前回のあらすじ
『ガチャ神の失態により、クロにおやつ一年分が進呈されました』
外注さんの今日のひとこと
『前回、局長が出てきた理由が明かされるそうです』
華やかだった木々も葉桜に変わりゆく並木道を、カオリとクロに連れられ歩く。
夕焼けに照らされた影は長く伸び、夜を手招きしているようだった。
「そういえば、今年はお花見できなかったのですっ!」
「そうだね。雨降って散っちゃったもんね」
「うー! 桜ももっとお天気のいい時期に咲けばいいのにっ!」
そんな無茶なと思うが、クロは花見をしたかったようで、大層悔しそうだ。
しかし、クロが花見をしていても、花より団子になっている光景しか思い浮かばないけどな。
「そういえば聞いた話だが、桜って雨が多い時期に咲くから、下向いて咲くらしい。
だから、天気のいい時期に咲く花だったら、上向いて咲いちゃって、お花見にならないかもな」
「へぇ! そうなんですか!」
「そうなの? 確かに言われてみれば、下向きに咲くよね。だから見上げて綺麗なんだね」
「まぁ聞いた話だし、ネットで調べたら他にも色々理由は書かれてたけどな。
でも、本当の理由なんて実際に桜に聞かない限り分かんねーよな」
「そうだよね。もしかすると、桜に聞いても『元々こうだし……』なんて言うかもしれないけどね」
確かにそうだ。俺だって「人間はなんで二足歩行なの?」って動物に聞かれても困るだろうしな。
理解しているつもりでも、それっぽい理由を挙げてるだけで、本当の所なんて誰にも分からないんだ。
意外にも、哲学的かもしれないカオリの返答に考えを巡らせていれば、クロは違う事にひっかかったようだ。
「ごしゅじん、ネットってなんですか?」
「えっと……。色んな事を調べられる機械だよ」
「へぇー! クロも使ってみたいのですっ!」
すげぇモヤっとするカオリの説明だったが、問題はそこじゃない。カオリの疑惑が確定した瞬間だ。
まぁ……、今までも色々とやらかしていてはいたのだが、この件について今問い詰めるのはやめておこう。
クロも居る事だし、何より今は用事があってここに居るのだから。
その用事というのは、前に局長から骨孫引換券を貰った時に頼まれた事だ。
あの時店でカオリと鉢合わせた局長は、これ幸いと付いて来て、俺に仕事を投げてきたのだ。
その内容というのが、夜のパトロールである。
局長によれば、春になると“ちょっと浮かれちゃった人々”が現れて問題を起こすのだという。
それを見回り、必要ならば「説得」という名の「制裁」で片付けるという、簡単なお仕事だ。
もちろん、簡単なのは局長の説明だけで、やることは結構面倒だ。
しかし、不具合の調査をするにも、カオリとの模擬バトルよりも実戦を数こなした方が気付きやすいだろう。それに、何よりこれはクエスト扱いなので、ちょっとした謝礼も出る。
バトルに勝てるのであれば、おいしいアルバイトなので悪くない。
それに、クロもそろそろ特訓ではなく実戦で経験を積む頃合だし、鬼若だって活躍の機会を欲しているからな。
相手の見極めが必要だが、それすらもカオリの今後のためにも必要な事だ。
一石何鳥なのかと思うほどに、色々と都合のいいクエストだったわけだ。
持つべきものはコネである。
そんな話を局長から持ちかけられた時、最初はカオリも心配して乗り気ではなかった。
けれど、頼んできた相手が局長というのもあって、人の役に立つ事だからと断り切れなかった。
……と思っていたのだが、後で話を聞けばカオリも最近は考えが変わってきたそうだ。
アリサとの戦いでのクロを見て、そのクロの強さと活き活きしている様子が、守るだけがクロのためになるわけじゃないと思ったのだそうだ。
俺から見ても、クロならきっと大丈夫だと思えるほどに強くなったし、何よりカオリの心が強くなったのだろう。
けれど、それでも心配事が無くなったわけじゃない。
「ところで、今日は鬼若君は来られそうなの?」
「部活が終わったら、メッセージをくれるらしい」
「早く来られるといいんだけど……」
