前章のあらすじ
「鬼若の隠し事と、学園運営局の問題を解決したのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「二つのイベントと、二つの問題を解決したんじゃな」
三月に入れば、すぐに学生は地獄を見る。学年末試験だ。
俺も例に漏れず、地獄を味わった。いや、まだ試験自体の地獄は味わっていない。
というか、試験は昼前に終わるし、一日授業がある通常時より楽だとさえ思ってたりする。
そんな風に考えている俺が、なぜ今地獄を味わっているかという話だが……。
俺は、二週間ほど学園運営局に拉致されていて、その分の授業を受けていないのだ。
ありがたい事に、その二週間はクエストの公欠扱いだ。
しかし、授業はその間も進んでいるわけで、その救済措置として、課題の提出による理解度の測定と、不十分な箇所を放課後の補講で補うという、至れり尽くせりな地獄が用意されていたのだ。
山のような課題をこなす日々……。そんな地獄だったけど、社会科以外は補講を回避できたのだけどね。
理系科目は元々得意だし、国語と英語も元の世界と基本は同じなのだから、必死に課題をやりながら、若き日の記憶を引きずりだしていたのだ。
それができない社会科だけはホント勘弁してほしい……。
そのため、俺はこの一週間ほど、毎日レオン先生と共に居残りをしていたのだ。
なのに、カオリはいつも図書館で試験勉強をしながら待ってくれていた。
今は一人で動けるようになったとはいえ、心配してくれているようだ。
まぁ、それ以外にも俺が一人で帰るとなると、色々問題があるんだけどな。
おかげで最近は……。というか、学園運営局に行ってた期間を含め、ほぼ一ヶ月ほどイナバの特訓をしていない事になるな。
しかし、他の奴らも試験があるだろうし、ちょうど良かったのかもしれない。
うん、そういう事にしておこう。
クエスト前との変化といえば、カオリだけでなくヨウコも最近では一緒に下校するようになっている。
節分の行事に参加してくれただけでなく、ひな祭りの時もご馳走を差し入れしてくれたのもあって、一緒に弁当を食べたりと、普段から行動を共にする事も増えたのだ。
同じクラスだし、仲がいい人が増えるのはいい事だ。
あ、同じクラスといえば、例のケモナー三銃士も居るのだが、ヨウコが怖がるので、さすがに一緒にはいない。
俺が仲がいいからって、仲がいい人同士が仲良くできるかというと別問題なのだから、人間関係ってめんどくさいよね。
けれど、彼らも時々俺の元へやってきては、獣人の良さについて熱く語ったり、レオン先生への新しいケア用品はどれがいいだろうかと、カタログを見せに来たりする。
うん、聞かれても俺には全然わかんねーから。
そんなこんなで、俺は学生らしい日常を取り戻しつつあったわけだ。
そして学年末試験を週明け控えた金曜、いつものようにカオリとヨウコと共に昼飯を食べていた。
「あら、今日はお弁当ではないのですね」
「あぁ、そうなんだ。ベルが用事あるらしくてな。
だから今日は、買ってきたパンが昼飯だ」
「食堂に行こうか悩んだんだけど、まくま君にあの人混みはね……」
「確かに、危険かもしれませんね」
みんな心配しすぎじゃないだろうか。
たしかに全長1mというのは、人混みに巻き込まれればそのまま流されてしまうだろう。
それに君子危うきに近寄らずなんて言葉もあるからな。
なにせ俺は運0効果のせいで、ちょっとした“うっかり”が、大変な結果をもたらす事もある。
今は、ベルがこの体に施した新機能、練習の末やっと使いこなせるようになった、秘密の切り札があるが、それは奥の手だ。使わないに越したことはない。
「ところで、明日から試験ですが、熊さんは勉強の方はいかがですか?」
「休んでた分の補講は、昨日で終わったんだよね? 社会は大丈夫そう?」
「まぁ、何とかなるんじゃないかな。俺は、それよりも鬼若の方が気になるな。
前から勉強会とかに出ていたみたいだけど、まさか留年とかないだろうな……」
