前回のあらすじ
「恵方巻きの大量生産こそが風物詩なのかもしれん」
ガチャ神の今日のひとこと
「しばらく豆は見たくないのじゃ……」
「皆の者、忙しい中よく集まってくれた。
では、“獣人を愛でる会 定例会議”を行う」
放課後に帰ろうとしていた俺が、拉致され連れてこられた空き教室では、なにやら怪しい集会が開かれていた。
部屋の中には俺とカオリ、そして例のケモナーグループこと“獣人を愛でる会”のメンバー五人。
そしてなぜか、レオン先生も居る。総勢八名と、弱小部活ほどの規模だ。
「その前に、色々聞きたい事があるんだが……」
「熊氏、会議では挙手をしてからの発言をお願いしますぞ」
「えっ……。じゃぁ、ハイ。質問してもよろしいでしょうか」
俺が手を上げ発言の許しを請えば、他の会員達に「かわいい」と言われながら、端末で写真を撮られた。
まさか、写真撮りたいから挙手させたのか?
もう嫌な予感しかしないが、今回はカオリとレオン先生も居るし、大丈夫だよな?
「静かに。熊氏、質問をどうぞ」
「えっと、なんで俺は連れて来られたんだ? それに、レオン先生も」
「それについてはまず、我らの活動内容を知ってもらわねばなりませんな」
「はいはい! 僕が説明するよー。
僕たちは、獣人の生活と、地位向上を目的とした秘密結社なんだよー。
活動内容は、獣人を不当に扱う人の通報だったり、獣人への理解が深まるように、広報活動を行う事がメインかなー?」
説明役を買って出たのは、緑髪の男子生徒だ。
例の毛皮事件の際に、ドレッドヘア風なのを薦めて来たヤツなのだが、彼だけ口調が少し違う。
彼らは低レアリティの使い回しキャラなので、同じ見た目で、色以外の差異が無いのが通例だ。
この辺の違いは、ガチャ神の気まぐれなのだろうか?
それよりも、説明された内容だ。意外なまでに彼らの活動内容は普通だ。
というよりも、説明をそのまま信じるならば、獣人に感謝されてもいいような内容だ。
なのに、ヨウコが嫌っていたのが気になるな。
あと、秘密結社なのも気になる。なぜ秘密にしつつ広報活動をするのか……。矛盾してないか?
「なんというか、意外とちゃんとした組織なんだな」
「非公認であり、秘密結社としているため、表立っての活動はできんのだがな」
「うーん、色々ツッコミどころあるんだけど、秘密結社ならレオン先生やカオリはいいのか?」
そう言って、レオン先生をみれば、我関せずといった具合に腕を組み、目を瞑っていた。
先生、ヤバい組織に関わった事後悔してません? それとも諦めの境地からの瞑想ですか?
「我らはレオン先生に、熊氏に手を出さないという誓いを立てている。
なので、この会議でもそれを守っている事を、本人に見てもらおうと考えたのだ。
カオリ氏に関しては、本来席を外してもらうべきだが……」
「私はまくま君のマネージャーだから、今後も何かあるなら同席するよ」
「……。我らの存在や活動を外部に洩らさないのであれば、問題はない。
いやむしろ、この際カオリ氏も会員になってもらうか……」
議長らしき赤髪の男子生徒は少し思案しているようだ。
しかし、カオリをこんな怪しい会に入れるのはやめてもらいたい。
なにより、クロと契約している事がバレれば、クロの身が危ない。
こういう場合は考えさせずに、話を進めてしまおう。
「それで、結局呼ばれた理由は?」
「今回の議題には、熊氏の協力を得たいと考えているからだ」
「今回の議題?」
「今回の議題、それは“バレンタイン対策会議”だ!!」
「は??」
やっぱり、こいつら頭おかしい奴らだったのだろうか。
チョコをもらえるかもらえないかを議論するのか?
たとえその議論をしたとして、何を対策するというのだ。
「熊氏、なにやら勘違いしてはいないだろうな?
