爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

690連目 うさぎ、跳ねる。

公開日時: 2021年1月25日(月) 18:05
文字数:2,546

前回のあらすじ

「局長と職員の、ナイス実況ももう終わりじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「……ワシは何度でも蘇るのじゃっ!!」



「アリサ氏の降伏により、ただいまのバトル、勝者をクマ氏とします!」



 アリサが降参を宣言したのは、イナバが説得してすぐの事だった。

主力を失い、自らの攻撃では大きなダメージも、逆転できる必殺技もないのだから、続けても再びクロの手痛い攻撃で蹴散らされるのは目に見えている。

どう見ても、詰みというやつだ。



「アリサ、約束覚えてるよな?」


「わたくしが負けたときの条件ですわね……」



 俺が負ければアリサの下へ入る。それが俺に対するペナルティだ。

逆にアリサが負けた時のペナルティは……。



「私たちの同盟に入るって事でいいのかな?」


「カオリ、それじゃペナルティにならないだろ?」


「え? じゃぁどんな約束したの?」


「“二度と相手の戦力を減らし、弱らせた所を狙ったバトルをしない。

 そして、来訪者をないがしろにしない”でしたわね?」


「あぁ、そうだ」



 そういった条件を付けはしたが、俺にそれを確認する術はない。

前者の条件にいたっては、今後は学園運営局うんえいの目もあるので、できないだろう。

なので、守るかどうかはアリサ次第だ。



「ふーん、そんな条件付けてたんだ?

 じゃあ、それが守られてるかは、ボクが監視してあげるよ」


「はぁ……。セル、今日お前を呼ばなかったのは、そうやって喧嘩腰になると思ったからだぞ?」


「そういう甘い対応が、この高慢女をさらに付け上がらせるんだよ?

 だから、ボクに任せてくれればいいの」


「はいはい。好きにすればいいが、ほどほどににな」



 これ以上はアリサとセルシウスの問題だ。俺は口を挟まないでおこう。面倒だし。

しかし、俺がセルシウスに今回のバトルの話をしていなかったというのに、まさかカオリから連絡されるとはな。

口止めしてなかったのは、二人の繋がりを考慮してなかったからだ。



 前の会議で会っているのだから、こうなることも考えておけばよかった……。

いや、むしろあの時の様子を見ていたからこそ、カオリは連絡したのだろうか?

万一俺が負けた場合、セルシウスは事実上アリサの下に付くことになるのだから、結果を見届けさせようと思ったのかもしれない。


 ……そう考えると、やはり二人の問題だからと、このまま放ってはおけないな。

あのセルシウスが敵意を隠さない相手だ。普段の態度が相当酷いものだというのは容易に想像が付く。

そして、それが本当のアリサでない事は、バトル前のアリサを見れば分かってしまうのだ。


今から対決する相手にさえ、手を差し伸べられる優しい子なのだと。

けれど、両親や契約者、その他周囲の期待を裏切れない、真面目な子なのだと。

そして……、イナバを前にした時だけ、昔のアリサで居られるのだと。



「アリサ、これは余計なお世話かもしれないけどさ……。もっとこう、他の人を頼ったらどうだ?

 イナバもそうだけどさ、ミタ爺とか他にもお前の事助けたいと思ってるヤツは居ると思うんだよ。

 だから、そういう人たちを利用しようなんて思わずに、正面からちゃんと向き合って、助けを求めたっていいと思うぞ?

 俺もさ、アカメとは契約したんじゃなくて、仲良くなって今回助けてもらったんだ。それに……」



 アリサに俺の言葉は届くだろうか……。

アリサを縛る鎖は、俺に解くことなど、できるだろうか……。



「優秀な契約主ってのは、一人でやらないといけないモノじゃない。

 なにより、一人ではできない事だと、俺は思うんだよ」



 その言葉に返事は無かった。元より俺もそれは分かっている。

今のアリサが、何を言っても負け惜しみにしかならないと、アリサ自身が一番わかっているんだ。




 さて、ひと仕事終わったことだし、俺の癒しパワーで、頑張ってくれた奴らを癒してやるか!

