前回のあらすじ
『ヤツに全知全能など片腹痛いわ!』
外注さんの今日のひとこと
『ガチャでキャラ以外の消耗アイテムが出るって鬼畜設定やな』
最善のエンディングに俺達を誘導しようとしている。
もしかするとそれは、俺の都合のいい思い込みかもしれない。
けれど、ポンコツな対応をしてしまうダメ神であっても、親身に寄り添ってくれた神なのだ。
いや、局長達の事があるのだが……。
もしかするとあれは事故かもしれないし、それの件は棚上げしておくとしたら、の話ではあるんだけど。
俺の都合でうまく使ってやろうとしてる、そう思われたってかまわない。
けれど、これはチャンスだ。このチャンスを逃すほど、俺はバカではないつもりだ。
「願いの内容、よく考えるんだ。
相手は誤魔化されてはくれないだろうが、意図を読んでくるはず。
条件に外れなければ、おそらくある程度の無茶は通る」
「条件……。“願いは一つだけ”という事ですね。
では“全員をカオリ様と一緒に送ってもらう”というのはどうでしょうか」
「そうですね! それでいきましょう!」
鬼若の提案は、えらくあっさりしたものだった。確かに一つだ。
それに俺を含め、この世界に住む者全てなら、カオリも文句はないだろう。
俺はちらりと女神の顔色を伺った。
非常にムカつく、職員たちのような顔が目に入る。
その表情の意図を読む以前に、殴ってやりたい衝動に駆られたが、ぐっと堪え考える。
たぶんダメって意味だろうな。
「鬼若、悪くないとは思うんだが、それだと“一つ”とは言えないんじゃないか?
少なくとも、言葉自体に複数人の意味合いを含んでいないものでないとダメだろう」
「むむむ……。難しいですよっ!」
「ではまくら様、“仲間”とするのはいかがでしょうか」
「仲間……か。ベル、いい線だと思う。
ただ問題は、範囲がかなり主観的だよな……。どこからが仲間なのかが問題だ」
「友達……、でも同じですよねぇ」
人数をボカした言葉の選出、こういった悪知恵は、ベルの得意分野だろう。
だが、それでもすっと答えを出してくるのだから、さすがだな。
しかし、不安要素は全て排除しておきたい。
どうとでも取れる言葉ほど、危ないものはないのだから。
皆答えに困り果て、黙り込んでしまう。
人々、住民、知人……。色々な案は出たのだが、どれも決め手に欠けた。
考えれば考えるほど思考はぐるぐると回り、どれも良いようで、どれもダメに思えてくる。
考え込み、視野狭窄に陥る俺が、近づいてくる者に気付く事はできなかった。
「熊よ、悩んでイるようだな」
「うわっ!? ってレオン先生!?」
それは良く知った人物、獅子獣人であり、社会科と体育の担当教諭。
そして、鬼若のクラス担任であるレオン先生だ。
「なんでレオン先生がここに?」
「ロベールと共ニ、主である、アーニャ様の護衛だ」
「あぁ、そうなんですね……。って、アーニャと契約してたんですか!?」
「あぁ、それよりも願イの事だが……、ロベールが“契約関係にある者”とするのはどうかと言っておってな」
「ロベール、あの白熊ぬいぐるみがですか?
確かにそれなら、言葉上は複数人にはならないですが……。あっ!」
けれど、それでは契約していない者を見捨てることになる、そう思ったのだ。
しかしそれは、意外な抜け道があった。そうだ、思い出した。俺はあの時……。
「まくま君……、私は、私の知ってる人だけを助けるような方法はイヤだよ……」
「大丈夫だ。これならこの世界に居る全員を助けられる」
「もしかして、私が全員と契約するの?
そんなの契約石がいくつあっても……」
「その必要はない。そうだろロベール。
しかし……。お前は一体何者なんだ?」
「タダノ シロクマノ ヌイグルミ デスヨ?」
「まぁいい。ありがとな」
この世界では今、俺以外が知ることのない事実を知っている。
それだけでロベールが“ただの白熊のぬいぐるみ”であるわけがない。
けれどこれは、きっと仕組まれた事なのだ。
いつかの夜、俺自身も知らない事を告げたこの巨大なぬいぐるみは、誰かの意図で動いている。
ならばそれに乗るしかない。
そうだ、その結末を用意したヤツは、手の届く者だけじゃない、全てを救えと言うのだ。
カオリだけを助けて満足しているような、ちっぽけな俺に、もっと欲張れと、世界の全てを手に入れろと囁くのだ。
この無駄に愛らしくなってしまった小さな手には、少しばかり大きすぎる。
けれどやってやろうじゃねぇか、全てを、この世界の全てを持って帰ってやろうじゃねぇか……。
目の前に居る全てを!
