爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

1010連目 砕かれた願い

公開日時: 2021年2月10日(水) 18:05
文字数:2,848

前回のあらすじ

『サンタの爺さん演説会』


外注さんの今日のひとこと

『誰の願いが砕かれたのか』

 アイリの暴走によって、一度はどん底に叩き落された会場の雰囲気は、サンタの爺さんによって持ち直され、最悪の事態は免れた。


 しかしその中に一人、まだ地の底を這うように暗い顔をする者がいた。カオリだ。

クロの純真無垢な「カオリと共に居たい」という発言は、この世界をまもなく立つカオリにとっては、この上なく苦しい言葉だった。

そして今、それを伝えようとしている。


 カオリはクロと視線を合わせるよう膝を付き、できる限りの笑顔で……。

今にも泣き崩れてしまいそうなのに、それでも別れは笑顔で言いたいと、必死に涙を押さえつけるような、痛々しい笑顔でクロに語りかけるのだ。



「ごめんね、クロ。私は……、元の世界に帰らないといけないの……」


「どっ……、どういう事ですか!? “元の世界”はないんじゃないんですか!?」


「えっと……、それはね……」



 クロは“元の世界”が、どこのことか分かっていないようだった。

来訪者であるクロにとっての“元の世界”とは、ゲームの設定にしか存在しない場所だ。

なので、カオリの“元の世界”も存在しないと考えているのだ。

そしてカオリも、それをどう説明すべきか言葉に詰っていた。



「クロ、カオリの言う元の世界ってのは、この世界ゲームを作った奴の居る世界だ。

 そして俺も、その世界からここへやって来た一人だ」


「この世界を作った人……? 神様ですか?

 ということは、ごしゅじんもまくらさんも神様なのですかっ!?」


「えっ……。いや……、うーん。

 神様じゃないけど、今の説明だとイメージ的にはそうなっちゃうのか?」



 中途半端な説明に、俺自身が混乱しそうになっている。

もうちょっと良い説明はないものか……。



「ともかく、アイリの居る世界が、俺達の元居た世界なんだ。

 そこから、俺とカオリはこっちへ来たんだ」


「では、主様も元の世界へ……?」


「いや、俺はワケアリでな。戻らないよ」



 それを聞いた鬼若は、少しほっとしたような顔をしたが、すぐにを認識したようで、説得してくる。



「主様、この世界に残るという意味を、わかっていらっしゃるのですか!?」


「もちろん」


「主様はカオリ様と共に元の世界へと帰るべきです!

 俺達のように、無から生まれた存在とは違うのですよ!?」


「それは卑下しすぎだ。

 俺はたとえ鬼若達がどういう存在であっても、今ここに居るのだから、俺と何にも変わらないと思ってるさ」


「……主様、俺達に遠慮しているのなら、そんな必要などないのです」


「あーっと、そういうワケじゃなくてだな……。

 言い方が悪かったな。俺は帰れないんだよ。だから気にすんな」


「しかし……」


「これは決定事項だ。覆らないし、覆せないさ。

 それに、今はカオリの事だ」



 鬼若はまだ何か言いたそうにしていたが、ふと我に返りクロへと目をやった。

鬼若も気付いたのだ、自分と同じように主を想うクロが、カオリとの別れを受け入れられはしないだろうと。

しかし、そんな俺達の心配とは裏腹に、俯いた顔を上げたクロは、満面の笑みで言ってのけたのだ。



「ごしゅじんはおうちに帰れるんですね! それはとっても良かったのです!

