爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

450連目 あやしい会議

公開日時: 2021年1月13日(水) 12:05
文字数:2,923

前回のあらすじ

「恵方巻きの大量生産こそが風物詩なのかもしれん」


ガチャ神の今日のひとこと

「しばらく豆は見たくないのじゃ……」



「皆の者、忙しい中よく集まってくれた。

 では、“獣人を愛でる会 定例会議”を行う」



 放課後に帰ろうとしていた俺が、拉致され連れてこられた空き教室では、なにやら怪しい集会が開かれていた。

部屋の中には俺とカオリ、そして例のケモナーグループこと“獣人を愛でる会”のメンバー五人。

そしてなぜか、レオン先生も居る。総勢八名と、弱小部活ほどの規模だ。



「その前に、色々聞きたい事があるんだが……」


「熊氏、会議では挙手をしてからの発言をお願いしますぞ」


「えっ……。じゃぁ、ハイ。質問してもよろしいでしょうか」



 俺が手を上げ発言の許しを請えば、他の会員達に「かわいい」と言われながら、端末スマホで写真を撮られた。

まさか、写真撮りたいから挙手させたのか?

もう嫌な予感しかしないが、今回はカオリとレオン先生も居るし、大丈夫だよな?



「静かに。熊氏、質問をどうぞ」


「えっと、なんで俺は連れて来られたんだ? それに、レオン先生も」


「それについてはまず、我らの活動内容を知ってもらわねばなりませんな」


「はいはい! 僕が説明するよー。

 僕たちは、獣人の生活と、地位向上を目的とした秘密結社なんだよー。

 活動内容は、獣人を不当に扱う人の通報だったり、獣人への理解が深まるように、広報活動を行う事がメインかなー?」



 説明役を買って出たのは、緑髪の男子生徒だ。

例の毛皮事件の際に、ドレッドヘア風なのを薦めて来たヤツなのだが、彼だけ口調が少し違う。

彼らは低レアリティの使い回しコンパチキャラなので、同じ見た目で、色以外の差異が無いのが通例だ。

この辺の違いは、ガチャ神の気まぐれなのだろうか?


 それよりも、説明された内容だ。意外なまでに彼らの活動内容は普通だ。

というよりも、説明をそのまま信じるならば、獣人に感謝されてもいいような内容だ。

なのに、ヨウコが嫌っていたのが気になるな。

あと、秘密結社なのも気になる。なぜ秘密にしつつ広報活動をするのか……。矛盾してないか?



「なんというか、意外とちゃんとした組織なんだな」


「非公認であり、秘密結社としているため、表立っての活動はできんのだがな」


「うーん、色々ツッコミどころあるんだけど、秘密結社ならレオン先生やカオリはいいのか?」



 そう言って、レオン先生をみれば、我関せずといった具合に腕を組み、目を瞑っていた。

先生、ヤバい組織に関わった事後悔してません? それとも諦めの境地からの瞑想ですか?



「我らはレオン先生に、熊氏に手を出さないという誓いを立てている。

 なので、この会議でもそれを守っている事を、本人に見てもらおうと考えたのだ。

 カオリ氏に関しては、本来席を外してもらうべきだが……」


「私はまくま君のマネージャーだから、今後も何かあるなら同席するよ」


「……。我らの存在や活動を外部に洩らさないのであれば、問題はない。

 いやむしろ、この際カオリ氏も会員になってもらうか……」



 議長らしき赤髪の男子生徒は少し思案しているようだ。

しかし、カオリをこんな怪しい会に入れるのはやめてもらいたい。

なにより、クロと契約している事がバレれば、クロの身が危ない。

こういう場合は考えさせずに、話を進めてしまおう。



「それで、結局呼ばれた理由は?」


「今回の議題には、熊氏の協力を得たいと考えているからだ」


「今回の議題?」


「今回の議題、それは“バレンタイン対策会議”だ!!」


「は??」



 やっぱり、こいつら頭おかしい奴らだったのだろうか。

チョコをもらえるかもらえないかを議論するのか?

たとえその議論をしたとして、何を対策するというのだ。



「熊氏、なにやら勘違いしてはいないだろうな?

