爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

630連目 白鳥家の頭脳

公開日時: 2021年1月22日(金) 18:05
文字数:2,441

前回のあらすじ

「気まずいカラオケ大会が開催されたのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「黒幕登場らしいのじゃ」

 アリサの呼び出しに応じた青年に俺は見覚えがあった。

黒髪で金と青のオッドアイ、とてもカラオケルームには似合わない優雅な佇まい。

クリスマスの準備の時、ミタ爺の孫と共に居た人物。アルビレオだ。



「これは失礼致しました。お久しぶりでございます、熊の実様。

 やはりあの時、ベルフェゴール様の腕に抱かれていたまくらは、貴方様でしたか」


「姿も変わっているし、あの時はただのまくらのフリをしていたからな。無理もないさ。

 それと、俺の事はクマとでも、まくらとでも好きな方でどうぞ。

 あと、ベルフェゴールもベルって呼んでやってくれ」



 仰々しく礼をし「畏まりました」の一言を発するその姿さえ、同年代とはとても思えない。

いや、中身であれば俺のほうが年上だと思うのだけど、それすらも疑問に感じるほどの慣れている様子なのだ。


 そんな彼もヨウコに促され席に着く。

従者の雰囲気ではあるが、仕事があるならまだしも今は話すべき相手だ。

とりあえず飲み物を注文させて、ゆっくりと尋問を始めようか。



「白鳥家にて、執事をさせていただいております。アルビレオと申します」


「あれ? チヅルのトコで働いてるんじゃないんだ?」


「えぇ、白鳥家と三田家は親交がありまして、時折手伝いに上がる事があるのです。

 ですが、普段は白鳥家にてご厄介になっております」



 ヨウコの話を聞いていた俺としては、特段驚くことでもなく「ふーん」とだけ返した。

どうやら、ヨウコは嘘をついていないであろう事は分かったし、それで十分だ。

そうこうしていると、注文していたコーヒーが運ばれ、各々が飲み物を飲んで黙り込んでしまった。


 静か過ぎる……。あれ? ここカラオケルームだったよな?

そんな沈黙を破ったのはカオリだ。気まずさに耐え切れなかったのだろう。



「それで、その……。

 アルビレオさんは執事をされてるとの事ですが、学校には行ってないんですか?」


「えぇ、すでに卒業しておりますので」


「アルは飛び級ではなく、中等部卒業時に、高等部の卒業検定に合格しましたの」



 そっけない返答にアリサがそう付け足す。

どうやら中学卒業と同時に高校も卒業した扱いになっているらしく、現在16歳にして働いているという事らしい。

そんなに優秀なら大学に行くのかと思ったが、何か事情があったのかもしれないな。

俺が気にする事でもないか。



「それで、その優秀な執事さんが、今回の作戦を立てたって事かな?」


「えぇ、その通りです」


「妙に素直だな。まだ何か企んでるのか?」


「いえ、策が失敗した今、隠しごとをする必要もございませんので」



 誤魔化すこともなく白状する様子に驚いたが、白旗揚げて降参ってコトか。

その話が信用できるかどうかは別だけどな。



「カオリはどう思う?」


「えっ……。私は……」



 急に話を振られたカオリは言葉に詰る。まぁ、無理もない。

相手は、カオリがウチの参謀役だと思っているだろうが、実際は慎重派なだけのごく普通の女子高生だ。



「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」


「でしたら妾も……」



 困ったカオリは逃げ出した! しかしヨウコに回り込まれてしまった! なんて状況だろうか。

二人が出て行った後は、また重い空気が部屋を支配している。

アリサがヨウコを恨めしげに見ていたのは、俺の気のせいではないだろう。



「面倒だな」



 唐突な俺の言葉に、アリサはその鋭い目を丸くする。コイツってすぐ顔に出るタイプみたいだな。

良く言えば表情豊かって事だが、裏のかきあいには向いてない。



「こうやって腹の探りあいしてても意味無いだろ? だから単刀直入に言うな。

 今後も他の契約主に今回みたいな事するつもりか?」



 俺の発した言葉の短刀は空を切り、どこかへ飛んで行ってしまった。つまりガン無視されたってことだ。

アルビレオは顔色ひとつ変えずコーヒーを飲んでいるし、アリサはその様子を不安げに見つめているだけだ。単刀直入とは一体……。

というか、もはやどっちが主かわかんねぇなコレ。



「おーい、聞いてるかー?」


「おっと、失礼致しました。私に問われているという事でしょうか?」


「いや、どっちが答えてくれても構わないけどさ……」



 うーん、アリサの参謀役は、俺のペースを乱す作戦なんだろうか?

と思いきや、そういうわけでもないようだ。



「その問いの答えは、アリサ様のお考え次第かと。

 私はアリサ様が必要と仰るのであれば、今後も同じように、何らかの方法を考えさせていただくだけにございます」


「つまり作戦は立てるが、指揮するつもりはないと」


「えぇ。私はあくまで、お仕えする身でございますので」


「という事らしいが、アリサはどうなんだ?」


「わたくしは……」



 さすがのアリサも考え込んでいるようだ。

この返答が今後を決めるものだと、理解しているのだろう。


 ここで「今後も同じような事をする」と答えれば、俺達とは敵対する事になる。

それは戦力差を考えれば、絶対に避けたい状況だ。

他の契約主を同盟に組み込まれれば、状況はさらに悪くなるのだから。


 しかし「もうしない」と答えてしまえば、今度は戦力差を埋める方法を手放してしまう事になる。

覆せない序列を作るという選択は、最も優れた契約主になるという目標を捨てるのと同義だ。

どちらをとっても厳しい選択だが、俺はどちらを選んでも同じ提案をするつもりだ。



「わたくしは、全ての契約主のトップに立たねばなりませんの。

 ですから、強い契約者を手に入れる事を諦めたりいたしませんわ!」


「意外と頑固なんだな。

 それが俺達と敵対するという意思表示になっている事を、ちゃんと理解はしているんだよな?」


「ホントに一々嫌味を挟むクマですわねっ! そんな事百も承知の上ですわ!」


「スマンスマン、一応確認しないとと思ってな。

 それで、参謀役のご意見は?」


「アリサ様の御心のままに」


「忠実だねぇ……」



 正直に言えば、想定外だった。

これだけ圧力をかけられてもなお動じない決心に、俺はアリサの評価を見直す必要がありそうだ。



「それじゃ、ひとつ俺から提案だ」



 しかし、それでもこの話には乗ってくるだろうと、俺はたかをくくっていた。

「……誰じゃ?」


それがおそらく読者の総意でしょうね。


「えーと……、エンドレス周回4にちょっとだけ出ておるな……」


ちなみに、アルビレオってのは白鳥座の頭にある星の名前だよ。

ホントは頭っていうかくちばしだけど。


「あぁ、だからアリサの参謀役……。って気付く訳ないじゃろ!!」


あと金と青の二重星なんだけど……。


「もうその辺の雑学はお腹いっぱいじゃ」


ちぇ、つまんねーの。

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