 クロも嬉しいのです!」


「クロ……。ごめんね……、ごめんね……」



 クロをしっかりと抱きしめそう言うカオリの瞳は、必死に堪えていたが、その抵抗むなしく、大粒の涙が溢れ出した。

ぽろぽろと零れ落ちるそれを指でぬぐいながら、クロは続けるのだ。



「あやまらないで下さい。クロは大丈夫なのです。

 鬼若君やベル姉さん、アルダさんやセイヤさん……。

 いろんな人が居るので、寂しくなんてないのですよ。

 ごしゅじんが居なくても、クロは大丈夫なのです」



 泣きじゃくるカオリの背を撫でながら、そう言うクロの姿は、子をあやす母のようだった。

いや、実際にカオリがこちらにやって来てから10年、その間ずっとクロはカオリの親代わりだったのだろう。


 しかしその姿と発言に、俺は違和感を覚えたのだ。

クロがカオリをあやしている、その事自体ではない。


 クロは賢い子だ、先の発言も、俺とカオリの契約者の名を上げたが、俺の名は出さなかった。

それはおそらく俺を帰す方法を探そうとする鬼若を思ってであり、俺が帰りにくい雰囲気を作らないための配慮だろう。

それに何より……。



「クロ、本当にそれでいいのか? それがお前の本心なのか?」


「なっ、なんですかまくまさん……。

 クロは本当に、ごしゅじんが帰れるのを喜んでいるのですよ?」



 クロは最後まで、カオリのために笑って送り出そうとしている。

カオリが悲しまないように、何も思い残す事無く旅立てるように。


 けれどそれは、二人にとって良い選択だと俺は思えない。

お節介だと解っていても、俺は口を挟まずにはいられない。

クロのために、そして誰よりカオリのため……。

俺の願いワガママで帰る事になった、カオリのために。



「クロ、こんな時まで“いい子”でいる必要はないんだ。自分の気持ち、誤魔化さないでくれ」


「クロは本当の事しか言ってないのですっ!

 まくまさんに言われる筋合いはないのですよっ!!」


「そうだなクロ。けどお前は、みんなが寂しくないって言ったよな。

 でもそれは……、カオリが寂しくないって事なのか?」


「っ……!」



 何も言えず俯いてしまう。クロは嘘などついてはいない。

けれど本当の事も言わなかった。「カオリが居なくても大丈夫、みんながいるから寂しくない」それが「カオリが居なくても寂しくない」と同じではない。


 その事にカオリが気付くかは分からない。

けれど俺は気付いてしまったから、ちゃんとクロの本心をカオリに聞かせてやりたかった。

そしてクロに言わせてやりたかった。


 言いたいことがあったのに、言えなくなってしまう。

それが分かっているのに、後悔を残すなんて寂しすぎるからな……。



「クロだって……、クロだってこしゅじんが居なくて寂しくないわけないですよっ……!!」



 今まで必死に押さえていた本心が、ダムの決壊のようにあふれ出す。

わんわんと泣き出し、カオリと二人、会場を涙の海に沈めんとしていた。

その中に、誰よりもその姿を哀れみの目で見つめる者が居た。



「クロよ……」



 ただ一言そう発したものの、続く言葉などなかった。

未だ正体を明かしていない“俺の妹”は、ただ見ているしかなかったのだ。

何より、クロに必要な言葉は、彼女から発せられるはずはない。



「クロ……。お願い、嘘はつかないで……。言葉だけじゃない、自分の心に……」



 泣きながら、詰りながらのその言葉は、サンタの爺さんのようにうまく練り上げられたものではなかった。

けれどクロにはそれで十分だったのだ。



「クロは……、ずっとずっとごしゅじんと一緒に居たいのですっ……。

 ううん、ごしゅじんだけじゃなく、まくまさんとも……。 

 他のみんなとも、ずっとずっと仲良くしてたいのですっ……」



 涙でぐしゃぐしゃになりながら、クロはやっと本心を漏らした。

そして、その本心は、思わぬ方向へ飛び火するのだった。


「なのにっ……! なのにカミサマは……!

 クロの願いなんて、聞き届けてはくれなかったのですっ……!!」

「クロ……、健気なんだぜ……」


『クロは、アイルランド系ヘル★ハウンドやからな』


「色々気になるけど……、その★はなんなんだぜ?」


『かわええやろ?』


「ヘルハウンドに可愛さを求めるのは、常軌を逸してるんだぜ」


『それ今さらやん』


「で、その情報はどこから仕入れたものなんだぜ?」


『設定集っす』


「前回に続き、最も出してはいけないシロモノな気がするんだぜ……」


『明石っくれこーどみたいなもんやしな』


「明石っく?? まぁいいんだぜ。それよりも気になる事があるんだぜ」


『知りたいこと何でも教えよう(設定集調べ』


「そこには、私の設定ももちろんあると思うんだぜ。それを教えて欲しいんだぜ」


『ツッコミなかった……。まわええわ、何でもと言ったし教えたろか』


「ちょっとドキドキするんだぜ……」


『えぇと……。“世界を正す者”らしいよ』


「えらくざっくりしてんだぜ!?」


『運営の代わりに世界を管理する者、って事なんかな?』


「うーん……。一応そのまんまな意味っぽいんだぜ」


『まぁ、だからこそアイリに管理権限渡った時点で、御役御免になってこっち来たんだし』


「そう言われてみればそうなんだぜ」


『満足?』


「ちょっとひっかかるけどいいんだぜ。

 次回もゆっくり読んでいってね!!」

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