爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

920連目 クマの名は

公開日時: 2021年2月6日(土) 12:05
文字数:3,052

前回のあらすじ

『まくら氏、局長に問い詰められる』


外注さんの今日のひとこと

『ソシャゲって乱発されすぎて、短命なの多いよね』



「……また会ったねクマさん達」



 入ってきた女はニッと笑いかけてくる。

エメラルドグリーンの帽子とマントを纏った姿は、修学旅行の夜に会ったアイツだ。



「アイリ……、さんだよね? どうしてここに?」



 アイリ部屋に招き入れると、再び局長はドアをしっかりと施錠する。

誰も入れぬよう、誰にも聞かれぬよう、そして誰も逃がさぬように。

その様子に、アイリがただの“新キャラ”でない事は明らかだった。



「……改めて自己紹介しないとね。

 ……アタシはLittle World社の、生駒いこま 愛理あいり


「ちょっと待て、Little World社って言えば、ゲームの運営会社じゃねーか!」


「えっ!? ということは、私たちと同じ転移してきた人?」


「だとしたら局長が言ってた、連絡付かなくなった相手って事になるよな。

 こっちに来てたのなら納得だが」


「……ちょっと待って。

 ……入力間に合わないから、……ゆっくり喋って」



 アイリは淡々としていて、慌てている様子などはないが、話についていけないようだ。

しかし前に会った時もそうだったが、詰り詰り喋るのだ。口下手なのだろうか?

それよりも、入力ってどういう意味だ?



「……まずはアタシの事から。

 ……アタシは今、会社のパソコンからアクセスしてて、……未実装のキャラを使って喋ってるの。

 ……アナタたちが見てるのは、ただのアバターってワケ」


「なるほど、オンラインゲームのキャラみたいなもんか」


「……そういうコト」



 つまり入力ってのは会話の入力の事だったようだ。

そりゃ、若干のタイムラグが発生するわけだ。



「……アタシは、このゲームのバグの修繕をしてたんだけど、……何をやっても原因すら不明。

 ……けれど、急にアクセスできるようになってね」


「確か四月の半ば頃だったんだぜ。

 アイリから連絡が来て、今まで色々とやり取りしてたんだぜ」


「ってことは、運営会社との接続できるようになったってことか?

