爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

370連目 迎春まくら ~女運の無さに絶望したまくらは、枕である事を諦め高校生活を満喫する~

公開日時: 2021年1月8日(金) 18:05
文字数:2,805

前回のあらすじ

 『ガチャ神が研修を経て、神様らしくなってたようです』


前書き代打の今日のひとこと

 『ガチャ神さんは、今月中はこちらに戻ってくる気はないらしい』



「はぁ~、癒されるわ~……」


「そろそろ代わってよ~」


「あと1分だけ……。あと1分だけだから……」


「そういってずっとじゃん! 熊君も何か言ってやってよ~」


「まぁまぁ、喧嘩すんなって。順番だからな」



 冬休みも終わり、三学期が始まって数週間が経ち、俺は毎日女子高生達に囲まれていた。

ちなみに「熊君」というのは、俺の事だ。学校での名前は、未だプレイヤーネームの「熊の実」のため、熊と呼ばれる事が多い。今では名前だけではなくクマ姿なのだが……。

なぜかと言えば、前にガチャ神様の言っていた事を実戦し、今の俺は、ただのまくらではなくなっているのだ。


 ベルに依頼すれば、一日でまくらの大改造は完了した。

その結果、全長1mのテディベアのような見た目になり、手足が付いた事で自ら動ける上、口も付いたので、食事もできるようになった。食べたものがどこへ行くのかは知らないし、考えないでおこう。


 肌色が水色なのは、やはりベルの属性によるところだろうか?

鬼若の服を用意した時は、別の色にもなったので、指定すれば他の色でもいいのだろうけどね。

でも、服を用意してあるので問題ないか。色とりどりのクマ用の服があり、今日は黄色にオレンジの魚柄である。多分これは、プレイヤーネームのクマノミがイメージになっているんだろうな。


 それに合わせるように、端末スマホも変形させ、魚型の名札に変化させることにした。

今はもう念話操作なのだから、使いにくいスマホ形状である必要がないからね。


 そんなこんなで、俺は“オシャレクマ型抱きまくら”にバージョンアップしたのだ。

そして、おまけの効果として、非常に女性からモテるようになっていた。



 いや実際には最初の頃は皆、あまり興味を示してはいなかった。

けれど、一人の女子生徒がかなりの“かわいいもの好き”だったらしく、その子に抱き着かれてから反応が変わっていった。


 その子から発信された噂話により、俺の隠し能力“抱き着くと癒される”効果が、白日の下に晒されてしまったのだ。バウムを癒したあの能力だな。

この世界の者ならば、その効果に魅了されないわけがなかった。



「は~、このまま熊君をお持ち帰りしたいわ~。そしたら朝まで抱き付けるのに~」


「ちょっと!? さすがにその発言はマズいよ!? 一応熊君は、元々人間なんだからね!?」


「確かに今はまくらだから、それが正しい使い方だけどな。でも、多分怒られるだろうな」


「ならさ~、私と付き合っちゃう?」


「まくらと付き合いたいとは、冗談キツイなぁ……」



 こういう反応も日常茶飯事……ではないが、取り合いになる事はままある。

しかし、なぜ女生徒のみかと言えば、さすがに男子生徒はクマのぬいぐるみを抱くのに、抵抗があるようだ。

それに何より、まくらになる前の俺を知っているのだから、なおさらだろう。



「えっと、お楽しみ? の所悪いんだけど、そろそろ授業始まるよ?」


「もうそんな時間!? 次の休み時間は、私からだからねっ!」


「はいはい、予約取っときますよー」



 カオリの言葉と共に、モブ女子生徒二人は、自身のクラスへと戻っていった。

彼女らも、低レアリティのコンパチ使い回しキャラだ。

俺には色違い双子にしか見えないが、他の人は別人と認識しているらしい。

なんて事を考えていると、一人の女子生徒が俺に声をかけてくる。


 長く、まっすぐな白髪が胸辺りまである、赤眼の女子生徒なのだが、その目は開いているのか遠めには分からないほどにしか開かれていない。ゲーム画面上ならば糸目キャラとして表現されそうな子だ。

少し痩せ気味で、どことなく不思議な、近寄りがたいようなオーラを発している。

彼女はモブキャラじゃないな、他に同じ顔を見たことがないし、俺は大体のキャラを把握してる。



「あの……。失礼ですが、妾(わらわ)もその予約とやらを頼めませぬか?」


「ん? いいよー。えっと、ヨウコさんだっけ? お昼休みならいけるよ」


「それは助かります。お昼休みが楽しみですわ」



 その言葉と共に、用は果たしたといわんばかりに、すんなりと自身の席へ戻っていった。

その頭上には音符マークが出ていそうな雰囲気だったけれど。彼女も見かけによらず可愛いもの好きなのだろうか?

