前回のあらすじ
『カオリ、パトロール中にナンパされる』
外注さんの今日のひとこと
『上神さんがどっか行ったんやけど……』
「ワシじゃ! ガチャ神じゃ!!」
シンと冷え切った早朝の、誰も居ない神社の境内に寂しく声が響く。
世界に光臨し、とりあえずキメ台詞を言ったものの、虚しさのみがこみ上げた。
「無理やりファンレターの催促をしに行ったというのに、すぐ帰されてしもうたわ……」
上司たる神へのグチをいくつか思い浮かべたものの、この場での発言を聞いている可能性を考え、口にするのはやめた。
けれど、その考えすらも読まれている事に気付くはずもなかった。
「まぁよい。とりあえず、この世界の不具合を調べる事にするかのぅ」
無駄に独り言の多い神であるが、それは上司の代理として、世界を管理していた時からである。
それはずっと一人きりであったために、何をするにも自身で喋り自身で聞くという、一人会話をする事で、寂しさを紛らわせていた事に由来する。
そのせいもあって、天界では基本的に上司と二人きりという、普通ならば気まずいと思う状況さえも、一人でないという喜びの方が大きかった。
その反動か、相手が神社に来てくれないと会話相手が居ない今の状況は、寂しく味気ない毎日であった。
けれど、それでも毎朝参拝してくれる少女が居たため、以前の本当の一人きりよりは孤独感は少なかった。
「おはようございます神様っ!
きのうはいっぱい骨孫の引換券を貰ったので、神様にもおすそ分けですっ!」
そう言って少女は供物を数本置き、手を合わせる。
しかし、その少女に語りかける事は無い。
寂しく話相手は欲しいと思っていても、現地の者に無闇に関わるのは、この世界へ異動を命じられた時に止められていたのだ。
「さてっ! お掃除して朝ごはんまでに帰らないとなのですっ! また明日来ますねっ!」
駆けゆく少女の背中を見送り、沈黙を破る。
「……あやつのためにも、なんとかしてやらねばなるまい」
その呟きと共に、この世界の不具合を調べるため天界からくすねてきた資料に目を通す。
誰もが“フアンレターの催促”だと信じて疑ってなどいない……。と計画通りの展開に悪い笑みを浮かべているが、全知全能たる上司がそれに気付いていないはずもなかった。
「ふむふむ、運営会社は“Little World”というベンチャー企業じゃな。
“ちいさな世界を手のひらに”と、まさにスマホゲームの運営会社らしいスローガンじゃ。
元は、同人ゲームを作っていたグループなのじゃな」
一人ブツブツと喋りながら会社概要を眺める。
あまり大きな会社ではなく、このゲームが大きな柱となっている事を知り、ゲームの存続が会社の存続と同義であろう事を理解した。
「むぅ、ゲームのサービスが終了したら、倒産の危険があるかもしれんのぅ……。
それ自体はよくある話じゃが、ワシが原因というのは、あまり良い気がせんのじゃ」
気まぐれで運0の人間を創り、そのせいで死亡・転生させた事など忘れているかのような発言である。
けれどその内心は、その事を省みたが故の、自身の何気ない行動による他の者への影響を考えねばらなない、という反省からくるものであった。
しかし……。
「ま、会社へ行くのは後でよいじゃろ。
せっかく満開の桜があるというのに、花見をせんのは野暮というもんじゃ!
