爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

164連目 カオリの平凡で幸せな日常

公開日時: 2020年12月27日(日) 18:05
文字数:2,747


「んーっと、そうだね、説明しないといけない事はこれくらいかな。

 何か困った事があれば、またここへおいで。

 もしかすると、僕から呼ぶこともあるかもしれないけどね」



「今日から君は契約主だ」という言葉から始まった説明会。

それは、私が一言も喋る間もなく、一方的に終わった。


 異世界からの“来訪者”を使役、もしくは管理する者。それが契約主。

私がそれに選ばれたらしい。この時の私に理解できたのはこれくらい。



「それじゃ、君の初めての契約、やってみようか」



 よくわからないうちに話が進んでいるけど、別に悪い事じゃないと思った。

来訪者にはこちらの世界での身元保証人がいる。それになってあげるだけの簡単なお仕事。

その後の細かい事は、端末の説明書を見ればいい。そんな風に彼は言ったのだ。



「はい」



 ここに来て初めての言葉は、たったの二文字だった。

それ以外の返事は、はじめから存在していないのかもしれないけどね。



「たいした事じゃないよ。教えたとおり操作するだけだしさ」



 初めての契約。少しの緊張と、大きな期待に指を震わせ操作した。

ただひとつの動作、スマートフォンの画面に表示されるボタンに触れるだけ。

けれどその操作は、私の日常を一変させる力を持っていた。


 画面に触れた瞬間、魔方陣がまばゆい光と共に展開される。

眩しさに目を細め、その様子にしばらく見とれていた。

そして、その中からその子は現れた。



「ほう……、君か。クロ、これからは彼女が御主人様だ。守ってやってくれよ」



 投げかけられる言葉に、クロと呼ばれたその仔は、うな垂れた頭と尾を持って拒否を示す。

怯えている……、ようには見えなかった。ただ、怪訝けげんな顔をして、私を見ていた。



「えっと、はじめましてクロ。私はカオリ。よろしくね。

 御主人様なんて似合わないから、お友達になってくれると嬉しいな」



 そう言って私が手を差し出すと、頭を上げ首元を見せる。

ふわりと柔らかな毛並みに優しく触れると、尾を振り私を受け入れてくれた。

まだ小さな黒い仔犬、それがクロとの初めての出会いだった。



「うんうん、仲良くなれそうでよかったよ」



 彼は満足げに私達を見て微笑む。彼が私を選んだ理由、それはわからない。

けれど、きっと彼は悪い人ではないと思う。この子を私に託したから……。

ううん、違う。きっと、私をこの子に託したんだと思う。


 私が契約主として、この世界で迷わぬように。この力に呑まれぬように。

盲目の私を正しい道へと導くように……、と。



「それじゃ、転送するよ。楽しんでね……あっ、違うな」



 彼は発言の訂正にしては少し大げさに、そしてわざとらしい笑顔で言った……。



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「ゆっくりしていってね!!」



 跳ねる赤い水風船のようなそれは、得意げな顔で言い放つ。

いや、どういう意味だよ。普通ここは、「少々お待ちください」だろ?

うっかり思っていた事をつぶやいてしまった俺に、カ

オリが説明を入れる。



「あれは学園運営局うんえいのキメ台詞みたいなものだから、気にしちゃダメだよ」


「あぁ、そういうものなのか……。なのか?」



 釈然としないが、気にしたら負けなんだろう。そう思うことにした。

俺はカオリに抱かれた状態で待合室の椅子に腰掛ける。



「ここが学園運営局うんえいか。なんか、普通に役場っぽいな」

「もっと物々しい感じを想像してたの?」

「んー……。と言うよりは、もっと魔法の世界的なのを想像してたかな?」

学園運営局うんえいと言っても、ここは受付だけだから、簡素なのかもね」


 そんな話をしながら、俺たちは端末スマホの修理を待っていた。

俺がカオリ達に会ったとき、うっかり上空から落としてしまった端末スマホは、幸運にもベルによって回収され、俺の手元に戻ってきた。


 しかし、それは普通ではありえない事らしく、ベルの説明によれば、「端末は人々を統制するための枷であり、それが利用者から離れる事は、統制の崩壊を意味する」との事で、通常ならば端末を落としても、不思議パワーで手元に戻ってくるらしい。

つまり「スマホどこおいたっけ?」という事態が起きないんだそうだ。


 そして、内部も不具合が発生しており、契約者データが一部破損していたようだ。

その影響で、鬼若とベルに対して、契約を行っているのに警報が発令されたらしい。


 その上、複数の契約者データが文字化けしていて判別不能だった。

けれど、鬼若のデータが無事だったためSSR★7に関して、特定作業は不要だった。

手持ちのSSR★7は2人しかいないからね……。

運の無さのおかげで手間が減ったのはありがたいが、複雑な気分だ。



「不具合って、やっぱ俺がこんな状況になったからなのかな?」


「うーん、それ以外になさそうだけど、どうなんだろうね」



 元々鬼若のバグを長年放置してきた連中だ、俺に起因しないものも多いだろう。

しかし、俺の周辺で頻発している現状を考えれば、やはり俺に原因があるように思う。

まぁ、結論は「ガチャ神の作り込みが甘いからバグる」に行き着くのだけどね。


 けれど、ガチャ神の親切神しんせつしんか、カオリというサポートキャラを置いてくれたのは、正直かなり助かった。

おそらくカオリは、ガチャ神のオリジナルキャラだ。


 街ゆく人々を見ると、全ての人はキャラクターとして元々存在していた人ばかりだった。

彼らは、いわゆるモブと呼ばれるレア度の低いキャラで、衣装違いや髪型違いなどで人数を嵩増かさまししていたが、見覚えの無いキャラは一人として存在しなかった。


 しかし、その中でカオリだけが、唯一俺の知らないキャラだった。

そして同じ高校に通い、同じクラスで、俺と同じく契約主だ。

これほど俺にとって都合のいいキャラが、ただのモブな訳ないだろう。



「それにしても……、私って平凡だなって思うよ」


「ん? どういうことだ?」



 不意に考えていた相手に話しかけられ、ビクっとする。

心を読まれていたなんて事は無いと思うが、便利キャラ扱いはやめておこう。



「契約主なんて、特別な力を持っちゃったって思ってたけど……。

 まくま君見てたらさ、全然普通だなって思ったの」


「つまり、カオリもまくらになりたいのか?」


「ふふっ、そういう意味じゃないけどね」



 少し、言葉を選ぶようにカオリは考えながら続ける。



「今までもずっと見てきたから。

 鬼若君や、他の契約者と一緒に戦っているところ。

 きっと世界を変える特別な人って、こういう人なんだなって思ってたの」


「俺は…、俺自身はそんな大したヤツじゃないよ」



 それは俺じゃない。俺が“動かしていただけ”のキャラクターだ。

そして“用意されたシナリオをこなしていただけ”のキャラクターだ。



「それに、普通でいてくれると助かるな。今の俺は、こんなだからさ」


「……そっか。ふふふ、頼りにしてくれていいよ?」



 その時カオリが本当は何を考えていたのかはわからない。

けれど俺を導いてくれる人が居る。それだけで俺は、少し安心していた。

今回で代打&11月章オマケも終了! トリを飾るのはカオリです!

普通の、ごく普通の女の子キャラって、イイですよね??

別に俺がモブスキーさんな訳ではないですけどねっ?


というワケで、後書き代打も今回で終了!普通の執筆者に戻ります!

更新は続きますので、どうぞよろしく願いしま~す!!




後書き代打     ◇カズモリ◇

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