前回のあらすじ
『旅行は予定を立ててるときが一番楽しいのかもしれない』
外注さんの今日のひとこと
『最近は旅行いけない雰囲気でやーですねー』
『まもなく 四番線に 南の島行き 貸切列車がまいります。
この列車は 臨時貸切列車でございます。一般のお客様は ご乗車になれません。
お乗り間違えのないよう ご注意下さい』
修学旅行の出発の朝、学生が溢れるホームに自動案内の音声が響く。
俺たちは、その集団から少し離れた位置で列車を待っていた。
今までもこの世界のバスや、在来線と呼ぶべき列車には何度か乗った事がある。
けれど今回は、それとは別の列車だ。
ホームがかなり長く、二十両編成の列車は高速で入線してきた。
その様子は新幹線を思い起こさせる。
ちなみに“列車”と呼んでいるのは、架線が無いためで、つまり電気で動く電車ではないからだ。
おそらく、この世界の事だから、魔力で動いているのだろう。
いやいや、そこも気になる所ではあるが、南の島に行くのになぜ列車なのかって話だよな。
島なのだから、普通なら飛行機か、のんびりと船旅になるんじゃないだろうか。
うーん、まさかとてつもなく長い橋が架けられているのか、もしくは南の島と期待を煽っておいて、実は学園都市とものすごく近い島なのだろうか。
まぁ、それに関しては、それとなく聞いてみようかな。
「カオリとクロはさ、こうやって列車で遠出する事ってあるのか?」
「私は、こういう行事くらいだね」
「クロもですっ!」
「ふーん。鬼若は?」
「俺が主様のお側を離れる事などありませんよ!?」
「……あぁ、そうだな」
鬼若の腕に抱かれ、首を上に向けて聞いてみたが、もうその顔を見ただけでテンションの高さがうかがえた。
テンション上げすぎて質問の答えになってないが……、仕方ないか。
こうやって俺に指名されるのも久々なんだし。
それで、なぜクラスが違うだけの鬼若はともかく、初等部のクロまで一緒に居るかという話だが、契約主は他の生徒と違い、別車両に乗ることになっているのだ。
というのも、この列車は普通の列車ではない。
“亜空間特急”と呼ばれる列車だ。つまり、例の亜空間を走る列車である。
それに関連して、色々と特殊な事情がある。その一つが、強制召喚が使用できないというものだ。
ベル先生の説明によれば、亜空間への出入りの瞬間は、位置座標にズレが生じるため、召喚システムに不具合が出るそうだ。
そのため、その間に万一バトルになれば、契約者を召喚できずフェアな戦いは望めない。
前のアリサによる奇襲攻撃みたいな事ができてしまうわけだ。
その対策として、契約主は自身の警護役に一人契約者を同席させ、他の生徒たちとは別車両に乗ることになっている。
見方によればVIP待遇のようにも見えるだろうが、バトルをさせないために監視役も付く事から、どちらかと言えば隔離と言った方が正しい。
それに、普通は契約主同士は仲が良くないという事なので、他の誰かと喋りにくい沈黙の車両となるだろう。もはや嫌がらせに近いのではないだろうか。
ま、それに関しては俺達には関係ない話だ。いつものメンバーで旅路を楽しませてもらおう。
そう思いながら列車に乗り込めば、見覚えのある一際大きな頭が目に入った。
白いモコモコのデカいソイツは、二人席を一人……、いや一頭で占拠している。
よく見れば、その膝の上に一人の少女が座っていた。
「ようアーニャ、あとロベール。久しぶりだな」
「おはようございます皆さん」
「おはようございますっ!」
「クリスマスパーティー以来だな、元気にしてたか?」
クロと鬼若も顔見知りという事もあり、この車両に乗っている意味を特に考えず挨拶する。
しかし、カオリだけは少し不思議そうにしていた。そんな皆にアーニャは笑顔で挨拶を返す。
その姿はいつもの爺さんの趣味であろう、えらく可愛い服ではなく、グレーのブレザーに深緑のチェック柄スカート、赤いリボンと、少し良い所感のある制服姿だ。
いつもの服も良く似合ってるが、制服姿はお嬢様の雰囲気漂う似合い方だ。
「おはようアーニャちゃん。
ところで、どうしてこの車両に? それに一人?」
「あ、そういえばそうなのですっ!