クロの置いていったツマミ片手に、どこぞの宴会に突撃じゃ!!」
そう簡単に根っこの部分が変わることも無く、最優先すべきは“楽しそうなこと”なのが、ガチャ神という存在であった。
そして、一日存分に花見の宴会を楽しんだ後……。
「花見客の宴会に混ざって、酒を拝借したのはよいのじゃが……」
「へへへ……。姉ちゃん、シュッとしてて、美人さんやのぅ……」
「ちょっと雰囲気を盛り上げてやったら、こやつめ、飲みすぎおったわ」
天啓という神の能力を無駄使いし、花見の盛り上げに使った結果は、盛り上がりすぎた宴会と、飲みすぎたひどい酔っ払いを作り出す結果となった。
黒い翼のある来訪者は、現在電柱を口説いている最中である。
他の参加者も相当酔っていたが、彼がその中で最も危険だと判断し、その原因たる神は様子を見守る事にしたようだ。
そこへ、見覚えのある者がやって来た。
「おーい、おっちゃん。電柱に話しかけてるけど、大丈夫か?」
「あっ! なんでこんな時に、クマが来てしまうのじゃ!」
「ん? なんか、聞き覚えのある声がした気が……」
「!?」
まさか参拝時でないにも関わらず、声を聞かれ焦った神が取った行動は、その場から逃げるという非常に薄情なものであった。
そのせいで、パトロールをしていたクマ達が大変な目に遭った事など、知るよしもない。
そして、この事を反省し、真面目に仕事をしよう……、と思うほど勤勉でもない。
「桜……、散ってしもうた……」
雨の中、流れゆく花びらさえも楽しんだ後の台詞とは思えないが、それでも葉桜に一抹の寂しさを覚えたようだ。
「……仕事でもするかのぅ」
こうしてやっとの事で、この世界の不具合を正すため、小さな会社の内情を視察に行ったのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
視察から帰った後、真剣な面持ちで書類に目を通す。
しかし、それは不具合に関するものではなかった。
「ファンレターが来たのじゃ! 初ファンレターじゃ!!」
二通のファンレター、それに喜んでいた。
片方はファンレターなのか怪しい“ポンコツ”という文字が並んでいたが、それを無いものとして扱う都合の良い目を持つ事は、今さら言うまでも無い。
そして舞い上がり、天界で共に居る相手が“中の人”でなく、“上司”であると訂正する事すら頭に無かった。
そのため、代わりに俺がここで訂正させていただく。
ちなみに、このファンレターというのは、『なろう版』での感想コメントである。
そのため、ノベリズムでご覧の方のために、ここに注釈を加えてさせてもらう。
「ふふふ。ワシの活躍が観たいという、ファンの期待に応えてやるのじゃ!」
誰もそんな事を期待していないと思われるが、一人意気揚々と街へとくりだすのであった。
そこに出くわすは、繁華街をゆく例のパトロール隊である。
彼らは話に花を咲かせ、先ほどからジロジロと、彼らを物色するように見つめる人影に気付く様子は無い。
ここで活躍せねばと調子付いている神は、いつもの天啓を行使するのだった。
「クロよ、かの二人に気をつけるがよい」
そしてオマケで、雲ひとつ無い空にも関わらず、雷鳴を轟かせるのであった。
それは、現在野球部の練習に参加している、かの者達の仲間を、こちらへ寄越すための布石であった。
「これで鬼若の部活は強制終了じゃ。雷の中、金属バットを振り回すバカはおらんからのぅ」
意外なほどに考え抜かれた作戦であったが、目論見どおりに事は運んだ。
くままくらを持つ少女たちをたぶらかそうとした連中は、突然現れたジャージ姿の汗臭いボディーガードによって手痛い反撃を食らったのであった。
その様子に、鬼若が間に合って良かったと自身の幸運に一息付くカオリ。
しかし、その手に抱かれたまくらは、自身の運の無さを自覚しているが故に、違和感を覚えるのであった。
ただいま~。
『はやっ! 帰ってくるのはやっ!』
うん。今回の地の文担当しに行っただけだし。
『メタっ! 発言がメタっ!!』
三人称視点って、神の視点とか言われるじゃん?
なら俺が担当しないとね?
『多分、そういう意味ちゃうと思うで?』
初本編はメタ発言も無く、つつがなく終了。
『どこがや! なろう版うんぬんのトコめっちゃメタいやん!!
その上、さらにあとがきも超メタいやん!!』
後書きがメタいのは、いつもの事じゃない。
『てかよく考えたら、時系列も前回の前の話で滅茶苦茶やん!』
俺が関わると時系列が崩壊するのも、いつもの事だよね?
『開き直りよったでコイツ……』
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