カオリはバトルにおいてはクロを信頼しているのだが、パトロールには鬼若に居て欲しいと切に願っている。
というのも、パトロールを始めてすぐの頃に、花見で飲みすぎてしまったであろう酔っ払いにからまれたからだ。
その時も鬼若は部活があり、結局来たのはバトルが終わった後だった……。
というか、酔っ払いがバトル開始すぐに寝落ちしてしまい、審判職員がどうしたものかとオロオロしながら局長に指示を仰いだりと、なかなかにカオスなバトルだった。
バトル続行不可能という事で、一応こちらの勝ちになったものの、パトロールをしている俺たちにとっては、勝ち負けが問題じゃないので困ったのだ。
活躍の場を逃すまいと、部活を中断して慌ててやって来たジャージ姿の鬼若は、バトルに参加する事もできず、結局その酔っ払いを運ぶ役しかできなかった。
その途中で……、その……、うん。不幸な事故があり、鬼若も散々な目に遭っていたけれど。
さすがに酔っ払いとか、そういう輩の相手はクロにはさせたくないし、後処理もクロでは難しい。
というか、この話をしていてクロが口を挟まないのも、クロ自身がそういう事態に対応できないと自覚しているからだろう。
「鬼若もバトルになればこっち優先になるからさ、やばそうなら、すぐに緊急召喚して間に合わせるよ」
「鬼若君も忙しいのに、頼りっぱなしになっちゃってごめんね」
「まぁ、忙しいのも今のうちだけだろうし、落ち着いたらちゃんとクエストで活躍させてやらないとな」
「うーん……。落ち着くのかなぁ……」
鬼若の部活は、結局妥協案として「ひとつの部活に絞らず、助っ人として必要な部に臨時で参加する」という形に収まった。
色々と部活見学で体験入部した結果、それぞれの部が皆欲しがって一悶着あったそうだ。
そのうえ、鬼若自身がどの部にも興味を示さなかったというのもあって、全部活が優秀な部員候補を失い、全員が損をするくらいならと、折衷案としての結論だった。
これなら鬼若も必要な時以外は自由にしていられる。つまり、俺にべったりと付き添う気なんだろう。もうそこは諦めるとして……。
そして各部も、どうしても必要な時に限り大きな戦力得ることができるわけだ。
そう言いながらも、助っ人に来て貰った時にうまく言いくるめて、正式所属させようと、どの部も画策するんだろうけどね。
カオリもそれを察しているのか、落ち着くことはないと思っているのだろう。
そんなこんなで、今は助っ人希望の部に体験入部というか、顔合わせのために毎日違う部活の練習に参加しているのだ。
一日に2つ回るらしいので、かなりのハードワークだが鬼若は大丈夫だろうか……。
「まぁ、その辺も鬼若が自分でなんとかするだろ。あいつも、あれでしっかりしてるし」
「相変わらず放任というか、なんというか……」
「……ごしゅじん、あやしい気配がするのです」
パトロール中だというのに世間話ばかりしている俺たちと違い、クロは危険を察知していたようだ。
あたりは桜並木を抜け、繁華街へと変わっていた。なので怪しい気配の元も、俺にとってはなんてことはない。
どこにでもいるような、20代くらいの男二人組だった。
「お嬢ちゃんたち今暇? よかったら晩御飯でも行かない?」
……ナンパかよ!! ってか、クロも誘ってるあたり、やっぱダメなヤツらか!?
こんな古典的な誘い文句で……。と俺はあきれていたが、カオリは腕に力が入り、俺をギュウギュウと抱きしめ、震えていた。
『タダ飯だけ食って、〆たらいいやん?』
ゲスい! 発想がゲスい!!
『ほら、最近流行のパパ活的な?』
そんなもの流行るなんて、ひどい世の中だ。
というか〆てる時点でそれカツアゲでは……。
『誘われたのはメシだけやん? それ以上を求めてきたら、そりゃ鉄拳制裁よ』
クロならその辺のモブ達くらい〆れそうだけどさ……。
もうこの話やめよう。
『もうちょっと毒吐かせてや』
あ、そうだ。俺ちょっと出張行ってくるね!
『逃げるにしても唐突すぎる!!』
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