「皆、聴いてくれ。この世界は間もなく終わりを迎える。
けれど、皆が助かる道は閉ざされてはいなかった。
説明は省くが、全員が助かる方法が一つある。
だから何も聞かず、契約していない者はみんな契約してくれ」
ガチャ神の後光によって舞台に注目が集まっている中、俺は500余りの人々に告げた。
それに異を唱える者が一人。それは、名演説を終えたサンタの爺さんだ。
「ちょっと待て、クマ。お前年末の事忘れたわけじゃないだろ?
俺だって確率上げた契約石使ったのに契約できなかったんだぞ?
それを契約してくれの一言で、できるわけないだろ!?」
「いや、それは来訪者に限った話だ。
現地住民であれば、双方の同意で契約できるんだ」
そう、それはケモナー三銃士が俺と契約したのと同じだ。
これで現地住民、つまり“モブキャラ”扱いの者は問題なく“契約関係”になれる。
割合としては3割ほどだ。
「じゃあなんだ、来訪者は無視するってんのか!?
他にも契約主だっているんだぞ!?」
「来訪者は、契約主全員で契約式を行う。
この一ヶ月ほどで、かなりの数の契約石が配布されているから、問題なく全員契約できるはずだ。
未契約状態のヤツが少なくて、契約主同士で衝突があったくらいだしな」
「それでも、運任せってのは気にいらねぇな」
「アイリ、契約式の確率操作頼めるか?」
「……アイテム排出を0%にし、キャラクターのみ排出にするのは可能。
……元より、このメンテナンス後はそのつもりだった」
「ははは。終わるとなると、ホントに大盤振る舞いだな」
「……次回作の宣伝費と考えれば安いもの」
これで準備は万端だ。あとは契約主の運次第……。俺はアテにしないでくれよ?
どうか皆に、ガチャ神様の御加護がありますように……。
「それで……、まずは現地住民の契約を行いたいのだが……」
「おっーっほっほっほ! それには及びませんわ!!」
「誰だ!?」
「わたくしよ!!」
高笑いで舞台に上がってきたのはそう、俺と強力な来訪者をめぐって小競り合いをしたアリサだ。
その後ろには従者であるアルビレオとヨウコ、あと友人? のイナバ……。
そして、なにやらぞろぞろと人々を連れている。
それはいつか見た気がする、羽のある来訪者や、普通の学生っぽい人たち、それに町でよく見かけた老若男女……。
「アリサ、その後ろの人たちはどうしたんだ?」
「彼らは皆、私の同盟者と契約者ですわ!」
「まさかお前……、また悪どい手を使って……?」
「まくらさん、彼らはちゃんと平和的な手段で契約しましたよ。もちろん同盟も」
イナバは酷く不満げな顔で俺に言うが、それは日頃の行いのせいだからな?
俺が疑り深いのとは関係ないからな?
「イナバが言うなら信じるけど……。どうやって?」
「弱みを握り、そこを突くか、手を差し伸べるかの違いですよ」
そう微笑みながら言うのはアルビレオだ。
鬼若とベルを呼び出せなくして俺を奇襲するという作戦を立てた彼なら、諜報活動や工作活動もお手の物という事だろうか。
「えっと……、まぁ平和的な方法だったならいいか。手伝ってくれるんだよな?」
「えぇ、もちろんですわ。
味方を増やしていつか報復を、と思ってましたけど、世界の危機を救うために手を取り合うのも、なかなか面白い展開じゃございませんこと?」
「色々ツッコミ所しかない発言だけど……。まぁいいか、よろしくな」
しかし、その展開に待ったがかかる。
「くらちん、少し令嬢と話をさせてもらってもいいかな?」
「セルシウス……」
アリサが出てきたんだぜ!? でもなんだか雰囲気が違うんだぜ。
『俺的には変わらん気がすんねんけど』
私の記憶では、あんな風に仲間を増やすタイプじゃなかったと思うんだぜ。
『あぁ、まくらに言われたからじゃない?』
ん? 何か言われたんだぜ?
『てか、局長現場に居たやん。アリサとバトルした時』
全然記憶にないんだぜ……。
『“相手を利用しようとするんじゃなく、助けを求めてみろ”って感じの』
……やっぱり記憶にないんだぜ!!
『ダメだコイツ……。あ、一応言っとくと690連目ね』
まぁ……、これで万事うまく行くなら構わないんだぜ。
『うまくいくやろか?』
なんか知ってるそぶりなんだぜ……。
『そりゃね』
後で尋問することにするんだぜ。
次回もゆっくり読んでいってね!!
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