爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

810連目 モフモフの悪魔

公開日時: 2021年1月31日(日) 18:05
文字数:2,772

前回のあらすじ

『ケモナー三銃士、はじめてのアルバイト』


外注さんの今日のひとこと

『毛刈り体験とかもできるんかなー?』

 さて、どうしたものか……。現在、俺は非常に困っている。

ケモナー三銃士のバイト先にアルダの牧場を勧めて、付いて来たのはいい。

そしてカオリの事も多少聞き出せた。あとは三人の世話を頼んで帰るだけだった。

そのつもりだったのに……。



「チヅルは私が帰ると、いつも決まって好物を作ってくれるんですよ」


「ヘェ……」


「といっても、チヅルの作る料理全てが好物なんですけどね」


「ウンウン」


「その中でもですね……」



 ……これが三日三晩続くという、チヅル自慢だろうか。もうおうちかえりたい……。

でも、ケモナー三銃士というクセのある奴らを預かってもらう以上、適当にあしらって切り上げるのも気が引けたのだ。

困った……。非常に困ったぞ……。

しかし、ただ相槌を打つだけなのもどうかと思う。アルダは気にしてないだろうけど。



「なぁアルダ。アルダは、この牧場に住み込みで働いてるんだよな?」


「えぇ、そうですよ。できるのであれば、毎日チヅルの元へ帰りたいのですがね」


「家から通えないのか? 前に家に行った時、そんなに時間もかからなかったと思うけど」



 アルダは俺の言葉に目を丸くしている。

何か変な事言っただろうか。普通の疑問なんだけどな。



「お忘れですか? あの時、亜空間を通っていたじゃないですか」


「あぁそうだな。けど、時間はかからないし、亜空間通ればすぐなんだろ?」


「いえいえ、そんな贅沢な使い方できませんよ。

 私の甲斐性じゃ、せいぜい月に1、2回が限度ですね」


「あ、もしかして、通行料金かかるとか?」


「えっ……?

 あぁ、そういえば、落雷で記憶がどうとか言ってましたね」



 あぁ……、久々にやっちまったか。どうやら、この世界の常識を聞いてしまったようだ。

けれどアルダは事情を知っているのもあり、丁寧に教えてくれる。



「亜空間を通るのに必要なのは、お金ではなく魔力です。

 もちろん、学園運営局うんえいの強制召喚には必要ありません。それは、学園運営局うんえいが肩代わりしてくれますからね。

 あと、学園運営局うんえいに、いくばくかの大金を渡せば魔力を補ってくれるので、その方法であれば、お金でも通れますけどね。

 そういった例外を除けば、魔力が必要で、私のようなR+☆4の身には、贅沢な移動法なんですよ」


「それじゃ、前に連れて行ってもらった時は、かなり無理してたのか」


「いえ、ゲートを開くのに魔力が必要なのですが、一度に複数人通るのならばさほど変わりません。

 もちろん、ゲートの維持時間が長くなるような人数であれば別ですが」


「なるほどな」



 つまり亜空間を通るのは、前世で言えば新幹線や飛行機で移動するのと同じ感覚なのだろう。

そこで、ふと思い出したことがあった。



「あれ? そういや、前にアーニャがこっち来てたんだが」


「え? アーニャが? まさか一人で!?」


「いや、契約者の白クマロベールと一緒だったけど」


「ロベール……。確かにロベールなら、SSR☆7なので納得できますが……」



 うぬぬと唸るアルダ。もしかして、いや、もしかしなくても言わない方が良かっただろうか。

一応、深夜に来た事は黙ってるつもりだったが、考えてみれば10歳の一人娘が、保護者と呼べるかも怪しいクマと共に、新幹線に乗って遠出するようなもんだ。

あ、クマが前世だとどの程度の立ち位置になるかだが、面倒なので、それは理科のテストの摩擦係数と同じく、考慮しないものとする。

ともかく、それを聞いて心配しない親などいないだろう。



「あ、ほら……。もしかすると、他の用事で、誰かと一緒に来てたんじゃないか?

 それで、ついでに俺の所に顔出したんじゃないかな? だから心配すること無いと思うぞ?」


「確かに心配は心配ですけど、それ以上に!

