前回のあらすじ
最終回詐欺
ガチャ神の今日のひとこと
爆死まくら、最終回なのじゃ!
どうせ詐欺なのじゃ!
神様との別れに待ったをかけたその声に、俺は聞き覚えがあった。
振り返ればそこには、白い砂漠をぽよぽよと跳ねる、黄色いボールが見える。
「局長!? お前生きてたのか!?
ん……? いや、ここにいるって事は、半分死んでるのか?」
「久しぶりなんだぜ。でも私が用のあるのは、コイツなんだぜ」
俺と神様を隔てるテーブルに乗ると、できる限りのキリッとした表情で局長はそう告げた。
と言っても、顔は落書きのようなものなので、全然雰囲気は出ていないのだけれど。
しかし、そんな局長に見つめられた少年は、目を丸くして固まっている。
「…………。どうして君がここに?」
「全知のお前が感知できないって事は、理由は限られると思うんだぜ?」
「なるほど、これは想定外だね……。
彼が裏切るとは、とんだ誤算だよ」
なにやら二人は納得しているようだが、俺にはさっぱりだ。
「局長、何がどうなってんだ?」
「クマじゃ頼りにならないから、私が来たんだぜ」
「なんだよそれ、答えになってないんだが」
「お前は理屈っぽすぎるんだぜ。
間違ってるって思ったなら、そう言えばいいんだぜ!」
「それって……」
「そうだぜ! ワタシはコイツが離れていくのに、納得してないんだぜ!!」
「いやでもさ、本人が決めた事だし」
「だからなんだって言うんだぜ? 納得してないっていうのは私の意見。
それを言うと決めた私の意志が、無視される道理はないんだぜ!」
「んん……? いや……?
むう……。確かにそうかも?」
「局長に言いくるめられないで欲しいなぁ……」
彼は俺が納得してしまった事に不満げだが、今の理論展開に不備はないと思う。
それに、局長の言う事を受け入れるかは別問題だしな。
「それで、何が不満なのかな?」
若干呆れ気味な少年に対し、臆する事無く局長は意見を述べた。
「自身の存在が相手を不幸にするなんて、おこがましい考えなんだぜ!
幸せかどうかは本人が決めること、お前が勝手に決めることじゃないんだぜ!」
「いやでも局長、相手は神様だぞ?
幸せかどうかは、相手以上に分かるんじゃないのか?」
「クマは黙ってるんだぜ!!」
これはひどい……。俺の扱い雑すぎやしませんかね……。
しかし、局長がここまで言うからには、なにか事情を知っているのであろう。
何も知らない俺が口を挟むことでも無いか……。
「そうは言うけど、俺が居ると必ず不幸な結末になるんだ。
それは、今までずっと変わらなかった」
「だからなんだっていうんだぜ! 最後がどうかじゃなく、それまでが大事なんだぜ!
それに、これから先もずっとそうだとは限らないんだぜ!!」
「…………。確かにそうかもしれない。俺にも未来は分からない。
全知の裏をかく存在もここに居るし……。何より、知るのを恐れて、全知を封じてしまったから」
「それなら、今度こそ大丈夫と信じて会いに行くといいんだぜ」
「でも、それでもやっぱり……、俺は身を引くよ。
大切な人が傷つくのは、もう見たくないから……」
「イモってんじゃないんだぜ!!
そんなのは爆死を恐れて、ガチャを回さないのと同じなんだぜ!!」
イモるとは、怖気づくという意味だ。局長も意外な言葉を知ってるもんだな。
というか、俺が言う事じゃないが、爆死回避は賢い選択だと思うけどね。
「今思った事、言ってやってよ」
「え? あ、考えてること読まれてるんだっけ? えっとだな……、うん。
狂気の沙汰ほど面白い。爆死はすればするほど、深みにはまっていくってもんですよ?」
「ちょっと!? 考えてた事と全然違うじゃん!」
「いいじゃないですか、面白いですよ?
次こそはっていう期待と現実のギャップ。後になっての喪失感。
こんなバカな事やれるのって、すげー人間味あると思いません?
