電灯のない暗い階段を駆け上がる。
重く閉ざされた扉を押し開けると、見慣れた地上の風景は一変していた。
街並みは明かりひとつなく黒一色に染まり、空は地上の闇を強調せんとばかりに薄白く光を放つ。
崩れた建物が散見され、いまはまだ「街並み」の体裁を保っているが、瓦礫の山と称されるのも時間の問題だろう。
一変したその世界に一歩足を踏み入れると、空からキラキラと白い粒が降り注いでいる事に気付く。
それは、しとしとと降り続ける雨のように、静かに、しかし絶え間なく降り注ぐ。
見れば街にも瓦礫にもそれは薄く降積り、空の白を反射し、仄かに明るく輝いていた。
「雪……?」
手のひらに舞い降りるそれを見つめていると、背後に人の気配を感じた。
「誰だ!?」
そう振り向いた先には、見知った顔があった。
「なんだ、慶治か。どうしてここに?」
けれど俺の質問に答える事無く、そいつは背を向け歩き出す。
「おい待てよ!」
その声も届いていないかのように、歩みを進めるその背を俺は追いかけた。
瓦礫の散乱した元繁華街。
昔入り浸っていたゲーセンも、カオリの買い物に付き合わされたドラッグストアも……。
あらゆる店が窓は割れ、建物自体も一部崩落している有様だった。
店の中の様子も、商品棚に何も残されておらず、倒れていたり壊れていたり……。海外のパニック映画のワンシーンを思わせた。
そんな人一人居ない街並みを抜け、俺たちは歩き続ける。
時折足をよろめかせる俺を待つように、慶治は立ち止まりこちらを振り返った。
そして追いつきそうになれば、再び身を翻し歩き出す。
その背にはためく黒いマントを追い、俺も歩き続けた。
ん……? マント……?
「ちょっと待て」と言い掛けたその時、ゴゴゴゴゴゴ……という轟音と共に、大地が大きく揺れる。
俺は立っている事もできず、無様に尻餅をついた。
音のするほうへ目をやれば、巨大な……、数十階建てのビルほどの高さがある巨人がそこに見えた。それも五体もだ。
それらは円陣を組むように並び、天にその両手を突き出している。
「な……、なんだよあれ……」
あまりの出来事にそう言葉を発するのがやっとだ。
そんな俺をしり目に、慶治は何食わぬ様子で歩いていた。
一人きりにされるかもしれないという心細さから、俺は力を振り絞って立ち上がり、駆け出した。
そしてたどり着いたのは、いくつもの倉庫が建ちならぶ場所。
どこかの工場だろうか。しかしどれもこれも壊れており、ものによっては完全に倒壊してしまっている。
それでも慶治は、我関せずと迷いなく進み続ける。
瓦礫どうしが支えあう形でアーチを作る場所さえも、威風堂々といった様子で崩れる心配をする様子もなく通り抜けた。
俺はといえば、頭を打って崩れる事を心配してかがみながら慎重に通ったのだから、性格の違いってのはこういう時にも出るもんだな、などと……。
いや、おかしい。どういう事だ?
ズドン! という音に驚き振り返る。先ほどの瓦礫が崩落したわけではない。
そのもっと先、先ほどの巨人の一体が異変をきたした音だった。
見れば巨人は、肩から先が切り落とされたように腕がなく、それが地面に叩き付けられた音のようだった。
それだけではない。他の巨人も同様に傷を負っており、肩や膝などの関節部分から、血であろう液体が流れ出し、ボタボタとそれを零していた。
まさか、巨人同士の戦争でも始まったというのだろうか。
「おい慶治! 逃げよう、ここも危ない!」
その声は三度目も届かなかった。歩き続けるその姿は、なんの返答も寄越さない。
捕まえようと駆け寄ったその時、ひとつの倉庫の前で慶治は立ち止まった。
「どうしたんだよお前! それにその格好……」
改めて見れば妙だ。その姿は皮製であろう鎧を身に纏い、剣を携えている。
その上マントといえば、さながら勇者か騎士のコスプレのようだ。
ハロウィンで浮かれた奴らじゃあるまいし、なんだってこんな格好を……?
「お前……、慶治じゃないな……」
見るほどに違和感がある。顔は同じだ。だけどコイツは俺の知る慶治じゃない。
そう思わせたのは格好だけじゃない。俺が屈まなければいけないような場所を、どうしてコイツはそのまま通れたんだ?