もしくは今の俺は、どんな相手も魅了するほどの、愛されボティーテディベアなのかもしれない。



「……」


「なんだカオリ。俺の顔に何か付いてるか?」


「……」


「そんなに見つめられると、テレルー」


「……はぁ、もういいよ。さっ、授業授業!」



 カオリの熱い視線から開放された俺だが、何を思っていたのかは、なんとなく察しが付く。

うんうん、カオリも色々あるよね! 俺は知らないフリしておこう。


 なんてトボけたまくらを気取っていれば、レオン先生がやって来た。

その先生は、滑らかな黄金色の体毛に、漆黒のたてがみを持つ、獅子獣人だ。

獣人の特性なのか、無駄に体格が良い。そんな見た目もあってか、彼は生徒指導を担当している。

そして、その彼が教えている教科は、体育と社会だ。


 この世界の教師は、2種類の教科を教えるのが普通である。

それは、教師であっても来訪者であり、突然の“強制召喚”によって、不在にする可能性がある。

そのため急な欠員を埋めるために、複数人に仕事を分散させているのである。

たとえ誰かが不在にしても、同じ担当教科を持つ教師で取り持つわけだ。


 前世では「俺がいないと仕事が回らない」なんて言いながら、這ってでも出社していた人がいるらしいが、俺は超ホワイト企業勤めだったので無縁だったな。

そんな彼らの職場が、この世界のように「休んでもなんとかなる」制度に変わるといいのだけど。

おっと、そんな事を考えている場合じゃないな、授業に集中しないと。


 次の教科は社会か、と獅子獣人のレオン先生を見て思い出す。教室で体育はしないからな。

俺は社会が苦手である。なにせこの世界の社会科は、歴史も社会制度も前世とは全く違うのだ。

誰しも日々暮らしていれば、ニュースなどでなんとなくの社会的な知識を得るだろう。


 しかし、その前世のその知識を一度リセットした上で、一から覚えなおす必要があり、それに結構苦労している。

記憶力は、ガチャ神のふざけたステータス設定のおかげで良い方なんだけど、忘れる方が難しくて混乱してしまうのだ。


 ちなみに体育も苦手である。

今の姿になってからはまだマシだが、普通まくらが身体を動かす事はできないのだから、苦手という以前の問題である。


 それもあってか、俺はレオン先生の事も、少し苦手意識を持っている。

授業の苦痛を、先生への苦痛にすり替えてしまっているだけなのだが、そういう事って結構あると思うんだよね。逆に、好きな先生の教科って得意になったりもするんだけどね。


 まぁ、レオン先生は悪い人では無いと思う。ただ、すごくいかついのだ。

だって、獅子獣人ですよ。百獣の王なんですよ。しかも結構目つきキツいし。

草食系まくらには天敵なんですよ……。


 あー、憂鬱な授業が始まる……。学生って結構大変だなぁ……。

『レオン先生キターーーー!!』


何テンション上がってるんですか。


『久々の登場じゃないですか! 貴方なにしてたんですか!!

 何度レオン先生に会いに、地下街彷徨ったと思ってんですか!!』


必死すぎこわ……。あ、あと状況が飲み込めない人は……。

うん、そのうちこっちでも出てくるから、いいんじゃないかな。


『レオン先生に骨の差し入れするー! 俺も授業うけるー!!』


第四の壁は認識できても、乗り越えられないんだよなぁ……。


『そんな!? 全知全能なんやろ!? なんとかして!!』


そっちの世界の全知全能に頼めば、なんとかなるかもね?


『全然全能ちゃうやん! 詐欺や!!』


とりあえず落ち着けクソケモナーがっ!


『ひゃいっ!』


はい、もうツッコミ不在で面倒なので〆ます。

また次回……。

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