「んー……。さすがに大丈夫じゃない? ずっとマジメに勉強してたみたいだし」
「あ、そういえば今日から試験って言ってたけど、中等部は日程が違うのか?」
「え? そうなの? 私は知らないなぁ。
クロは初等部だから、試験もないし」
「妾も存じ上げませんわ」
「そっか。ま、みんな試験で大変な時期だよな」
そんな話をしながら昼休みを過ごし、少し緩んだ寒さの中、午後の授業で舟をこぐクラスメイトを眺めていれば、授業ももう終わりが見えてきた。
そんないつもの授業風景を、カオリが中断させる。
なにやら先ほどから端末に連絡が入っていたようで、授業を抜けて廊下で小声で何か話しているようだ。
戻ってきたかと思えば、先生の元へ向かい、引き連れてまた廊下へ出る。
そして、席へ戻る道すがら、俺の所へ来て事情を聞かされた。
「クロが学校で大喧嘩したらしくて、行かなくちゃいけなくなったの。
だから、今日は一緒に帰れないから……。もし何かあったらすぐに」
「それなら早く行ってやらないと。俺の事は大丈夫だから」
俺は話を遮り、カオリを急かす。俺の事を気にしている場合ではないだろう。
「うん。それじゃ、また明日」
俺は「おう」とだけ返し、その姿を見送った。
カオリが俺の心配をするのも分かる。
もし一人で歩いて帰れば歩幅の問題でかなり時間がかかってしまうからな。
けど今はヨウコも居るし大丈夫だろう。
そんなアクシデントはあったが、その後は特に問題もなく授業は進み、下校の時刻となった。
ヨウコは俺の元へやって来て、当然のように俺をひょいと抱え上げる。
ま、これも最近ではいつもの光景だ。帰るときはカオリかヨウコ、どちらかに頼っている。
ちなみに朝は、カオリが迎えに来てくれるか、ベルが途中まで運んでくれる。
うーん、一応動けるようになったはずなのに、まだ要介護状態だな。
「熊さん。カオリさんが早退されましたので、今日は二人で帰ることになりますね」
「あぁ。抱えてもらわないと日が暮れちまうとはいえ、いつも悪いな」
「いえいえ、役得ですわ。今ではもふもふも、普段はなかなかできなくなりましたからね」
「あぁ……、謎の癒し効果な。俺は多少なら良いと思うんだけどね」
「カオリさんのガードは硬いですからね」
そんな風に他愛のない話をしながら俺達は帰路についた。
日は西へ西へと進み、俺達の影は少しずつ長く、薄くなってゆく。
最近は日没も遅くなったなぁ、なんて事をぼんやりと考えていた。
学校を出てどれくらいたっただろうか、街路樹と街灯が交互に並ぶ人けの少ない道を歩いていると、俺の地獄耳が後を付ける足音を聞き分ける。
いや、学校を出てすぐくらいから付いて来ていたみたいだ。
「ヨウコ、つけられているみたいだな」
「……。えぇ、そうですね」
「どうする?」
「……。そろそろよいでしょう」
ヨウコはくるりとターンし、つけて来たであろう人物の元へと向かう。
そこに居たのは、赤みがかった茶髪のツインテールを巻き髪にした、ツリ目の女子高生が立っていた。
しかしその制服は、俺達の通う学校の物とは違うため、別の高校の生徒であることはすぐに分かる。
「はじめまして、熊の実さん。わたくし、白鳥アリサと申しますわ」
「どうもわざわざご丁寧に。何か、俺にご用ですかね?」
「ええ。少しお願いがございましてね」
少しの沈黙。その普段から鋭いであろう目つきは、より鋭く俺を突き刺す。
「SSRの二人と契約解除していただけませんこと?」
ガチャ神ちゃん。試験の後は試験休み欲しいよね。
「神に休みなどないのじゃ!! というか、おぬしは試験もしとらんじゃろう!」
常に休みみたいなもんだけどね?
「確かに様子を観てるのは、趣味みたいなもんじゃが……」
てかね、神がマジメに仕事してたらさ、こんな世界にはならないっしょ?
「そういう態度だから、ワシらは信仰されんのじゃろうなぁ……」
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