前回のあらすじ
『ケモナー三銃士、はじめてのアルバイト』
外注さんの今日のひとこと
『毛刈り体験とかもできるんかなー?』
さて、どうしたものか……。現在、俺は非常に困っている。
ケモナー三銃士のバイト先にアルダの牧場を勧めて、付いて来たのはいい。
そしてカオリの事も多少聞き出せた。あとは三人の世話を頼んで帰るだけだった。
そのつもりだったのに……。
「チヅルは私が帰ると、いつも決まって好物を作ってくれるんですよ」
「ヘェ……」
「といっても、チヅルの作る料理全てが好物なんですけどね」
「ウンウン」
「その中でもですね……」
……これが三日三晩続くという、チヅル自慢だろうか。もうおうちかえりたい……。
でも、ケモナー三銃士というクセのある奴らを預かってもらう以上、適当にあしらって切り上げるのも気が引けたのだ。
困った……。非常に困ったぞ……。
しかし、ただ相槌を打つだけなのもどうかと思う。アルダは気にしてないだろうけど。
「なぁアルダ。アルダは、この牧場に住み込みで働いてるんだよな?」
「えぇ、そうですよ。できるのであれば、毎日チヅルの元へ帰りたいのですがね」
「家から通えないのか? 前に家に行った時、そんなに時間もかからなかったと思うけど」
アルダは俺の言葉に目を丸くしている。
何か変な事言っただろうか。普通の疑問なんだけどな。
「お忘れですか? あの時、亜空間を通っていたじゃないですか」
「あぁそうだな。けど、時間はかからないし、亜空間通ればすぐなんだろ?」
「いえいえ、そんな贅沢な使い方できませんよ。
私の甲斐性じゃ、せいぜい月に1、2回が限度ですね」
「あ、もしかして、通行料金かかるとか?」
「えっ……?
あぁ、そういえば、落雷で記憶がどうとか言ってましたね」
あぁ……、久々にやっちまったか。どうやら、この世界の常識を聞いてしまったようだ。
けれどアルダは事情を知っているのもあり、丁寧に教えてくれる。
「亜空間を通るのに必要なのは、お金ではなく魔力です。
もちろん、学園運営局の強制召喚には必要ありません。それは、学園運営局が肩代わりしてくれますからね。
あと、学園運営局に、いくばくかの大金を渡せば魔力を補ってくれるので、その方法であれば、お金でも通れますけどね。
そういった例外を除けば、魔力が必要で、私のようなR+の身には、贅沢な移動法なんですよ」
「それじゃ、前に連れて行ってもらった時は、かなり無理してたのか」
「いえ、ゲートを開くのに魔力が必要なのですが、一度に複数人通るのならばさほど変わりません。
もちろん、ゲートの維持時間が長くなるような人数であれば別ですが」
「なるほどな」
つまり亜空間を通るのは、前世で言えば新幹線や飛行機で移動するのと同じ感覚なのだろう。
そこで、ふと思い出したことがあった。
「あれ? そういや、前にアーニャがこっち来てたんだが」
「え? アーニャが? まさか一人で!?」
「いや、契約者の白クマロベールと一緒だったけど」
「ロベール……。確かにロベールなら、SSRなので納得できますが……」
うぬぬと唸るアルダ。もしかして、いや、もしかしなくても言わない方が良かっただろうか。
一応、深夜に来た事は黙ってるつもりだったが、考えてみれば10歳の一人娘が、保護者と呼べるかも怪しいクマと共に、新幹線に乗って遠出するようなもんだ。
あ、クマが前世だとどの程度の立ち位置になるかだが、面倒なので、それは理科のテストの摩擦係数と同じく、考慮しないものとする。
ともかく、それを聞いて心配しない親などいないだろう。
「あ、ほら……。もしかすると、他の用事で、誰かと一緒に来てたんじゃないか?
それで、ついでに俺の所に顔出したんじゃないかな? だから心配すること無いと思うぞ?」
「確かに心配は心配ですけど、それ以上に!
