早くごしゅじんに会いたくて、今日も近道しちゃいました~!
林の中を通る道は、石畳の道よりも走りにくいけど、ワンコのクロには関係ないのです!
でも、ごしゅじんに「人型になったんだから、人として生活してね」って言われたから、手を使って走るのは我慢してるのです!
頑張ってるクロを、ごしゅじんは褒めてくれるかな~?
それにそれに! 今日はお手伝い先のおばあさんに、クッキーを貰ったのです!
ご褒美をもらえるクロを、きっと褒めてくれるのです~! 楽しみです!
いつもの公園、噴水の前にごしゅじんを発見です!
「ごしゅじ~ん!」
走り名がら手を振ると、クロに気付いてごしゅじんが駆け寄ってくるのです!
ごしゅじんってば寂しかったのかな? クロがいないとダメなごしゅじんなのです~。
でもでも! クロも嬉しくて手よりも、もっと尻尾が揺れちゃうのです~。
はっ、恥ずかしいからこの尻尾は見せられないのです!
「よかった! 無事だったのね! SSR警報が出たの!」
「警報ですか!? 安心してくださいっ! クロがやっつけちゃうのです!」
来訪者警報、強い野良来訪者が近くに居るときに出される警報ですっ。
でもクロだって、これでもSRなのですっ!
ガブっとひと噛みで退治しちゃうのです~!
そしたら、ごしゅじんも喜んでくれるのです!!
「クロ、バトルなら怪我をする事もないけど、SSRなんだよ!?
バトル扱いにならないと、どんな酷い目に遭うかわかんないんだよ!?」
「相手を心配してあげた方がいいのです! なんたって、クロが相手なんですからねっ!」
ごしゅじんは心配性なのですっ。クロが居ればどんな相手も一撃なのですよっ!
と、言ってるそばから、野良来訪者の群れがやって来たのですっ!
「ごじゅじんを守るのがクロの役目! ちょっとだけ痛い目にあってもらうのです!」
「クロ! 待って!!」
「おんどりゃぁ~~~!!」
先手必勝! クロの必殺“百烈犬パンチ”を食らうのですっ!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「えへへ……。ごしゅじん……、クロ、やりましたよぉ~……」
俺を抱きかかえ、カオリの膝枕でムニャムニャと寝言を言うクロ。
なにやら幸せな夢をみているようだ。時折寝ぼけて噛まれる以外は、平和な日常。
初めて会った時はあんなに警戒されたのに、今ではお気に入りの抱きまくらだ。
「クロってば、バトルしてる夢でもみてるのかな?」
「夢でバトルとか、コイツってこう見えて戦闘狂なのか?」
「そうでもないんだけど、私を守るのが役目だと思ってるから」
「さっきの話を寝ながら聞いてたから、夢に出たのかもな」
最近はずっとカオリに、この世界の事や契約主として、知っておく必要がある事を聞いている。
なにせ俺は「ゲームで知った事」以外の情報は持ち合わせていないため、日常生活に支障をきたすレベルで、この世界について理解していないのだ。
さっきまで聞いていたのは、来訪者のレアリティと警報についてだ。
ゲームでは強さや、ガチャでの出現率の低さの意味合いしかないレアリティだが、こちらでは来訪者の“危険度”を示す値となっている。
そして、それがSR以上で、さらに契約を行っていない場合は、周囲に警報が出される。
震度5以上が予測されると出る緊急地震速報みたいなものか、と俺は理解した。
そして、契約を行っていない来訪者を「野良来訪者」と呼ぶそうだ。
ただ、野良来訪者なら全てに警報が出る訳ではなく、彼らが元居た世界の状況や、その者が善性か悪性かによって、警報が出るか出ないかも変わるらしい。
鬼若とベルは、キャラの元ネタに鬼と悪魔を含むのだから、警報が出るのは当然といえば当然か。
そして警報が出る理由、それがクロと鬼若たちのバトルの様子にも関係していた。
来訪者は学園運営局のルールに縛られている。だが、バトルと判定されなければそのルールの適用外になり、十分危険な存在といえるらしい。
それはベルの羽衣がクロを縛り上げたように、「命の危険が無い程度の暴力行為」は許容されるとの事だ。
ならば怪我をする事もあれば、恫喝する事もできる。だからこそ、大きな魔力を持つレアリティの高い来訪者に対して警報が出されるのだ。
カオリ達と出合った時に出ていた警報は、俺の端末が故障したための誤報だったらしい。
というか、俺がまくらになった事で色々とバグが発生したようで、今頃学園運営局はてんてこまいで対処に当たっているようだ。
「それで、野良来訪者限定ってのはどうしてだ?」
「契約している来訪者はね、契約主がその責任を負っているからだよ」
「つまり、もし鬼若が何かマズい事やると、俺が罰せられるのか?」
「そういう事でもあるけど、対人活動においての魔力利用を制限される……、とかなんとか……」
なんだか、とても歯切れの悪い説明をするカオリ。たまにこういう反応になる事があるな。
特に今回のように、自身に対しての事柄ではない時は理解が及んでないようだ。
「なんだその、対人なんとかってのは」
「簡単に言えば、人に対して魔力を使えないように、自動で制限が掛かってるらしいの」
「野良じゃなければ、安全装置が付くって事か?」
「多分、そういう事でいいと思うの」
クロか鬼若本人に直接聞けば、どういうことか分かるのだろう。
といっても、別に俺がちゃんと理解している必要もないか。
勝手に暴れて俺が投獄、なんて事にはならないと分かっていれば、別にそれでいい。
それにしたって、今回のカオリの歯切れの悪さは気になる所だ。
今までは、ここまで誤魔化された感じのする答えはなかったのだが。
「もしかしてたけどさ、クロってあんまりバトルしたことないのか?」
「えっ……? どうしてそう思ったの?」
「いや、鬼若たちに何の躊躇も無く挑んだしさ、バトル関係の話があやふやだし」
少しの沈黙、それはきっと肯定の意味だと思う。
けれど、経験不足だと自身の口から語るのは、敵対者に弱点を教えるようなものだ。
もちろん俺は、カオリと敵対する気はないんだけどね。
「クロにはね、たとえバトルでも戦って欲しくないの」
バトルとは学園運営局のルールに基づいた、いわば試合のようなもの。
そこでの攻撃は“仮想攻撃”となり、人を傷つけるどころか、何かを破壊する事もできない。つまり怪我も死亡の危険もないのだ。
その代わり、負ければ自身の魔力を奪われ、しばらく行動不能になる。
「きっとクロは、私を守るために戦おうとする。
そのためには、クロはクロ自身がどうなってもいいって思ってる。
それに元々は番犬という役目を負う子だから……。
もしかしたら、その役目を果たせていない今の状況は、退屈なのかもしれない」
ひとことずつ、考えを整理するように、カオリはゆっくりという。
その目は少し、寂しさを含んだ色をしているように、俺には見えた。
「けどね、私はこの世界でたった一人の、家族と呼べる存在に傷ついて欲しくないの」
クロの幸せそうな寝顔に微笑みながら頭を撫でてやる。
家族と呼べる存在、それが彼女にとってのクロだった。
今回の主役はクロ! わんこなでなでもふもふ!
うわ、このわんこつよい・・・。
後書き代打 ◇カズモリ◇
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