特にアカメは“使い捨ての壁”という、一番損な役回りだったわけで、気は進まないが少しくらいもふもふさせてやろう。


 などと考えながら休んでいる皆に目を向ければ、アカメはすでに動けないのをいい事に、バウムのゴワついていそうな毛皮を、モフモフモフモフと満喫しているようだった。

あいつってホントたくましいよなぁ……。



「みんなお疲れさん。

 バウム、嫌だったら一発殴ってもいいんだぞ?」


「いえ、慣れてますので」



 その一言に、バウムの日常が垣間見えた気がする。

トナカイのお兄さんとして小さい子に人気なだけならいいのだが……。

そんな想像をしながら、俺はバウムの腕の中へと収まる。


 皆勝った喜びよりも、一安心といった様子でゆっくりしていた。

クロもカオリが戻ってくれば、引きちぎれんほどに尻尾を振って、活躍を自慢している。

そんな中に一人、そわそわと落ち着きの無いヤツが一人。



「イナバ、アリサの事が気になるなら行ってこい」


「えっ……、でも……」


「俺さ、バトル中に考えたんだけどさ。

 アリサがお前との契約を切ったのって、お前が弱いからじゃないと思うんだよね」


「え……?」


「考えてもみなよ。アリサが契約してるのは、バトルに出てた二人だけなんだろ?

 バトルの参加上限が四人なんだから、弱くてもなんでも上限まで出した方が良いんだよ。

 だから、別の理由があるんじゃないかなってな」



 イナバは目を丸くしているが、俺の言わんとしている事を理解できずにいるようだ。



「アリサはさ、お前と契約で繋がった関係じゃなくて……。

 いや、そんな関係が嫌だから契約解除したんじゃないかな。

 お前とは、別の繋がり“純粋な友人でいたい”。そう思ったんじゃないかなって」


「そんなこと……」


「あるわけないって? じゃあ確かめてくればいい。

 お前が俺と契約していても、アリサが受け入れてくれるかどうかをさ」


「……」



 イナバは少しの間迷っていたが、遠くの今にもまた泣き出しそうなアリサを見て決心が付いたのか、「失礼します」と小さくお辞儀をして駆け出していった。



「まくま君。今のって、本当の話?」


「……カオリ、俺は思うんだよ。人間に必要なものってさ、一つしかない真実なんかじゃない。

 皆に用意された、都合のいい思い込みなんじゃないかなってさ」



 つまり要約すれば、嘘っぱちってコトだ。

けれど、それが慰めになるなら嘘も方便ってやつだろ?



「アリサの本心なんて俺にはわからないし、イナバがアリサの本心に気付けるかも分からない。

 けど今は、これで良いと俺は思うんだ」


「……そうかもしれないね」



 必死に跳ねるウサギを見送りながら、俺達はそんな話をしていた。

「ところで、アリサがバウムでなくクロを狙っておったら、どうなっておったんじゃ?」


いや、ヘイトコントロールうまくいってたし、バウム狙わせるのも作戦かと。

ちなみにヘイトコントロールとは、相手に特定のキャラを厄介だと思わせて攻撃させる手法だよ。

ゲームテクニックとして狙ってやるのは難しいけど、有利に進められるようになるね。

けど、もしクロが落とされていたら、ヨウコを一撃では落とせなかったかもね。


「つまり、まくらが負ける可能性もあったんじゃな?」


んー、バウムは攻撃型だから、数ターンかければ勝てるかな。

その場合回復されないように、まずアリサを狙う事になるけどね。


「支援・回復を先に落とすのは重要な戦略じゃな」


ところで、話逸らそうとしてるみたいだけど、ちゃんと辞令出すからね?


「……ちっ」


舌打ちしなーい。はいでは辞令。

ガチャ神ちゃんを四月一日付で学園都市への出向を命ずる。

同日、中の人を前後書き補佐役として、こちらへ招く事とする。


「ワシのコーナーが乗っ取られる!!」


はいはい、さっさと荷物まとめていってこーい!!


『四月章、“四月の雨”スタートやで』


「もう来ておる!?」

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