「仕方ないわね。森口君に連絡して、一緒に捜査させてもらいましょう」
「えっ、いいんですか!?」
つくづく甘いと自分でも思うけれど、他の事が気になっている時は、何をやったって中途半端になるもの。
それなら少し融通を利かせた方がいいわ。
それに、彼の勘が当たっていたなら、急いだ方がいいかもしれないものね。
なんて自分に対する言い訳を考えたけれど、やっぱり無理がある。
「えぇ、この後行くつもりだった所は、明日以降に回しましょう。
相手方とタイミングが合わなかったってことにすればいいわ。ま、サボりってことだけどね」
「ありがとうございます!」
うん、サボりと明言してしまったほうがまだ気が楽かな。
ともかく、サボって遊んでるわけじゃないんだし、いざという時は森口君になんとかしてもらいましょう。
そんなやましい気持ちで電話すれば、いつも通りのユルい声が聞こえる。
彼はまだ現場に居たらしく、昨日も行ったゲームセンターで合流する事になった。
あの店の防犯カメラを見せてもらうそうだ。
そうして、仕事を放り出してしまった事に若干の罪悪感を抱きつつ店の前まで行けば、入り口から少し離れた場所で、警察犬のマサ君を撫で回す彼の姿が目に入った。
マサ君がいるということは、もちろん赤目さんも一緒だ。
「二人ともお疲れ様。無理言ってごめんなさいね」
「いいのいいの、ナトさんに手伝ってもらえるとありがたいしね~」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。それで、映像はもう見終わったの?」
「今からだよ。さっきまで、マサにニオイを辿ってもらってたんだ」
「それで、どうだったの?」
「途中で分からなくなっちゃったみたいで、ぐるぐる彷徨っちゃったんだよね……」
「いつも通りってわけね」
会話に自身の名前が出たせいか、耳をピンと立てこちらを見つめていたマサ君は、私たちの表情でどういった内容なのかを悟ったのか、若干残念そうな表情を見せた。
そんな彼を森口君は、「マサは悪くないよ~、いつもありがとね~」と慰める……フリをして、スリスリとその毛並みを堪能している。
「ともかく、映像の確認よね。このあたりに来てたのは間違いないのね?」
「うん。目撃者が居るからね。映ってるかどうかは分からないけど……」
「それじゃあ、さっそく行きましょうか」
「そだね。マサと赤目はここで待っててね~」
「そうね、警察犬といえども店に入るのはマズいものね」
「えぇ。では待機してますので、あとはよろしくお願いします」
口数の少ない赤目さんと、もふもふ攻撃の原因が去って一安心といったようなマサ君を残し、私たちは店へと入る。
すぐに向かえ入れてくれたのは、例の商売上手な店員さんだ。
さすがに、昨日の今日で同じように営業トークをされるとは思わないけど、彼女のペースには巻かれたくないものだ。
そう思っていたが、森口君はもはや顔パスのようで、親しげに話しだした。
「こんちわ。いつもお邪魔して悪いね。オーナーさんは居ます?」
「あー……。それが、今日はお休みなんですよ。急用でしたら連絡しますよ」
「いや、いいよ。いつも通り、防犯カメラの映像を見せて欲しいんだ」
「でしたら、事前に許可貰ってますので事務所へどうぞ」
どうやら、私たちが失踪者の家族の元へ何度も足を運び親しくなるように、彼もこの店の人達と十分良好な関係を築けているようだ。
でなければ、このように全面的な協力体制はとってもらえないだろう。
事務所に案内されれば守口君は、まるで勝手の知った……というよりは、自室のテレビのようにさっと防犯カメラの機械を操作しはじめる。
さすがに私も驚きを隠せず、店員に確認を取った。
「彼っていつもあんな感じなんですか?」
「えぇ。ほぼ毎日いらっしゃいますし、オーナーも了承の上ですからね」
「それにしたって、機械操作に迷いが無いわね……」
「オーナーも捜査には協力しますが、付きっきりという訳にはいきませんから。
なので、大抵はご自身でしていただいてるんですよ」
「だから昨日オーナーさんは、操作説明しましょうかって言ってたんですね」
信用されてるといえば聞こえはいいが、あまりにも自由すぎるというか……。
たぶんこんな事してるってバレたら、大問題になると思うのだけどね。
ま、バレなきゃいいのよ、バレなきゃ。……私たちのサボりもね。
呆れ顔の私と、困り顔の印南君を画面の前に呼び、森口君は映像の確認を始めた。
「終わりましたらお声がけ下さい」と店員さんは出て行ってしまったし、事務所には三人だけになる。
そして映像の再生を前に、今回の失踪者の写真を私たちに見せた。
「それじゃ、32倍速で再生するから、何か気付いたことがあったら言ってね」
「えぇ。この子を探せばいいのね?」
「映ってるか分からないけどね。でも、前みたいに不審者とかが映ってる可能性はあるかも」
「ということは、人を探すというよりは全体的に観た方がいいわね」
守口君はコクコクと頷き、映像を再生させた。
けれど、その映像は高速で動いていて、そういった細かい所まで気を配れる状態ではない。
それになにより、時折入るノイズや真っ黒になる瞬間があったりするので、集中力が削がれるのだ。
多くの人が行き交い、店を出入りしている。
その中には、店舗入り口に並ぶクレーンゲームに一喜一憂する客の姿があり、それは動きが少なくなるため非常に目立った。
けれど、やはりあのクレーンゲームは相当難易度が高いようで、みな景品を取れずにいるようだ。
今映っているのも、夏休みなのになぜか制服姿の女子高生二人組が、惜いところまではいったのか二人で盛り上がった後、ガックリと肩を落とす姿が映っている。
時刻は午後2時ごろの映像だ。
「今のところ普通よねぇ……。失踪した子の最後の目撃は、何時ごろなの?」
「お昼過ぎだから、映像は行き過ぎてるね」
「いちおう閉店まで続けましょうか。もうすぐ私たちが映ってるはずよ」
「そっか、昨日来てたんだったね」
そう話しているまさにその時、映像の中に私たちが入店してきた。
時間表示は午後5時ごろ。32倍速だとあっという間だ。
そして、印南君が画面隅に映るクレーンゲームにかぶりつき、私と話す風景が続く。
「……あら? それって変じゃない?」
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