爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

830連目 旅立ち

公開日時: 2021年2月1日(月) 18:05
文字数:3,004

前回のあらすじ

『旅行は予定を立ててるときが一番楽しいのかもしれない』


外注さんの今日のひとこと

『最近は旅行いけない雰囲気でやーですねー』



『まもなく 四番線に 南の島行き 貸切列車がまいります。

 この列車は 臨時貸切列車でございます。一般のお客様は ご乗車になれません。

 お乗り間違えのないよう ご注意下さい』



 修学旅行の出発の朝、学生が溢れるホームに自動案内の音声が響く。

俺たちは、その集団から少し離れた位置で列車を待っていた。


 今までもこの世界のバスや、在来線と呼ぶべき列車には何度か乗った事がある。

けれど今回は、それとは別の列車だ。


 ホームがかなり長く、二十両編成の列車は高速で入線してきた。

その様子は新幹線を思い起こさせる。

ちなみに“列車”と呼んでいるのは、架線が無いためで、つまり電気で動く電車ではないからだ。

おそらく、この世界の事だから、魔力で動いているのだろう。


 いやいや、そこも気になる所ではあるが、南の島に行くのになぜ列車なのかって話だよな。

島なのだから、普通なら飛行機か、のんびりと船旅になるんじゃないだろうか。


 うーん、まさかとてつもなく長い橋が架けられているのか、もしくは南の島と期待を煽っておいて、実は学園都市とものすごく近い島なのだろうか。

まぁ、それに関しては、それとなく聞いてみようかな。



「カオリとクロはさ、こうやって列車で遠出する事ってあるのか?」


「私は、こういう行事くらいだね」


「クロもですっ!」


「ふーん。鬼若は?」


「俺が主様のお側を離れる事などありませんよ!?」


「……あぁ、そうだな」



 鬼若の腕に抱かれ、首を上に向けて聞いてみたが、もうその顔を見ただけでテンションの高さがうかがえた。

テンション上げすぎて質問の答えになってないが……、仕方ないか。

こうやって俺に指名されるのも久々なんだし。


 それで、なぜクラスが違うだけの鬼若はともかく、初等部のクロまで一緒に居るかという話だが、契約主は他の生徒と違い、別車両に乗ることになっているのだ。


 というのも、この列車は普通の列車ではない。

“亜空間特急”と呼ばれる列車だ。つまり、例の亜空間を走る列車である。

それに関連して、色々と特殊な事情がある。その一つが、強制召喚が使用できないというものだ。


 ベルの説明によれば、亜空間への出入りの瞬間は、位置座標にズレが生じるため、召喚システムに不具合が出るそうだ。

そのため、その間に万一バトルになれば、契約者を召喚できずフェアな戦いは望めない。

前のアリサによる奇襲攻撃みたいな事ができてしまうわけだ。

その対策として、契約主は自身の警護役に一人契約者を同席させ、他の生徒たちとは別車両に乗ることになっている。


 見方によればVIP待遇のようにも見えるだろうが、バトルをさせないために監視役も付く事から、どちらかと言えば隔離と言った方が正しい。

それに、普通は契約主同士は仲が良くないという事なので、他の誰かと喋りにくい沈黙の車両となるだろう。もはや嫌がらせに近いのではないだろうか。

ま、それに関しては俺達には関係ない話だ。いつものメンバーで旅路を楽しませてもらおう。


 そう思いながら列車に乗り込めば、見覚えのある一際大きな頭が目に入った。

白いモコモコのデカいソイツは、二人席を一人……、いや一頭で占拠している。

よく見れば、その膝の上に一人の少女が座っていた。



「ようアーニャ、あとロベール。久しぶりだな」


「おはようございます皆さん」


「おはようございますっ!」


「クリスマスパーティー以来だな、元気にしてたか?」



 クロと鬼若も顔見知りという事もあり、この車両に乗っている意味を特に考えず挨拶する。

しかし、カオリだけは少し不思議そうにしていた。そんな皆にアーニャは笑顔で挨拶を返す。


 その姿はいつもの爺さんの趣味であろう、えらく可愛い服ではなく、グレーのブレザーに深緑のチェック柄スカート、赤いリボンと、少しのある制服姿だ。

いつもの服も良く似合ってるが、制服姿はお嬢様の雰囲気漂う似合い方だ。



「おはようアーニャちゃん。

 ところで、どうしてこの車両に? それに一人?」


「あ、そういえばそうなのですっ!