ここは契約主専用なのですよ? 間違えちゃったんですか?」
「いえ、私は契約主ですから。
それに契約者として、白熊のロベールを連れてますの」
「ミナサマ、ハジメマシテ。ロベールデス」
「すごいのですっ! おっきくてふわふわでもふもふですっ!!」
「あっ、ちょっとクロ!」
「マジか……。この白熊見覚えがあるが……。
コイツ、ただのぬいぐるみじゃなかったのか……」
「そういや、鬼若はぬいぐるみ作りも関わってたな」
クロは即座にロベールに抱き着いている。
うん、仕方ないよね。等身大白熊ぬいぐるみなのだから、このくらいの子が抱き着く以外の選択肢を取るはずもない。
カオリに叱られて、渋々待てさせられているけどね。
そして鬼若だが、一昨年のクリスマスイベントを一緒に回ったのだから、まさか自身が関わったぬいぐるみ製作が、ある種の人体練成みたいなものだったと知ったのなら、驚くのも無理はない。
「よろしければ、ご一緒しませんか?
ロベールと二人きりより、人数は多い方が楽しいですし」
「そうだな。俺が鬼若と一緒に座れば、席も少なくて済むし……。
いや、それでも一人座れないな」
鬼若が席をくるりと回して向かい合わせにし、BOX席にした所で気付く。必要席数が足りない。
鬼若&俺、カオリ、クロ、ロベール&アーニャなので、四席あれば足りるはずだった。
けれど、ロベールが二人分なのだ。
「クロちゃん、よかったら私の隣、ロベールの膝の上に座るのはどう?」
「わーい! もふもふ特等席ですっ!!」
クロは提案されるやいなや、一目散にダイブした。
うん、待てされて耐えられなかったんだろうな。それに特等席なのは否定できない。
おそらく例の三人が居たら……。いや、考えるのはやめよう。
そんなクロにカオリは呆れ顔だが、アーニャもロベールも気にする素振りがなかったので、手短に「ごめんね」とだけ言って席に着く。
そして座った所で気付いたのだが、どうやらすでに列車は駅を出ていたようだ。
窓の外は、高速で景色が流れていくが、車内は何の揺れも音もなかった。
そんな窓の外をよそに、他の皆はアーニャと久々に会うのもあり、近況を聞いたりしていた。
カオリもアーニャが契約主だと知って警戒するかと思ったが、さすがに元々相手を知っているだけあって、問題なかったようだ。
「ところでアーニャ。もしかして、アルダに話を聞いて俺達を待ってたのか?」
「えぇ、そうですよ。でも、どうして分かったんですか?」
「いや、アーニャはアリサと同盟組んでるし、本来ならアリサと一緒に居るかなって思ってさ」
「え? 同盟組んでたの!?」
「あ、カオリには言ってなかったっけ? まぁ色々あったんだよ」
「色々って……。説明めんどくさがってない?」
「色々……、な……」
適当に話を流そうとすると、カオリの殺人光線が出そうな視線が刺さる。
いや、俺が説明するのもおかしいし……。実際面倒なのが本音だけど。
「私たちの同盟は、仲良くしましょうって意味ではなく、対立を避ける目的のものですから。
ですから、同盟関係にあるからと、一緒に行動することは、そう多くありませんよ。
それに、アリサさんは良くも悪くも目立つ方なので、別便で向かう事になっているんですよ」
俺の困惑を汲み取ったように、アーニャは助け舟を出してくれた。
アルダと親子とは思えないほどに出来た子だよなぁ。チヅルのおかげか。
いや、アルダもやるときはやる奴なんだろうけどね。
『このペースだと、修学旅行編終わらせるには五月章が超長くなるんでは?』
なんで計画と移動で二話使っちゃうかなぁ……。
『観光シーンとか、ばっさりカットしていい?』
えー、それ修学旅行編の意味ないじゃん?
『というか、沖縄行った事無いから書けないし? 取材費と時間を下さい!!』
これが商業作家なら、時間さえ工面すれば行けるのにねー。
『悲しいね』
現実を思い知ったようです。
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