爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

40連目 爆死より圧死希望

公開日時: 2020年12月20日(日) 18:05
文字数:2,211

 かすかな甘い香りと、頭に当たる柔らかな感覚。それに気付いた俺はゆっくりと目を開く。

その目線の先には、優しい木漏れ日の下、透き通るほどに柔らかで白い肌の美女の寝顔があった。



(ベルフェゴール……?)



 俺は「スゥスゥ……」と寝息を立てる彼女を起こさぬよう、小声で呟く。

それに反応するように身じろぎをする姿に、「しまった」と思ったが、彼女が起きる様子はなかった。


 周囲を見回すと、ゲーム画面と同じ「多目的広場」がそこにはあった。

その様子は、草木が取り除かれたグラウンドのような場所で、まわりには数本の日差しを避けるに適した木々がある。

公園と違い遊具などがないため、子供達がボール遊びをするにも、おじいちゃん達がゲートボールをするにもちょうどいい、まさに多目的に使える広場である。


 ただし、この世界ゲームにおけるこの広場の目的、それはベルフェゴールや鬼若といったキャラクター、彼らは異世界から来た「来訪者」と呼ばれる存在なのだが、その来訪者達が戦闘を繰り広げるためのスペースである。


 秋晴れの空と、少しの肌寒さを運ぶ優しい風が頬を撫でる。

季節は元の世界と同期しているのだろうか? 10月らしい秋の気候はとても気持ちがいい。

夏の暑さも、春の花粉症や黄砂も、冬の寒さも俺は苦手だからな。


 そして、その広場の周囲にある木の根本に座り、幸せそうな寝顔を見せるベルフェゴール。

その腕に収まる俺は、まるで幼女に抱きしめられる、クマのぬいぐるみのように見えるんだろうな。



(本当に俺、転生したのか……?)



 闇の中、自称神様の言っていた事をゆっくりと思い出す。

確かに俺の前には、文字通り夢にまでみたベルフェたんがいる。

そして俺は彼女に抱えられ、そのふくよかで包容力のある、温かな胸の膨らみに体を預けている。


 しかし、どうにも違和感があった。最も気になる所と言えば、サイズ感の違いだ。

俺は、彼女に抱えられるほどに小さいだろうか?


 いや、もちろんベルフェゴールというのは悪魔が元ネタになっているのだから、人間よりかなり大きいという可能性は否定できない。

なにせ、俺の頭を包み込まんとしている双丘は、ゲーム画面に映っていた頃から明らかに人間のものより大きい。だから、身体自体が大きい可能性は否定できない。


 ……まぁいいか。とりあえず現状に不満はない、身体自体が大きくても、胸の膨らみさえ堪能できれば、今は十分だ。

というより、このふかふかでこのまま押しつぶされてしまいたいと願うほどだ。



 もしくは、別の可能性として考えられるのは、俺が小さくなっているというパターンだ。

自称神……、という呼び方はしっくり来ないので、本人が宣言していた“ガチャ神”とでも呼ぼうか。

ガチャ神は俺を、「お気に入りキャラへ転生」させると言っていた。

つまり転生の部分を考えれば、子供に戻っている可能性がひとつ。


 もうひとつは、お気に入りキャラの部分だ。このゲームには身長の低いドワーフや、妖精のようなキャラも存在する。

または子供の姿のみが用意されているキャラ等、候補としてはいくつかある。



(でも“お気に入りキャラ”に小さい種族は居ないんだよなぁ)



 まさか俺の深層心理は、小さい子を欲していたのだろうか? いや、それは無いと願いたい。

なぜならベルフェたんとは真逆の属性だからだ!

俺はベルフェたんへの愛を貫くために、決して幼女にはなびいてなどいない事を証明せねばならんのだ!!

確固たる信念の再確認「ヨシ!」だ。


 さて、もうひとつの違和感。それは俺が頭を動かさずに周囲を見ることができている点だ。

なんとなく「見たい」と思った方向に意識を向けるとそちらの様子が見える。

おかげで動く事無くベルフェたんの寝顔を堪能できたし、周囲の様子を窺うこともできたのだが、今までできなかった事ができるというのは違和感がある。

ゲームの世界だからこういうものなのだろうか。


 とりあえず視力としては申し分ない。千里眼のように全てを見通す事はできずとも、かなり遠くに居る人物の姿を捕らえる事ができたからだ。


 ん? さすがに遠すぎて、ぼんやりとしか見えないのだが、なんだか見覚えのある人の気がする。

その人影と一瞬目が合ったような……? いや、目が合ったかどうかなんて、俺には遠すぎてわからないんだけれど、少なくともあちらは俺の事を認識したのか、こちらへ向かってきているようだ。

しかも全力疾走で。嫌な予感がする。



 「見つけたぞ! 人攫ひとさらいめ! 我があるじを返してもらおう!」



 鬼若の一声から始まった言葉の応酬は、俺が口を挟む隙を見せる事はなかった。

というか「ベルフェゴールはガチに悪魔なんだな」って理解させられたね。

あの威圧感に俺は口を閉ざしてしまっていたし。

俺は胸の圧迫感があれば十分だったのに……。知りたくない一面を知ってしまった。



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 ……と、ここまでが今まであった事のあらましだ。

うん、理解が追いつかない。どうしたものか。


 ともかくだ。どうやら鬼若は俺の事を知っているようで、ベルフェゴールは何のことだかさっぱりという態度を取っている。

キミの抱えてるのがそれなんだよー? と言ってあげれば済む話ではあったが、仮にもSSR★7の言い争いだ。★1にすらなれそうにない、一般人の俺が仲裁などできようか。


 とりあえず今のところは、タイミングよくメンテナンスに入ったため、ゆっくりとこれからの事を考えるとしよう。

このタイミングの良さは誰の幸運なのだろう? 少なくとも俺でない事は確かなんだけど。

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