なぜ私の所に寄らなかったのかが問題なのです!!」
「お前……、ホント……」
あきれて言葉が出ないとはこの事である。家族の事となると、とんだポンコツだ。
当の本人は俺の反応に“?”を浮かべてるけどな。
「あ、アーニャと言えば、もうすぐ修学旅行ですよね」
「えらく話が飛んだな。まぁ、そうなんだけど。
今日連れてきた三人も、その時のお小遣いが欲しくてバイトするんだってさ」
「そうなんですか。それでですね、アーニャにも会うと思うので、渡して欲しい物があるんですよ」
「え? なんでアーニャに会うんだ?」
「……。また説明いります?」
「お願いします……」
アルダの事をポンコツ呼ばわりしていたが、多分アルダも、俺の事そう思ってるんだろうな。
さすがに口には出さないし、丁寧に教えてくれるんだけどな。
それによれば、修学旅行は全ての学校・学年が同じ所へ一緒に行くそうだ。
旅行先の宿泊施設足りるのかと疑問に思ったが、その辺はこの世界の普通に合わせて整備されているんだろう。
というか、多分大丈夫なように、神様的なあの人が何とかしてるんだろう。
そんな民族大移動のような修学旅行であるが、思い出してみればゲームのときも学校関係のイベントは、学年や学校で分けずに開催する事になっていた。
そうしないと、イベントに出せるキャラが減ってしまうのだから仕方ないな。
つまり大人の事情というヤツだ。
「そういう事ですので、アーニャにこれを……」
アルダはテーブルの上に箱を置く。それは30cm四方、高さは10cm程度。
クマ目測はいつも通り適当なので、実際の寸法など知らない。
けれど、その箱は見覚えがある。
「なんかケーキの箱っぽいな」
「ほぼ正解ですよ。これは貰い物のバームクーヘンです。
帰った時に、家族で食べようかと思ってたのですが、修学旅行の時に皆さんでどうぞ」
「へぇ、バームクーヘンか。おやつによさそうだな。アーニャに渡しておくよ」
その箱を受け取ろうとした時ドアがノックされる。
そして、ひょこっと顔を現したのは……。
「あのー、もしかして呼びましたか?」
「え……。バウム、研修はどうしました?」
「それが、みなさんを連れてアルパカの所に行ったんですが……。
機嫌が悪かったのか、ツバを吐かれてしまったので、シャワーを浴びに来たんですよ」
「あぁ、アレはかなり臭いらしいな。三人は大丈夫か?」
「彼らならその……。『我々の業界ではご褒美です』とかなんとか……」
どこの業界だよ! というツッコミは野暮である。あいつらなので仕方ない。
それよりも、先ほどからアルダの動きがぎこちない。
一体どうしたのかと思えば……、バウムが俺の手元をまじまじと見つめている。
まさかバームクーヘンを狙ってる!?
あ、もしかしてバウムに隠してたんだな。そりゃ気まずいよなぁ……。
「バウム。貰い物のチーズケーキがあるのですが、食べますか?」
「是非!!」
アルダはチーズケーキを生贄に、愛娘への贈り物を死守したようだ。
というか、あのチーズケーキも貰い物だったのかよ。色々貰えていい職場だなぁ。
そうして、ケモナー三銃士含めた、6人でのお茶会が始まるのだった。
うん、帰るタイミング完全に見失ったな。
貰い物のお菓子をこっそり食べようとして、見つかったら気まずいよね。
『いや、なんでそんなに貰い物のお菓子があるかの方が気になるんやけど』
そりゃ、牛乳や蜂蜜生産してるからね。
菓子工場との取引があるんでしょ。
『なるほど、新商品の試作品を貰ったりって事やな』
それをしれっと自分の物にするんだから、アルダは意外とセコい。
『バレたんも天罰やな』
ま、それはいいんだけどさ。今月章、章題拾ってなくね?
『あぁ、章題は“四月の雨で五月に花が咲く”ってことわざの引用やし』
という事は、5月章に向けての前フリでしかなかったと?
『……プロット投げてくるの、上神様ですよね??』
フフフ、そうでしたっけ?
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