爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

堀口裕子の見る世界 [13]

公開日時: 2021年3月26日(金) 18:05
文字数:2,635

説明された特徴、服装などから“マコト君”が今川真、その人だとはっきりした。

あまりのショックに頭を抱えため息を零すと、森口君が心配そうに話しかける。



「その男の子は知り合い?」


「えぇ、おそらく今川夏音さんのお兄さんよ」


「あぁ……、確か僕が担当した子だね。お兄さんにも会った事あるよ」


「そうよね。私の担当してる人はほとんど、森口君から来てるものね」


「というか、さっきマサと回っている時に見かけたような……」


「それを先に言ってよ!」



 あまりにのん気な発言に、立ち上がり声を荒げてしまった。



「すぐに彼を捕まえましょう!」


「ちょっと待ってよナトさん、彼がどう関係してるかなんてわかんないでしょ?」


「いえ、考えてみればおかしい事ばかりで、彼が関係してるなら説明できることも多いのよ」


「捕まえるのはその話を聞いてからかな。いざとなれば、親御さんに携帯の番号聞いて連絡とればいいし」


「……えぇ、そうね。少し焦ってたわ」



 私は座りなおし、夏音さん関連で集めた資料を長机の上に広げた。



「まず防犯カメラね。昨日私たちが来た時に、オーナーが故障してる事を説明したのよ」


「まぁ、普通は説明するよね」


「でも考えてみればおかしいのよ。不審者がちょうどよく映ってる映像で説明するかしら?」


「うーん……。なくはないけど、それがわざとだって?」


「えぇ、私たちは行方不明の子たちの映像を見たかっただけよ?

 それなら、その映像を流して不具合の説明をすればいいじゃない」


「つまり、わざと不審者の存在を知らせるために見せたと?」



 森口君と目を合わせながらゆっくりと頷く。

けれど彼はまだ納得していないようだ。



「それってなんのために?」


「警察の捜査の目をそちらに向けるため、と考えるのが自然ね。

 例の不審者は、ハンバーガー屋さんの店長が話してたのよ。

 だから近所の店の人達は、そういった不審者などの情報共有をしていると考えられるわ。

 それはもちろん警察もね。

 オーナーは内心、森口君が来なくて焦ってたかもしれないわね。

 私たちじゃ、それを知らない可能性だってあったもの」


「たしかにね。本当は昨日失踪した子の捜査で今日来た時、それとなく僕に見せるつもりだったのかもね」



 彼ももはやこの店のオーナーが事件に関与している前提で話を進めている。

けれど、今一度確認しておこう。



「前提として、オーナーが失踪事件に関与してる前提で話しているけど、問題ないわよね?」


「問題ないよ。可能性ってだけで、おかしなところは指摘するから」


「それじゃ進めるわね。次に真君だけど……」



 これは少し話しづらい。けれどこれを話さないと二人が繋がった事で、事件パズルのピースがはまったのだと説明できないのだ。



「印南君。メール添付用に撮影したカーナビの地図出してくれる?」


「はい。えっと、これですね」



 小さなスマホの画面を三人で覗き込む。そして指差して説明を始めた。



「この密集してるのは森口君にも言った通り。

 でもね、これって密集してるだけじゃなさそうなのよ」


「というと?」


「ピンマークをざっと丸で囲むでしょ? すると真中近くに……」



 指差すのは“文”のマーク。学校だ。



「小学校?」


「そう。おそらく全員同じ小学校に通ってた子達よ」


「ん? でも夏音さんって12歳ってことは、中学に上がったばかりじゃ?」


「だからよ。生年月日の話はメールでした通り。

 おそらく、夏音さんの卒業アルバムで彼が生年月日を調べたのよ」


「それで妹さんの同級生を誘拐したと? なんのために?」


「意図はあると思うのだけど、それは分からないわ」



 理由が分からず唸る私たちに、印南君が意見した。



「12って数字にこだわってるんじゃないですか?

 12歳の女の子、それが1月~12月まで一人ずつで12人。

 それに……、4~7月の子は同級生じゃないんです」


「え? 同級生じゃない?」


「あぁ、そうか。もう8月だから、7月までの子は同級生だと13歳だもんね」


「えっ……ってことは、8月生まれの子は……って夏音さんが8月生まれよ!?」


「何か意味があるなら、12歳のうちに何らかの行動に出る……かも?」


「今日何日!?」


「28日だよ。明日は非番で焼肉半額焼肉の日……。って、今はそれどころじゃないね」



 あいも変わらず気の抜けた事を言っている森口君は放っておいて、資料を百人一首のように勢いよく机から拾い上げた。



「夏音さんは30日生まれよ! 何かあるなら、今日か明日しかないわ!」


「すぐに居場所を突き止めましょう!」


「って二人とも待ちなよ。本当にその推理が正しいかわかんないんだよ?」


「そんなこと言ったって、万一の事があってからじゃ遅いのよ!?」


「とりあえずは、その真君に連絡を取ってみようじゃない」


「……わかったわ。親御さんに連絡先を聞いて、電話してみるわ」



 言うが早いか操作が早いか。私はスマホの発信履歴から今川家の番号へとかけた。

急に息子の連絡先を知りたいと言われ、戸惑う由美さんに「捜査中に防犯カメラに写っていて、何か知っている可能性があるから話を聞きたい」と、適当な嘘で電話番号を教えてもらった。

そしてその番号にかければ、突然の見知らぬ番号に警戒したような声で彼は電話に出る。



「はい……どちら様でしょうか……」


「急にごめんなさいね。昨日会った堀口よ。あの時元気なさそうだったから、心配になっちゃって……」


「あ……はい。心配かけてスミマセン……」


「どう? 時間があるなら一度会ってお話しない? 何か悩みがあれば相談に乗るわよ?」


「えっ……でも……」



 ま、急に電話されてこんな事言われても反応に困るだけだろう。少し揺さぶりをかけてみよう。



「ほら、学校の事とか……、妹さんの事でご家族にも話しにくい事とかもるでしょう?

 相談に乗るのが私の役目なのよ。遠慮しないで?

 今ね……、地下街を出てすぐのゲームセンターに居るの。あなたは今どこかしら?」


「えっ……。なんで……、でもそんな……」


「あら? どうしたの? よくこの店には来るらしいわね。

 今日も近くまで来てるのなら、お話したいわ。大丈夫、私はあなたの味方よ?」


「でも、だってそんなわけ……」



 電話越しにも分かるほどに、明らかに動揺している。これはクロだ。

目配せで森口君と印南君に指示を出す。今すぐ探すようにと。

それを感じ取った二人は、同時に駆け出した。



「そう……。私にものね、残念だわ……。

 また気が向いたらこの番号にかけてね。いつでも相談に乗るから。それじゃ、


「……」



 彼は何も返事をしない。そして、静かに電話は切れた。

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