもしれないのね」


「えぇ。実際に見てもらえれば分かると思うのですが、試しに今日の映像を……」



 そう言って機械を操作し、彼は今日の昼間の映像を流す。

けれど心配していたほどではなく、映像はちゃんと録画されていた。


 映し出されたのは、先ほど私たちがいた入り口付近だ。印南君の欲しがっていたクマのぬいぐるみも、画面隅に映っている。けれど映像の中心は通路だ。

おそらく、今日の分には私たちもばっちり映っていただろう。


 もしかすると、先ほどの店員はこの映像を見て私たちに気付いたのかもしれないな、などと思いながら様子を見ていると、途中で映像の色が抜け落ちてモノクロ映像になったかと思えば、ノイズと共に何の表示もされなくなった。そして数秒後、再び復旧して映像は元に戻る。


 そこで映像を一時停止し、オーナーは説明を続けた。



「こういった様子なんですよ」


「あらら……。想像よりはマシだけど、それでも厳しいわね」


「えぇ。本調子じゃないのを、だましだまし使ってまして……」


「それはまたどうして?」



 一応ここは聞かないとね。こんな状態じゃ、なんのための防犯カメラかわからないもの。

けれど、その先は非常に世知辛い話だった。



「それがですね、ゲームセンターというのはなかなか厳しい業界でして……。

 少子化で若い人が減ってますでしょう?」


「そうよね、主なお客さんは若い子ですもの。大変よね」


「えぇ。それに最近は家庭用のゲーム機も高性能になって、ゲームセンターに来る理由も薄まってましてね……。

 そんな中、直接収益に繋がらないもの、まして使えなくはない程度ですと、なかなか予算を付けられないのが実情なんですよ」



 立場上は、そう言わずに修理か買い替えをお願いしたいところだが、防犯カメラは設置義務があるわけでもなければ、補助金などが出るわけでもない。

ならば優先度が下げられて当然だ。懐事情が厳しいのだからなおさらね。


 公務員としての経験しかない私は、そういった経費とか予算とかに疎いが、それでも商売でやっているのなら、そう考えて当然だと思う程度に筋の通った話だった。



「事情はわかりました。では、映っているかどうかはともかく、見せていただいてもよろしいですか?」


「えぇ、操作法をお教えしましょうか? それとも、私がやった方がいいですか?」


「えーっと……、私は機械がとんとダメなんだけど、印南君は大丈夫そう?」



 そう問いかけ印南君を見れば、彼は画面に釘付けになっていた。

また何か興味を惹く賞品でもみつけたのかと思えば、そうではないようだ。



「ナトさん、このドアの先に映ってる人なんか変じゃないですか?」


「え? なにかあったの?」


「ほら、ここです」



 指差す先には男と女の子が映っており、なにやら男がその子に向かって話しかけているようだった。



「親子かしら?」


「いえ、映像を巻き戻して見てほしいんですけど、なんだか女の子がよそよそしい感じがして……」


「黒川さん、操作お願いできますか?」


「はい、巻き戻してスロー再生しますね」



 そして流れた映像は、男が何か手に持ち、それを差し出された女の子が首を振って拒否しているようなものだった。



「これって……、もしかして例の不審者じゃないかしら?」


「えぇ、僕もそうじゃないかと思って見てたんです」


「まだ確定じゃないけど、調べてみる必要がありそうね。

 このテープ、ダビングしていただけるかしら?」



 その言葉に、黒川さんも印南君も固まった。何か変な事言ったかしら?



「……ナトさん、今時の映像はデータでやり取りしてるんでテープなんてありませんよ……。

 それにダビングって……」

「ちょっと! 言葉のあやよ! そこまで年取ってないってば!」


「ははは……。ともかく、映像はコピーしますね」


 二人とも苦笑いだ。他の言い方もあったんだろうけど、思わず口にした言葉は古めかしくて、オバさんくさいというよりは、もはやおばあちゃんの雰囲気だった。

今思えば、自分でもちょっと笑っちゃうのだけど、それを冷静に指摘されるのは少々癪に障るのよ。


 それはともかく、担当している子達の映像を見せてもらうつもりが、思いがけず重要そうなシーンを手に入れられたのだから、大きな収穫だ。

これで事件が、なんらかの進展を見せてくれれば良いのだけど……。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート