爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

730連目 まくらの秘密、クロの秘密。

公開日時: 2021年1月27日(水) 18:05
文字数:2,716

前回のあらすじ

『まくら、絶望する。の巻』


外注さんの今日のひとこと

『夜な夜な一人でに動く、くままくらの呪い……』



「まくまさん……、ですよね……?」


「クロか。おはよう。どうかしたのか?」


「なっ……、なんで浮いてるんですかっ!?」


「あっ……」



 しまった、ついくままくらを脇に抱えたままでいたが、周りからは浮いてるように見えるんだった。

しかし説明するには、俺が転生者だという所から話さないといけなくなるよな……?

いや、ロベールも居るのだから「実は俺、幽霊なんだよね」なんて説明でも成立するが……。

クロの怯えた表情を見れば、それが得策でない事は明らかだ。ならば誤魔化すしかない!!



「すげーだろ? いりゅーじょんだぜ!?」


「えっ!? ふしぎまくらさんだとは思ってましたけど、空を飛べるなんてすごいのですっ!!」


「おっ……、おう。喜んでもらえたなら何よりだ」



 クロは目を輝かせタネのない手品を喜んでいるが、こんな純粋な子を騙していると思うと、良心がギリギリと痛む。


 いや、それも問題だが、なぜこんな時間にクロがここに居るのかも問題だ。

しかも手には箒を持っている……。まさかここの手入れをしていたのは……。



「クロ、もしかしてカオリも一緒か?

 ここの掃除のクエストでも受けたのか?」


「あっ……。これはですね……、えーっと……」



 クロの顔には大きく“しまった”と書かれているかのようだ。

おそらく、一人で抜け出して来たんだろう。

誰かに見つかってもこっそり逃げるつもりが、俺が飛んでいるものだから、声を掛けてしまったという所か。


 ただ、クロのその姿からは“悪い夜遊び”をしているようではなかったし、何より時間も夜というよりは早朝だ。

ワンコが朝早く散歩に出かけたがるのは、致し方あるまい。



「立ち話もなんだし座ろうか。その様子だと別に悪い事はしてないだろ?

 ただ、クエストでなければ、なんで掃除してるのか気になっただけだよ」



 ひんやりしているであろう石段に座り、俺はクロの話を聞く事にした。

うっすらと朝焼けが夜の闇を焼いてゆく中、クロは話すべきか悩んでいるようだった。



「えっとその……。まくまさん、変な事聞きますけど、笑わないでくれますか……?」


「内容による」


「!?」


「冗談だ安心しろ。それに、空飛ぶまくら以上に変なコトなんて、そうそうないだろ?」


「それもそうですよねっ!!」



 クロよ、そこは否定する所だから……。

といっても、このくらいの歳の子に、そういった“お決まり”を期待するのも無茶な話か。



「あの……、それでですね……。まくまさんは……、神様っていると思いますか?」


「あぁ、いるよ」


「ですよね……。みんないないって……。って、えぇっ!?」


「“神はいると思いますか?”ってアンケートの答えに“インターネットで見た”の回答が9割ある有名な円グラフがあってな……」


「????」



 もちろん期待などしていない。

分かる人にだけ分かればいい。



「いんたーねっとって何ですか?」


「あっ……、そこからか」



 そうだった、この世界にはネットがないんだった。

なにせ魔法がある世界だ。情報通信も魔法で行われているため、インターネットという概念がないのだ。



「まぁいいや。俺の通じない冗談は置いておいて、どうしてそんな事聞くんだ?」


「えっと……、神社って神様のおうちじゃないですか。

 だから、どんな人が住んでるのかなって……」


「神社が神様の家かどうかもあやしいし、少なくとも人でもないが……。

 確かに、祀られてはいるよな。それで神社の掃除をしにきたのか?」


「そうなんです。神様も、きれいなおうちの方がいいかなって……」


「クロは優しい子だなぁ……」



 頑張って早起きして、神様なんていう、普通なら居るかどうかも分からない存在のために掃除までしてやるなんて……。

クロはとってもいい子に育っているようで、俺は嬉しくなった。

頭を撫でてやれば「えへへ……」と照れくさそうに笑うのだ。

まったく、神様でなくたって、何でも願いを叶えてやりたくなるヤツだよ。



「神様がどんなヤツかって聞かれると、俺も分からないけど……。

 でもさ、神様ってくらいなんだから、姿なんて自由自在に変えるくらいはできそうだよな」


「はっ……!? そうでした!!

 神様ですもん、そのくらいできますよねっ!!」


「えらく食いついてきたが……。

 クロは、どんな姿をしてて欲しいんだ?」


「えーっとですねぇ……。そうですねぇ……」



 なにやらうんうんと悩みだす。いや、そんなに真剣に考えるような話でもないと思うのだが……。

あまりに真剣なその様子は、自身の想像力をフル活用している様子だった。



「一緒に遊んで欲しいので……、腕からボールが発射する装置がついてたり?

 あっ、口からフリスビーが飛び出してくるっていうのはどうですかっ!?」


「まさかのロボ型!?」


「あとあと、オヤツをいっぱい出せるように、オヤツタンクが付いてるんですよっ!」


「いやいや待て待て。クロ、お前は神様を何にしたいんだ!?」



 いつにも増してぶっ飛んだクロの発言には、俺も対処に困る。

ロボと遊ぶクロと言うものには少し興味があるが、あまりに発想がSFチック……。

というか、そんなロボは技術力の無駄遣いだ。



「えへへ、冗談ですよっ!

 でもでも、一緒に遊んでくれる人だといいなー」


「なら、やっぱり人型だな。

 それも、クロの体力に付いて来られるだけのタフさが必要だ」


「あとはですね、やっぱり一緒に遊ぶなら女の子の方がいいですねっ!」


「ははは、注文が多いな」



 俺達はそんな他愛の無い話をしていたが、その話題となっていた神様、つまりガチャ神様がどう思ったかは知らない。

けれど、少なくとも俺の気持ちは少し軽くなっていた。


 悪い夢から醒めて、知りたくなかった現実を知って……。

けれど今もこうやって、バカみたいな話で笑っていられる。それだけで救われたのだ。



「クロ、ありがとな」


「ふぇ? 何がですか?」


「クロと話してたら、なんだか元気が出てきたよ」


「えへへ……。クロの元気をもっとおすそ分けですっ!!」



 頭を撫でる俺に、クロはぎゅっと抱き着いてくる。

その温かさと共に、クロの優しさが身に染みる。

少しずつ顔を覗かせた太陽も、俺の事を励ましてくれているようで、俺はまだここで頑張れる、そう思えたのだ。



「あっ! クロもう帰らないと!

 抜け出してきたこと、バレたら怒られちゃいますからねっ!」


「そうだな。気をつけて帰れよ。

 あと、抜け出すのはほどほどにな」


「はーい!!」



 勢いよく駆け出し、後ろ走りで手を振るクロを見送った俺は、当初の目的を果たさんと石段を登りはじめた。


 小さな社。そこもクロのおかげで非常に綺麗な状態だった。

ガチャ神様はこんな信心深い子を持って幸せ者だな。

そんな風に思っていたのに、ガチャ神様の第一声は意外なモノだった。



「……。おぬしら、一体ワシをどうするつもりじゃ!?」


『クロは、まくらが元気無いの気づいてたんかな』


テンションの高さが、空すべりしてたよね。


『神様相手に殴り込みとか言っちゃう時点で、相当の空元気やったな』


盗んだバイクじゃなくて、くまを抱えて走り出すのがシュールだ。


『この世界にバイクあるんや?』


ある。出す必要ないから出てこないだけで、普通に車も電車もある。


『遠出する時は亜空間通るし、電車とか別にいらないんじゃね?』


亜空間通るには、消費魔力が大きいんだよ。


『あー、そういうハナシもあったなぁ……。やのにインターネットは無いと』


というか、交通手段も全部魔力で動いてるからね。正確に言えば車とはちょっと違う。


『魔法と科学の融合した世界。なんというふぁんたじぃ』


タグにローファンタジーってあるでしょ?

さて次回……、ヤツが来る!!


『そのために左遷したのか。というかもう来てるやん!』

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