 なぜ私の所に寄らなかったのかが問題なのです!!」


「お前……、ホント……」



 あきれて言葉が出ないとはこの事である。家族の事となると、とんだポンコツだ。

当の本人は俺の反応に“?”を浮かべてるけどな。



「あ、アーニャと言えば、もうすぐ修学旅行ですよね」

「えらく話が飛んだな。まぁ、そうなんだけど。

 今日連れてきた三人も、その時のお小遣いが欲しくてバイトするんだってさ」

「そうなんですか。それでですね、アーニャにも会うと思うので、渡して欲しい物があるんですよ」

「え? なんでアーニャに会うんだ?」

「……。また説明いります?」

「お願いします……」



 アルダの事をポンコツ呼ばわりしていたが、多分アルダも、俺の事そう思ってるんだろうな。

さすがに口には出さないし、丁寧に教えてくれるんだけどな。


 それによれば、修学旅行は全ての学校・学年が同じ所へ一緒に行くそうだ。

旅行先の宿泊施設足りるのかと疑問に思ったが、その辺はこの世界の普通に合わせて整備されているんだろう。

というか、多分大丈夫なように、神様的なあの人が何とかしてるんだろう。


 そんな民族大移動のような修学旅行であるが、思い出してみればゲームのときも学校関係のイベントは、学年や学校で分けずに開催する事になっていた。

そうしないと、イベントに出せるキャラが減ってしまうのだから仕方ないな。

つまり大人運営会社の事情というヤツだ。



「そういう事ですので、アーニャにこれを……」



 アルダはテーブルの上に箱を置く。それは30cm四方、高さは10cm程度。

クマ目測はいつも通り適当なので、実際の寸法など知らない。

けれど、その箱は見覚えがある。



「なんかケーキの箱っぽいな」


「ほぼ正解ですよ。これは貰い物のバームクーヘンです。

 帰った時に、家族で食べようかと思ってたのですが、修学旅行の時に皆さんでどうぞ」


「へぇ、バームクーヘンか。おやつによさそうだな。アーニャに渡しておくよ」



 その箱を受け取ろうとした時ドアがノックされる。

そして、ひょこっと顔を現したのは……。



「あのー、もしかして呼びましたか?」


「え……。バウム、研修はどうしました?」


「それが、みなさんを連れてアルパカの所に行ったんですが……。

 機嫌が悪かったのか、ツバを吐かれてしまったので、シャワーを浴びに来たんですよ」


「あぁ、アレはかなり臭いらしいな。三人は大丈夫か?」


「彼らならその……。『我々の業界ではご褒美です』とかなんとか……」



 どこの業界だよ! というツッコミは野暮である。あいつらなので仕方ない。

それよりも、先ほどからアルダの動きがぎこちない。

一体どうしたのかと思えば……、バウムが俺の手元をまじまじと見つめている。


 まさかバームクーヘンを狙ってる!?

あ、もしかしてバウムに隠してたんだな。そりゃ気まずいよなぁ……。



「バウム。貰い物のチーズケーキがあるのですが、食べますか?」


「是非!!」



 アルダはチーズケーキを生贄に、愛娘への贈り物を死守したようだ。

というか、あのチーズケーキも貰い物だったのかよ。色々貰えていい職場だなぁ。

そうして、ケモナー三銃士含めた、6人でのお茶会が始まるのだった。

うん、帰るタイミング完全に見失ったな。

貰い物のお菓子をこっそり食べようとして、見つかったら気まずいよね。


『いや、なんでそんなに貰い物のお菓子があるかの方が気になるんやけど』


そりゃ、牛乳や蜂蜜生産してるからね。

菓子工場との取引があるんでしょ。


『なるほど、新商品の試作品を貰ったりって事やな』


それをしれっと自分の物にするんだから、アルダは意外とセコい。


『バレたんも天罰やな』


ま、それはいいんだけどさ。今月章、章題拾ってなくね?


『あぁ、章題は“四月の雨で五月に花が咲く”ってことわざの引用やし』


という事は、5月章に向けての前フリでしかなかったと?


『……プロット投げてくるの、上神様ですよね??』


フフフ、そうでしたっけ?

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