いや、そうじゃない。見た目じゃない、何かが違うと感じたんだ。
「おい! お前は誰なんだよ! 慶治をどこへやった!?」
『……こちらでお待ちしております、主様』
◆ ◇ ◆
いまさら人物紹介!(つまりまとめ)
☆爆死まくらの人々☆
・西大寺 吉孝(通称:大吉)
あまりの運のなさにガチャで天文学的確率の爆死を経験し、まくらに転生した。
戻ってきたものの、そのときの事は忘れている。
・鬼怒川 慶治(旧名:鬼若)
運のなさ過ぎる主人が大量にダブらせたゲーム内キャラクター。
主人と共に転移し、今は運送業に従事している。ネコミミ。
・アナベラ・テイラー(旧名:ベルフェゴール)
運なさ過ぎる(略)がずっと狙っていたキャラ。もちろん正規の方法では入手できなかった。
転移後は海外に住んでいたが、最近引っ越してきた。
・西大寺 カオリ(旧名:大宮 カオリ)
まくらなクマより10年ほど先に転移していた人物。
際転位後は母親の再婚により、吉孝とは義兄妹となった。
・クロ
カオリが転移した時からお供をしていたワンコ。
戦闘力高めの忠犬わんわん。
・三田 誠也(通称:三田爺)
ゲーム内ではサンタをやってた爺さん。爺バカ。
転移後は鬼若の勤める運送会社を一代で築き上げたやり手社長。
・三田 千鶴
三田誠也の娘。転移前のゲームではまくらと契約していた。
転移後は事件の事後処理係。限定的な転生・転移能力を有する。
・三田 アルダ
三田千鶴の夫。転移前のゲームではカオリと契約していた。
転移後は千鶴と共に事後処理係。記憶捜査の能力を有する。
・三田 アーニャ
三田夫妻の娘。転移前のゲームでは契約主をしていた。
亜空間を繋ぐ能力を有しており、転移後は地下街の整備を行っている。
・白鳥 亜理紗(旧名:アリサ)
白鳥財閥の娘。アホの子令嬢・ツンデレと属性盛りすぎ。
地下街の全権利を買い取り、整備を行えるように補助している。
・瀬戸 瑠璃(旧名:セルシウス)
転移前はまくらと契約していた。会う人会う人に「せるりん」と呼ばせたがる。
アリサを嫌っていたが、転移後はいつでも一緒に居るほどの仲。幼馴染。
・印南 翼(旧名:イナバ)
転移前はアリサと契約してたり、まくらと再契約したり。
転移後は「集団にすぐに溶け込む能力」を使い、工作員をしている。
・レオン
転移前はアーニャと契約しており、教師をしていた。
転移後は地下街の未整備区画警備等を担当している。
・ロベール
転移前はアーニャと契約していた。血塗られたシロクマ。
「誰か」と繋がっているらしいが、今でも繋がりがあるかは不明。
・赤目 裕樹(旧名:アカメ)
転移前はまくらと契約していた。暴走ケモナー。
転移後は警察犬担当をしている。立場上暴走は自粛している。
・森口 一
転移前、最後から二番目にまくらと契約した人物。アカメと共に暴走ケモナー会に属していた。
「ある人」とはSNSでやり取りする仲。ケモナーの輪は広い。
☆以下延長戦後の人々☆
・左近 鉄也
天文部初代部長で、月の落下に最初に気づいた人物。夜行性。
興味のあるなしで態度が全然違うマイペースな性格。
・神宮口 上二
天文部初代副部長。実家は代々続く神社。鉄也の悪友。
神社の御神体である森には何かあると気付いている。
・八木 明日香
天文部顧問。担当教科は理科。鉄也たちが2年の時に赴任してきた。
上二とは卒業後に付き合い出したが、その後すぐに失踪した。
失踪先→https://ncode.syosetu.com/n4865ez/
・高田 市花
天文部部員。八木明日香と共に観測中森に迷い込み、転移した。
アルダによってその事件は隠蔽されている。
・入福 大介(通称:大福)
風魔法の使い手。図書室での事件に巻き込まれる。
千鶴に脅され風魔法を封印したが、こっそり悪用している。
・朝倉 美花
大福の幼馴染で、忙しい両親に代わり大福の両親に頼りきりになっている。
大福に対しては尊大で下僕のように扱う。漫研部員。
・関屋 雫
漫研部長。大福の事が気になるが、自分でもその気持ちに気づいていなかった。
胸囲・脅威ランキングに乗る人物であるが、無愛想なだけ。隠れファンが多い。
・築山 美沙
漫研副部長。雫とは双子だが、二卵性双生児なので似ていない。
人の事をよく見ており、雫の気持ちにも本人より先に気づいていた。
・新ノ口 江美
文芸部長。雫に憧れて部長をやっている。憧れは暴走している様子。
深夜のテンションで書くとえらい事になるのは、皆経験があるんじゃないですかね。
・古市 進(通称:爺ちゃん先生)
文芸部顧問。クラス全員が眠りこけるという偉業を達成した事がある。
担当は古文だが、最近は流行語の研究の面白さに取り付かれている。
・堀口 涼河
地下街のハンバーガー店で働いていた。大吉も掛け持ちで働いていた事がある。
チートモニターび巻き込まれたり、未整備区画に迷い込んだり、巻き込まれやすい人物。
・堀口 裕子(旧姓:七戸 裕子)
涼河の母で元婦警。夫は現役警察官。今は失踪者の関係者のケア要員として働いている。
印南達の誘導により事件を解決した経緯がある。
まとめて思いました。多っ!! これでもある程度削ったんですけどねぇ……。
そして多すぎて、ノベリズムの後書きの文字数上限に引っかかったぜ……。
なので本文に投入!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!