爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

300連目 最高のクリスマスを君に

公開日時: 2021年1月3日(日) 18:05
文字数:2,606



「爺さん、ここが最後だ」



 俺の言葉に、無言の返事をする爺さんは、プレゼントを抱え立ち尽くす。

子供達へプレゼントを配り終えた俺たちは、最後の届け先のドアを前に集まっていた。


 最後の届け先、それはもちろんアーニャの家だ。外泊する事になっているのだから、本人は居ないはず。

しかし、それでも爺さんにとって、初めてサンタとしてではなく、爺さん本人からプレゼントを渡す相手なのだから、緊張しているのだろう。



「いっそ、このネコミミを外して、“悪い子はいねえがー!!”って入ろうか?」


「鬼若君、それ色んな意味で冗談にならないからやめようね?」


「アーニャは“悪い子リスト”に入ったって、悪い子なんかじゃねえよ……」


「なら、何をためらう必要がある? さっさと行って、置いてこいよ」



 ちらりと俺を見る爺さんは、憎らしげで、けれど助けを求めるような目をしていた。

俺ができるのは、カオリ様の言うなまはげとやらのマネをして、爺さんを茶化すくらいだ。

あとは爺さん本人が、サンタという役割を超えて行動できるかどうか。それだけだった。


 ちなみにクロは、サンタの仕事に疲れ、夜も遅いこともあって寝てしまった。

一人にさせられないし、俺がおぶっているが、これでなまはげごっこをするのは、少しばかり絵面がおかしい気がする。



「大丈夫、あんなに悩んで選んだんですよ。きっと喜んでもらえます」


「あぁ、そうだな。お前ら、手間かけさせた。ありがとう」



 覚悟を決めたのか、爺さんは小さく息を吐くと、そっとドアを開け、中へと入った。



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「それで、帰ってくるのを待つんですか?」


「そうだね。おじいさんが出てきたら、一緒に帰ってお疲れ様会しよっか」


「いいですね。作業着サンタ服着ているとはいえ、冷えますから。何か温かいもので乾杯しますか」


「うんうん、それがいいね」



 他愛の無い話をしている間も、雪はしんしんと降り続き、世界を深く、白く染めてゆく。

どのくらい経っただろうか、吐息で手を温めるカオリ様の後ろの戸が、ゆっくり開いたかと思うと、思わぬ人物が顔を出した。



「皆様、お疲れ様でした。外は寒いでしょう、どうぞ中へ」


「チヅルさん、起きてたんですか?」


「えぇ、これでもサンタの娘ですから。のんびり寝ていられませんわ」



 やさしく微笑み、彼女は中へと誘う。どうやら俺達が来ることを予想していたようだ。

しかし、誰がそれを教えたのだろう? 悪い子の家にサンタは来ないはずなのに……。

ぼんやりとそんな事を考えながら案内され、俺達は柔らかな光の漏れる戸をくぐる。


 そこには、大きな垂れ幕に『お爺様いつもありがとう』と書かれ、綺麗に飾り付けられたパーティー会場があった。

机には溢れんばかりの豪華な料理が並び、中央には巨大な3段重ねのケーキが鎮座している。



「さぁ、体も冷えている事でしょう。

 あたたかいシチューもあります。どうぞお召し上がりください」


「うぅん……、んん……? いいニオイがするのです……」


「あ、ありがとうございます……。えっと、それで……、これはいったい……」


「毎年人知れず頑張る、サンタさんへのサプライズパーティーですよ」



 カップに注がれたシチューを渡しながら、微笑みながらもしたり顔で語るチヅル。

そのシチューの匂いに釣られ起き出したクロは、寝ぼけながら受け取り、ゆっくりとふぅふぅ冷ましている。


 そしてふと目をやれば、サンタの爺さんは孫のアーニャに抱き着かれ、今にも泣きそうな顔をしわくちゃにして、ぐっと耐えていた。



「ふふふ。サプライズは成功したようですね」


「もしかして、最初からこのために、わざと“悪い子リスト”に?」


「えぇ。アーニャが言い出しましてね。なかなか大変でしたよ。

 外泊扱いにするために、日をまたぐまで、お友達の家にお邪魔させていただいたんですもの」


「はぁ……。去年に引き続き、人騒がせな家族だな」


「皆様、大変ご迷惑をお掛けしました」


「いえいえ、迷惑だなんてそんな……」


「お詫びと言ってはなんですが、どうぞパーティーに参加してくださいな」



 すっと人数分の椅子を引き、招き入れるチヅルは、俺達がプレゼント配りもしている事を知っていたようだ。でなければ、料理の量や、椅子や食器の数などの説明が付かない。

バウムたちが戻ってから、チヅルは工場から離れたはずなのに、誰からこちらの話を聞いていたのだろう?


 そんな風に様子を見ていたが、カオリ様は料理に手を付ける前に、プレゼントが入っていた袋から、何枚かの色とりどりの紙を取り出す。



「あの、チヅルさん。もしかして、これも皆さんが?」


「あら、それは存じ上げませんわ」


「なんですか? それは」


「プレゼントを配ったお家からの、お礼の手紙だよ」


「あっ! それなら、クロも貰ってきましたよっ!」


「そういえば俺も何通かあって、後で爺さんに渡そうかと思ってたんだよ」



 それぞれが机の上に手紙を出す、それは少なく見積もっても、50通はあった。

俺達が代わりに行った家の数などたかが知れている。けれどその中でお礼の手紙を用意した子供がこれだけいるのは、やはりサンタという存在が慕われている証拠だろう。


 それぞれに皆、手書きで「サンタさんへ」と書かれており、中には読めないような字もあったが、かなり幼い子が、頑張って書いた様子が見て取れた。



「アーニャ、こちらへ。御父様、皆様からお礼のお手紙が届いてますよ」


「はーい、今行きます」


「お前ら……、本当にありがとう。今年は、今までで最高のクリスマスだ」



 手紙を受け取り、我慢がきかなくなった爺さんは、ついに泣き出してしまった。

けれど、ひとつひとつの手紙を丁寧に封を切り、愛おしそうに目を通すその姿は、多くの子供達に慕われるサンタそのものだった。



「はじめまして、アーニャちゃん。今日はパーティーに呼んでくれてありがとう。

 私はカオリっていいます。こっちがクロ、そしてこっちが鬼若君」


「はじめましてアーニャです。皆さんがお爺様のお手伝いをしてくれたと聞いて、お会いしたいと思っていました。どうぞ楽しんでくださいね!」


「しかし……、すごいな。これを一人で準備したのか?」


「ううん。お父さんもお母さんも手伝ってくれたし、お友達も手伝ってくれたの。

 それに、まくらを持った、女神様も手伝ってくれたんだよ」


「まくらを持った……」


「女神様……????」



 その人物像に心当たりはある。あるにはあるが……。

少なくとも心当たりの人物は女神ではない。断じて女神ではない!!

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