前回のあらすじ
「サンタの爺さん、奇跡の復活じゃ! 意外と立ち直りが早い爺さんじゃった」
ガチャ神の今日のひとこと
「ワシへのプレゼントはどこかのう……?」(チラッ
12月24日、俺達はクリスマス工場で最後の点検を行っていた。
「ソリ、ヨシ! プレゼント、ヨシ! トナカイ、サンタともに体調、ヨシ!」
「爺さんの覚悟はどうだ?」
「考えねえようにしてんだ! 黙っとけ!」
指差し確認する爺さんに、少しばかりちょっかいをかけると、苦笑いしながら怒鳴られた。
「お前こそ、覚悟できてんだろうな? 運送業は、キツい仕事だぞ?」
「体力には自信があるんでね。多少手伝うくらいなんてことないさ」
「そうか、それじゃ衣装に着替えな!」
俺とクロ、そしてカオリ様は、サンタの爺さんとやりあったあの日から、サンタ工場で手伝いをしていた。
クリスマス中止を撤回したものの、今まで進めていなかった作業の遅れを取り戻すには、人手が足りなかったのだ。
そのため、俺達3人は工場で手伝う事になったのだが、さらにプレゼントを配る事になってしまった。
本来ならば、サンタの爺さんと、トナカイのバウムの二人で全ての届け先に回るのだが、バウムが獣人型となって工場の人手不足に対応したため、獣型に戻ってすぐは本来の力が発揮できないとのことだ。
その上、トレーニングもできていないならば、本来の光をも追い越す速度での運行など、到底無理だと判断されたのだ。
考えてみれば、今回の件でバウムは、かなりの無茶を強いられたようだ。
出合った時、満身創痍の状態だったのもそうだが、バーでの一件では俺達が店外に出た時、真っ先に目に入ったのが、バウムの土下座姿だった。
それは店主に対するもので、今回の騒動の被害届提出を待って欲しいと懇願している様子だった。
バウムは、俺達が爺さんを説得できると信じていたようで、もし被害届が出されれば、爺さんは“悪性野良来訪者”と認識され、SSRの来訪者である爺さんは、警報発令の対象となってしまう。
そんな事になれば、サンタとしての活動などできるはずもない。
さらに言えば、サンタとしての能力は、運営が特例で貸し出している能力らしく、それも剥奪となれば、本当にただの爺さんに成り果てるだろう。
今までが特別扱いされすぎてた感は否めないが、クリスマスは運営にとっても大事なイベントのようだ。それは、子供の来訪者や、将来契約主でになるであろう子供達を“いい子”でいさせるために、サンタという存在を利用していたに他ならない。
店主は結局、被害届の提出を「被害届は事件の発生から1ヶ月以内に提出すること」という、運営の規定を利用し、クリスマス後にするという事で了承した。
おかげで今年のサンタの業務に支障が出る事はなくなったが、今後については運営の判断次第という事になる。
「それで、この服は、着ないといけないもんなのか?」
「えへへ、どうです? クロのサンタ姿、似合ってますか??」
「二人ともすっごく似合ってるよ。私も着ることになっちゃったけど、パンツスタイルでよかった。
ミニスカートのサンタ衣装だったら、どうしようかと思ったよ」
「お前ら! それはただの衣装じゃねぇ! 作業着だ!!
超高速配達と寒さに耐えられる、特別な服だ!