 我らは、バレンタイン撲滅作戦などは考えていないぞ?」


「まったく話が見えないんで、とりあえず説明してくれるか?」


「僕たちはねー、バレンタインにプレゼントされたチョコレートで、体調不良になる獣人を減らすために、毎年この時期は広報活動をしてるんだよー」


「そう。獣人にとっては、チョコレートで中毒症状を起こす場合があるのだ。

 もちろん動物とは違い、体格も大きいので少量ならば問題になる事はないだろう。

 それでも、人間の無理解によって、獣人が苦しむのを放ってはおけんのだ!!」



 たしかに、犬や猫にチョコレートを食べさせてはいけないって言うよね。

なんて思いつつ、レオン先生に目をやれば、うんうんと頷いている。

あぁ、先生も経験あるのね……。


 見落としがちだけど、そういうのって大事だし、見かけや普段の行いはアレだけど、こいつらってちゃんと考えてるんだなぁ。

と、感心しかけた俺に、カオリが一言物申した。



「えっ? でも普通は、店で獣人対応の物を買うから、大丈夫じゃないの?」


「え? そういうものがあるんだ? じゃあ、心配することもないか」


「甘い! 甘いぞ貴様等!! チョコレートよりもあまーーーい!!」



 カオリと俺の反応に怒り心頭といった雰囲気だ。

いや、そこまで荒ぶってるのは、議長的なポジションの赤髪ケモナーだけだけど。



「いや、ちゃんと獣人用があって、獣人に渡すならそれを買うから問題ないだろ?」


「そうなんだけどねー、最近学園都市の外から来たような人や、余った分をあげる人が非対応品を渡す事もあるんだよー。

 それに貰った方も、買ったものなら対応マークで見分けられるんだけど、買わずに手作りしたようなのだったり、確認不足で毎年何件か事故が起きてるんだよー」


「へぇ、そりゃ問題だよな」


「そこで、今回は熊氏を含め、皆で注意喚起のビラを配ろうと考えたのだ」


「で、熊君は人気あるから、客寄せクマさんになって貰おうって計画なんだよー」



 あぁ、だから俺が必要だったのか。

まぁ、やろうとしている事は悪いことじゃないし、手伝ってやるか。

俺だって、契約者にバウムやイナバのような獣人が含まれているし、誰にも不幸な目には遭って欲しくないからな。



「そういう事だったらいいよ。

 幸運な事に、今のこの姿は女子人気があるし丁度いいよな」


「話が通じるクマで良かった!

 ではさっそく、ビラ配りの計画なんだが……」



 そう言って、彼らはビラの内容やデザインを話し始めた。

俺は配る事は手伝うが、中身に関しては素人だ。任せてしまって、最終的に“普通な人の意見”を述べるに留めよう。


 というか、俺はクマじゃなくて“クマ型抱きまくら”なんだけどな……。まぁいいか。

そんな風に会議の様子を眺めていれば、小声でカオリに大事な事実を告げられる。



「まくま君、学園都市では、バレンタインは女の子からって決まりはないからね?」


「えっ……、マジか? ってことは、俺も何か用意した方がいいのかな?」


「うん。だから、いつものお礼として、ベルさんへのプレゼントを一緒に考えようね」


「うーん、ベルも既にチョコレートは用意してるっぽいしなぁ……」


「あ、こっちではチョコレートっていう決まりもないからね。

 外から来た人はその習慣持ってるみたいだけど、こっちでは相手の喜びそうなものなら、なんでもいいんだよ」


「へぇ、カオリは学園都市外の事も詳しいんだな」


「ほどほどには、ね」



 ベルの喜びそうなものか~、何が欲しいかなんて全然わかんないな。

まぁ、カオリが一緒なら、あまり心配はいらないだろうけどね。

それにしても、いらぬ会に入ってしまったが故に、今後は忙しくなりそうだ。

さくさくと次のイベント準備しないといけなくて忙しいな。


「クリスマスからお正月への時も忙しいがの」


バレンタインに続くひな祭りの影の薄さ……。


「関係する人数が性別で半減した上に、対象が子供じゃからの」


そこからのホワイトデーも、またパッとしないよな。


「バレンタインに貰って無い者には関係ないからの……」


これが格差社会か……。そんな世界は破滅させねば……。


「おっかないのう。邪神堕ちが唐突なのじゃ」


まぁ半分冗談ですけど。


「残り半分が本気なのが問題じゃ」


一回滅亡させとくー?

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