我らは、バレンタイン撲滅作戦などは考えていないぞ?」
「まったく話が見えないんで、とりあえず説明してくれるか?」
「僕たちはねー、バレンタインにプレゼントされたチョコレートで、体調不良になる獣人を減らすために、毎年この時期は広報活動をしてるんだよー」
「そう。獣人にとっては、チョコレートで中毒症状を起こす場合があるのだ。
もちろん動物とは違い、体格も大きいので少量ならば問題になる事はないだろう。
それでも、人間の無理解によって、獣人が苦しむのを放ってはおけんのだ!!」
たしかに、犬や猫にチョコレートを食べさせてはいけないって言うよね。
なんて思いつつ、レオン先生に目をやれば、うんうんと頷いている。
あぁ、先生も経験あるのね……。
見落としがちだけど、そういうのって大事だし、見かけや普段の行いはアレだけど、こいつらってちゃんと考えてるんだなぁ。
と、感心しかけた俺に、カオリが一言物申した。
「えっ? でも普通は、店で獣人対応の物を買うから、大丈夫じゃないの?」
「え? そういうものがあるんだ? じゃあ、心配することもないか」
「甘い! 甘いぞ貴様等!! チョコレートよりもあまーーーい!!」
カオリと俺の反応に怒り心頭といった雰囲気だ。
いや、そこまで荒ぶってるのは、議長的なポジションの赤髪ケモナーだけだけど。
「いや、ちゃんと獣人用があって、獣人に渡すならそれを買うから問題ないだろ?」
「そうなんだけどねー、最近学園都市の外から来たような人や、余った分をあげる人が非対応品を渡す事もあるんだよー。
それに貰った方も、買ったものなら対応マークで見分けられるんだけど、買わずに手作りしたようなのだったり、確認不足で毎年何件か事故が起きてるんだよー」
「へぇ、そりゃ問題だよな」
「そこで、今回は熊氏を含め、皆で注意喚起のビラを配ろうと考えたのだ」
「で、熊君は人気あるから、客寄せクマさんになって貰おうって計画なんだよー」
あぁ、だから俺が必要だったのか。
まぁ、やろうとしている事は悪いことじゃないし、手伝ってやるか。
俺だって、契約者にバウムやイナバのような獣人が含まれているし、誰にも不幸な目には遭って欲しくないからな。
「そういう事だったらいいよ。
幸運な事に、今のこの姿は女子人気があるし丁度いいよな」
「話が通じる人で良かった!
ではさっそく、ビラ配りの計画なんだが……」
そう言って、彼らはビラの内容やデザインを話し始めた。
俺は配る事は手伝うが、中身に関しては素人だ。任せてしまって、最終的に“普通な人の意見”を述べるに留めよう。
というか、俺はクマじゃなくて“クマ型抱きまくら”なんだけどな……。まぁいいか。
そんな風に会議の様子を眺めていれば、小声でカオリに大事な事実を告げられる。
「まくま君、学園都市では、バレンタインは女の子からって決まりはないからね?」
「えっ……、マジか? ってことは、俺も何か用意した方がいいのかな?」
「うん。だから、いつものお礼として、ベルさんへのプレゼントを一緒に考えようね」
「うーん、ベルも既にチョコレートは用意してるっぽいしなぁ……」
「あ、こっちではチョコレートっていう決まりもないからね。
外から来た人はその習慣持ってるみたいだけど、こっちでは相手の喜びそうなものなら、なんでもいいんだよ」
「へぇ、カオリは学園都市外の事も詳しいんだな」
「ほどほどには、ね」
ベルの喜びそうなものか~、何が欲しいかなんて全然わかんないな。
まぁ、カオリが一緒なら、あまり心配はいらないだろうけどね。
それにしても、いらぬ会に入ってしまったが故に、今後は忙しくなりそうだ。
さくさくと次のイベント準備しないといけなくて忙しいな。
「クリスマスからお正月への時も忙しいがの」
バレンタインに続くひな祭りの影の薄さ……。
「関係する人数が性別で半減した上に、対象が子供じゃからの」
そこからのホワイトデーも、またパッとしないよな。
「バレンタインに貰って無い者には関係ないからの……」
これが格差社会か……。そんな世界は破滅させねば……。
「おっかないのう。邪神堕ちが唐突なのじゃ」
まぁ半分冗談ですけど。
「残り半分が本気なのが問題じゃ」
一回滅亡させとくー?
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