全てを知り、なんでもできちゃうカミサマなんかより、ずっとずっと楽しいですよ?」
先に何があるか分からない、だからこそ面白いのだ。
賢さなんて投げ捨てて、愚かに……、そう、愚直に。
好きだと言えるのなら、それでいいじゃないか。
その先がたとえ破滅でも、その一瞬が輝くのなら……。
それこそが人の生き様だ。
「それに……、それだけ本気になれるって、幸せなことだと思うんです」
「さすがクマ! 爆死の極意をよく分かってるんだぜ!」
それは褒めてるんだろうか……?
まぁ、ここは触れないでおこう。
「後継者を立てたんですから、全知全能なんて投げ捨てて、会いに行ったらどうです?
普通の人間と同じになれたなら、相手を不幸にする能力なんて、きっとありませんよ」
「でも……」
「でももだってもないんだぜ! どうしても嫌なら、ここにメシアを連れて来るんだぜ!
二人きりで、未来永劫ずっと仲良くしていればいいんだぜ!」
「ちょっ!? それはマジやめて!!」
「なら決まりなんだぜ!」
「はぁ……。分かったよ」
わざとらしくため息をつくが、その表情に先ほどの暗さはなかった。
こうして彼を説得するなんて……、俺には到底できなかった事だ。
「局長、ありがとな」
「礼を言われる事じゃないんだぜ。
私は“世界を正す者”。こんな世界は、正すべきと思っただけなんだぜ」
「うん? 言ってる意味は分からないけど……。ともかく助かったよ。
あ、そういや局長はこの後どうなるんだ? 一緒に転移ってできるのか?」
「それは心配ないよ。こっちでうまくやっておくから」
「そうですか、よろしくお願いします」
「うん。それじゃ、今度こそ送るね。
もし、また会ったら……。次は友達になれるかな……?」
「もちろん」
満面の笑みの少年と、その頭の上で跳ねる局長の姿を最後に、俺の意識は途切れた。
◆ ◇ ◆
「……ちゃん、……お兄ちゃん!
ほら、起きてよお兄ちゃん!」
「ん……?」
瞼を開ければ、俺の顔を覗き込むカオリの顔が目に入る。
その腕に抱かれた黒い豆柴のクロは、俺の頬をふにふにとつついていた。
うーん、肉球マッサージがきもちいい……。
「大丈夫? ご飯も食べずに寝ちゃってるなんて、疲れてるの?」
「あぁ、カオリ……、帰ってたのか。
悪い。ガチャ回しながら、寝落ちしてたみたいだ」
「またガチャ回してたんだ……。
お兄ちゃんは運がないんだから、私がかわりに欲しいの引いてあげるのに」
代行で欲しいキャラを出してもらうのはいつもの事だが、できれば自分で引きたいんだよなぁ。
ま、強運の人には運のないヤツのキモチは分からないだろうけどな。
「とりあえず、貰ってきたお弁当あるから、一緒に食べよ?」
「あぁ……」
促されるまま、用意されたからあげ弁当を食べる。けれどなんだか違和感がある……。
いつも通り、カオリのバイト先の弁当屋が用意してくれたまかない弁当を食べているだけ……。
なのに、いつもと違う気がする。何かがおかしい……?
「どうしたの? ぼーっとして」
「んー。なんか、すごく長い夢を見ていたような……?」
「えー、どんな夢?」
「それが覚えてないんだよなー」
そんな呆けた俺を見て、カオリはクスクス笑う。
そんな姿を見ると、俺もなんだか笑えてきた。
きっと忘れるって事はたいした事じゃない。
また思い出す必要があったら思い出すさ。
その時までは、いつもの日常をいつも通り過ごしていこう。
そう思えたんだ。
って、本当に終わりなのか!?
『いえす。ホントに終わり』
…………。もう一回更新するって、言うとらんかったか?
『ウフフ、そうでしたっけ?』
公約は守るもんなのじゃ。
『投稿はするけどね、爆死まくらとしてはこれで終わりや』
爆死まくらとしては、とな。
『察しが良い神様は嫌いだよ……』
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