その辺の“なんちゃってサンタ”共の服と一緒にすんじゃねえぞ!」
着替えた俺達にゲキを飛ばす爺さん。サンタ服ってそんな高性能な服だったのか。
いや、それならベルの羽衣製の服で間に合いそうなもんだが……、言わないでおこう。
あの嫌味ババアに、服の製作を頼むのもシャクだからな。
「あと鬼若! お前はこれを付けろ!」
「ん? なんだこれ?」
「ネコ耳だ!」
「はっ!? 何で俺だけ、こんなの付けるんだよ!?」
「お前なぁ……。なまはげじゃねえんだぞ? それで角を隠せ!」
「ごしゅじん、なまはげってなんですか?」
「悪い子を懲らしめに来る、鬼のことだよ」
「よく知ってんなカオリ。俺達は活動時期が近くてな、知り合いなんだ」
だからって、ネコ耳を付けさせられる俺の身にもなってほしいもんだ……。
しかし、これもクリスマスを楽しみにしている子供達のためか、仕方ない。
「あとはバウム、リースを出してやれ」
「リース? 何に使うんだ?」
「これはバウムの能力だ。バウムは、木々が重力に逆らい枝葉を伸ばすように、コイツの魔力には重力の影響を軽減する効果がある。
その魔力の塊であるこのリースは、お前達に必須だ。なにせ俺と違って、空を飛んでくれるトナカイを連れずに回るんだからな。
あとは、消音ベルだな……」
「なんだかベルも付いて、リースが豪華になっていきますっ!」
「このベルの音は、足音を消す効果がある。サンタの数ある能力の一つだ」
「ベルの音で足音を隠す……。ってそれ、消音じゃなくて、騒音ベルじゃねーか!」
「んなバカげた能力な訳ないだろ? 詳しい説明はナシだ、足音を消すって覚えとけ」
ベルの付いた小さなリースを俺達は胸元に飾り、出発準備を終えた。あとは袋を持って飛び立つだけだ。
「あとは、姿も消しておかないとな。サンタは、姿を見られちゃいけないモンだからよ」
「見られない前提なら、ネコ耳いらねーじゃん!?」
「それは念のためだ、恥ずかしいなら見られないよう頑張るんだな!
それじゃ、お前達ついてこい!」
そう言って先導し、俺達は工場の外へと出る。
そこには木々が葉を落とし、寒々しい光景が広がっていた。
しかし、最初に訪れた時とは違い、工場には電飾が施され、クリスマスツリーも設置されている。
秘密の工場がこんなに目だっていいのだろうか? そんな風に思っていると、爺さんは歩みを止めた。
「爺さん、何するんだ?」
「俺も久々なもんでよ。集中するから待ってろ」
爺さんが目を瞑り、深く息を吐く。それは瞑想する僧侶のようだった。
しばらくすれば、周囲にはキラキラと光る白い粒が現れ、それらは範囲を広げてゆき俺達すらも包み込む。
まさか、またあの雪合戦をする気じゃないだろうな!? と考えたその時、爺さんは指をパチンと鳴らし、そのまま見えないボールを投げるように、空へと腕を振りかぶった。
見えないボールに続けとばかりに、光る粒は空へと昇り、次第に周囲が暗くなる。
「ごしゅじん! 見てくださいっ! 雪がふってきましたよっ!!」
「わぁ……、綺麗……」
「これが俺の魔力の本来の使い方だ。見る者を魅了し、サンタの姿を隠す雪。
俺だけなら、目隠しの雪なんて必要ないんだけどな。まぁ、雰囲気もいいし、今年は降らせてやるよ」
「今年ダケジャナク、来年モ、ソノ次モ」
「なんだバウム、見てたのか」
一際大きなトナカイは、はじめからそこに居たかのように突然音も無く爺さんの隣に現れ、カタコトの言葉で喋り出す。
誰の目にも留まらない動きと、消音性能はさすがプロといった所か。
その代償として、獣人型でないバウムは喋る事もおぼつかない。
しかしソリを引くには、この姿が適しているそうだ。
「ズット、ズット、クリスマスヲ、続ケマショウ」
「……。俺はこんなだからよ、約束なんてできねえよ」
「じゃあ、爺さんは引退ってことで。俺が来年からやろうか?」
「あっ! ズルいですっ! クロもやりたいですっ!!」
「おう! お前ら任せたぞ! 俺は、ただの爺さんに戻らせてもらうか!」
ガハハ、と笑いながら俺達を眺めるその姿は、表情と裏腹に物悲しさを感じさせた。
本当はサンタを続けたい、けれど来年はサンタの能力を奪われているだろう。そんな風に考えている事は、この場にいる誰もが分かっていた。
「それじゃ、お前ら出発するぞ! 気合入れてかかれ!!」
ガチャ神ちゃん、プレゼント欲しいの?
「貰えるものは何でも貰う! それがワシの生き様じゃ!」
お、おう……。
「その話をするって事は、何かくれるんじゃろう!?」
うーん……。あげようと思ってたけど、今の状態じゃダメかなって。
「なんじゃと!? これが、焦らしぷれいというやつかの!?」
いや違うけどね。まぁいいか。それじゃぁ、研修に行こうか。
「研修!? なんでそうなるんじゃ!?」
それに関しては、後で詳しく話すとして……。
この後しばらく研修に行くので、前・後書きはお休みです。
「プレゼントが研修……。なんでも貰うとは言ったがのぅ……」
次回 『神々の研修』お楽しみに!
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