 ここは契約主専用なのですよ? 間違えちゃったんですか?」


「いえ、私は契約主ですから。

 それに契約者として、白熊のロベールを連れてますの」


「ミナサマ、ハジメマシテ。ロベールデス」


「すごいのですっ! おっきくてふわふわでもふもふですっ!!」


「あっ、ちょっとクロ!」


「マジか……。この白熊見覚えがあるが……。

 コイツ、ただのぬいぐるみじゃなかったのか……」


「そういや、鬼若はぬいぐるみ作りも関わってたな」



 クロは即座にロベールに抱き着いている。

うん、仕方ないよね。等身大白熊ぬいぐるみなのだから、このくらいの子が抱き着く以外の選択肢を取るはずもない。

カオリに叱られて、渋々させられているけどね。


 そして鬼若だが、一昨年のクリスマスイベントを一緒に回ったのだから、まさか自身が関わったぬいぐるみ製作が、ある種の人体練成みたいなものだったと知ったのなら、驚くのも無理はない。



「よろしければ、ご一緒しませんか?

 ロベールと二人きりより、人数は多い方が楽しいですし」


「そうだな。俺が鬼若と一緒に座れば、席も少なくて済むし……。

 いや、それでも一人座れないな」



 鬼若が席をくるりと回して向かい合わせにし、BOX席にした所で気付く。必要席数が足りない。

鬼若&俺、カオリ、クロ、ロベール&アーニャなので、四席あれば足りるはずだった。

けれど、ロベールが二人分なのだ。



「クロちゃん、よかったら私の隣、ロベールの膝の上に座るのはどう?」


「わーい! もふもふ特等席ですっ!!」



 クロは提案されるやいなや、一目散にダイブした。

うん、待てされて耐えられなかったんだろうな。それに特等席なのは否定できない。

おそらく例の三人が居たら……。いや、考えるのはやめよう。


 そんなクロにカオリは呆れ顔だが、アーニャもロベールも気にする素振りがなかったので、手短に「ごめんね」とだけ言って席に着く。

そして座った所で気付いたのだが、どうやらすでに列車は駅を出ていたようだ。

窓の外は、高速で景色が流れていくが、車内は何の揺れも音もなかった。


 そんな窓の外をよそに、他の皆はアーニャと久々に会うのもあり、近況を聞いたりしていた。

カオリもアーニャが契約主だと知って警戒するかと思ったが、さすがに元々相手を知っているだけあって、問題なかったようだ。



「ところでアーニャ。もしかして、アルダに話を聞いて俺達を待ってたのか?」


「えぇ、そうですよ。でも、どうして分かったんですか?」


「いや、アーニャはアリサと同盟組んでるし、本来ならアリサと一緒に居るかなって思ってさ」


「え? 同盟組んでたの!?」


「あ、カオリには言ってなかったっけ? まぁ色々あったんだよ」


「色々って……。説明めんどくさがってない?」


「色々……、な……」



 適当に話を流そうとすると、カオリの殺人光線が出そうな視線が刺さる。

いや、俺が説明するのもおかしいし……。実際面倒なのが本音だけど。



「私たちの同盟は、仲良くしましょうって意味ではなく、対立を避ける目的のものですから。

 ですから、同盟関係にあるからと、一緒に行動することは、そう多くありませんよ。

 それに、アリサさんは良くも悪くも目立つ方なので、別便で向かう事になっているんですよ」



 俺の困惑を汲み取ったように、アーニャは助け舟を出してくれた。

アルダと親子とは思えないほどに出来た子だよなぁ。チヅルのおかげか。

いや、アルダもやるときはやる奴なんだろうけどね。

『このペースだと、修学旅行編終わらせるには五月章が超長くなるんでは?』


なんで計画と移動で二話使っちゃうかなぁ……。


『観光シーンとか、ばっさりカットしていい?』


えー、それ修学旅行編の意味ないじゃん?


『というか、沖縄行った事無いから書けないし? 取材費と時間を下さい!!』


これが商業作家なら、時間さえ工面すれば行けるのにねー。


『悲しいね』


現実を思い知ったようです。

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