 それなら、不具合は解消したのか?」


「……全てじゃない」


「どうやら、やり取りできるようになっただけで、不具合への対応はできないらしいんだぜ」


「マジか……。万事解決っていう流れだと思ったんだがな」


「……今までの経緯、まとめるわ」



 そう言い終えると、アイリは局長座る隣に腰掛け、眠るように動かなくなった。

その様子に何かあったのかと焦る俺に、局長は一言「待て」とだけ……。まるで犬の扱いだな。

仕方ないので、お茶と饅頭を戴きながら待っていれば、テーブルの上に魔方陣が現れ一枚の紙が出てきたのだ。



「なんだこれ?」


「……今までの事をまとめた資料。見て」



 それに目を通せば、俺の転生した去年の10月からの事が箇条書きで記されていた。

もちろん、こちらの世界から見たものではなく、運営会社から見た状況だ。


 こちらとの違いと言えば、去年のクリスマスイベントは新規イベントではなく、一昨年のイベントの復刻版であった事くらいだろうか。

事前にデータを配信していたため復刻イベントは行えたが、新規イベントはバグのせいで行えなかったようだ。

もちろん、その時に新規追加するキャラの配信も。


 イベントも、どうやらバウムを探す所から始まる事などは、復刻イベントの影響を受けていたようだ。ただし、結末や動機は違ったものになっている。

この食い違いが意味する所は分からないが、ゲームとこちらの世界が、完全にリンクしているわけではないらしい。



 他にも年始・バレンタイン・ホワイトデーとイベントを用意していたようだが、完全に制御不能状態になっていたため、全てのイベントは実行不能。

確かにこちらでもイベントはなかったな。俺達が勝手にそれっぽい事はやってたけど。


 あと目に付く項目と言えば、鬼若の修正とその後の不具合修正だ。

鬼若のスキルの上方修正は事前に配信済みだったようだ。

しかし、その修正データのミスは運営会社が手を出せなくなってからなので、修正の修正、つまりスキル攻撃が無属性になっていた不具合の修正は、行えないはずだった。


 けれどそれは、運営会社が手を出せない状況だったのに勝手に修正されたらしい。

つまり、こちらの世界の行動が、ゲームに影響を及ぼしたようだ。

しかし、全てが影響しているわけではなく、同盟システムの実装はゲームに反映されてない。



 つまりこちらの世界は、ゲームの影響を受けつつも微妙に変わっており、こちらの行動もゲームに反映されたりされなかったりと、なんとも中途半端な影響の及ぼしあいが発生していたようだ。

そして、他にもこちらの世界……というよりも、俺のせいでゲームに与えてしまった影響もあるようで……。



「なぁ局長。この3月頃から発生してる、ユーザーがゲームにアクセスしにくくなったってのは……。

 やっぱ俺のせいだよな?」


「学園運営局の大改革をやったのがその頃だし、そうかもしれないんだぜ」


「だよな~」



 そう言ってため息をつく、俺の手元の紙を覗き込みつつ、カオリが声を上げる。



「ちょっとまくま君! それよりも大事な事書いてあるじゃない!

 7月末でサービス終了予定って!」


「接続しにくくなったゲームが、そのままサービス終了ってのはよくある事だしなぁ……」


「のん気な事言ってる場合じゃないでしょ!?」


「まぁな。アイリ、このサービス終了は撤回できないのか?」


「……無理。4月頭に、告知してしまってるもの」


「そんな……」


「そんなのってないんだぜ!!

 やっと不具合の根本的解決の糸口が見えてきて、これから正常化できるって思っていたのに、あんまりなんだぜ!!」



 顔を青ざめさせるカオリとは対照的に、局長は真っ赤になって言葉を荒げる。

そりゃそうだろうな、不具合に一番苦しめられたのは局長だろうし。

けれど、局長は大事な事が頭から抜け落ちているようだった。



「局長、落ち着けって。運営会社と連絡を取れるようになったとはいえ、完全に復旧したわけじゃないって言ってただろ?

 とりあえず、そっちを片付けた上で、それでもダメなのか確認した方がいいんじゃないか?」


「そんな悠長な事言ってられないんだぜ! 世界の運命がかかってるんだぜ!!

 しかもそれは、もう来月なんだぜ!?」



 いつもの飄々とした雰囲気は完全に無く、局長はひどく取り乱してしまっている。

まぁ、それでも黄色いボールがぱんぱんに膨らみながら跳ねてるようにしか見えないんだけど。

ともかく、落ち着かせるには何か希望を見出せるようにするしかないだろう。



「ひとつ、方法を思いついたんだが」


「なんなんだぜ!? 思い付きでもなんでも言ってみるんだぜ!!」


「この世界に俺を送り込んだヤツが言ってたんだが、ここは俺のゲームアカウントを元にした世界らしいんだ。

 だから、もし俺のアカウントだけをオフライン状態で継続させる事ができたら、この世界も継続できるんじゃないか?」


「……無理ではないと思う。……でも、どのアカウントか分からない」


「俺のアカウントを特定させる作業からになるのか。

 まぁ、鬼若を90回もダブらせたアカウントなんて他にないだろうし、簡単に特定できそうだけどな」


「……ただ、気になる事がひとつ。……クマ達の事を教えて欲しい」


「ん? 局長から聞いてないのか?」


「……転生というのが、信じがたい事だから」


「あぁ、そりゃそうだな。俺が転生している証拠がないと、信じられないよな。

 ……というか、俺もそっちで俺がどういう状態なのか気になる所だし」


「……クマの名前、聞いてもいい?

 ……できれば住んでいた場所も」


「確認してきてくれるのか?」


「……うん。行ける範囲なら、有給とって見てくる」


「そりゃ助かる。俺の名は……」


『結局名前出ないんかーい!!』


次回、きっと次回には出る。

しかし巻きで進めてる感あるなー。

あと今回の後書き短くない?


『特に言う事なかったんや』


まぁ、ノベリズム版は結構削られて元々短いけど。

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