説明された特徴、服装などから“マコト君”が今川真、その人だとはっきりした。
あまりのショックに頭を抱えため息を零すと、森口君が心配そうに話しかける。
「その男の子は知り合い?」
「えぇ、おそらく今川夏音さんのお兄さんよ」
「あぁ……、確か僕が担当した子だね。お兄さんにも会った事あるよ」
「そうよね。私の担当してる人はほとんど、森口君から来てるものね」
「というか、さっきマサと回っている時に見かけたような……」
「それを先に言ってよ!」
あまりにのん気な発言に、立ち上がり声を荒げてしまった。
「すぐに彼を捕まえましょう!」
「ちょっと待ってよナトさん、彼がどう関係してるかなんてわかんないでしょ?」
「いえ、考えてみればおかしい事ばかりで、彼が関係してるなら説明できることも多いのよ」
「捕まえるのはその話を聞いてからかな。いざとなれば、親御さんに携帯の番号聞いて連絡とればいいし」
「……えぇ、そうね。少し焦ってたわ」
私は座りなおし、夏音さん関連で集めた資料を長机の上に広げた。
「まず防犯カメラね。昨日私たちが来た時に、オーナーが故障してる事を説明したのよ」
「まぁ、普通は説明するよね」
「でも考えてみればおかしいのよ。不審者がちょうどよく映ってる映像で説明するかしら?」
「うーん……。なくはないけど、それがわざとだって?」
「えぇ、私たちは行方不明の子たちの映像を見たかっただけよ?
それなら、その映像を流して不具合の説明をすればいいじゃない」
「つまり、わざと不審者の存在を知らせるために見せたと?」
森口君と目を合わせながらゆっくりと頷く。
けれど彼はまだ納得していないようだ。
「それってなんのために?」
「警察の捜査の目をそちらに向けるため、と考えるのが自然ね。
例の不審者は、ハンバーガー屋さんの店長が話してたのよ。
だから近所の店の人達は、そういった不審者などの情報共有をしていると考えられるわ。
それはもちろん警察もね。
オーナーは内心、森口君が来なくて焦ってたかもしれないわね。
私たちじゃ、それを知らない可能性だってあったもの」
「たしかにね。本当は昨日失踪した子の捜査で今日来た時、それとなく僕に見せるつもりだったのかもね」
彼ももはやこの店のオーナーが事件に関与している前提で話を進めている。
けれど、今一度確認しておこう。
「前提として、オーナーが失踪事件に関与してる前提で話しているけど、問題ないわよね?」
「問題ないよ。可能性ってだけで、おかしなところは指摘するから」
「それじゃ進めるわね。次に真君だけど……」
これは少し話しづらい。けれどこれを話さないと二人が繋がった事で、事件のピースがはまったのだと説明できないのだ。
「印南君。メール添付用に撮影したカーナビの地図出してくれる?」
「はい。えっと、これですね」
小さなスマホの画面を三人で覗き込む。そして指差して説明を始めた。
「この密集してるのは森口君にも言った通り。
でもね、これって密集してるだけじゃなさそうなのよ」
「というと?」
「ピンマークをざっと丸で囲むでしょ? すると真中近くに……」
指差すのは“文”のマーク。学校だ。
「小学校?」
「そう。おそらく全員同じ小学校に通ってた子達よ」
「ん? でも夏音さんって12歳ってことは、中学に上がったばかりじゃ?」
「だからよ。生年月日の話はメールでした通り。
おそらく、夏音さんの卒業アルバムで彼が生年月日を調べたのよ」
「それで妹さんの同級生を誘拐したと? なんのために?」
「意図はあると思うのだけど、それは分からないわ」
理由が分からず唸る私たちに、印南君が意見した。
「12って数字にこだわってるんじゃないですか?
12歳の女の子、それが1月~12月まで一人ずつで12人。
それに……、4~7月の子は同級生じゃないんです」
「え? 同級生じゃない?」
「あぁ、そうか。もう8月だから、7月までの子は同級生だと13歳だもんね」
「えっ……ってことは、8月生まれの子は……って夏音さんが8月生まれよ!?」
「何か意味があるなら、12歳のうちに何らかの行動に出る……かも?」
「今日何日!?」
「28日だよ。明日は非番で焼肉半額……。って、今はそれどころじゃないね」
あいも変わらず気の抜けた事を言っている森口君は放っておいて、資料を百人一首のように勢いよく机から拾い上げた。
「夏音さんは30日生まれよ! 何かあるなら、今日か明日しかないわ!」
「すぐに居場所を突き止めましょう!」
「って二人とも待ちなよ。本当にその推理が正しいかわかんないんだよ?」
「そんなこと言ったって、万一の事があってからじゃ遅いのよ!?」
「とりあえずは、その真君に連絡を取ってみようじゃない」
「……わかったわ。親御さんに連絡先を聞いて、電話してみるわ」
言うが早いか操作が早いか。私はスマホの発信履歴から今川家の番号へとかけた。
急に息子の連絡先を知りたいと言われ、戸惑う由美さんに「捜査中に防犯カメラに写っていて、何か知っている可能性があるから話を聞きたい」と、適当な嘘で電話番号を教えてもらった。
そしてその番号にかければ、突然の見知らぬ番号に警戒したような声で彼は電話に出る。
「はい……どちら様でしょうか……」
「急にごめんなさいね。昨日会った堀口よ。あの時元気なさそうだったから、心配になっちゃって……」
「あ……はい。心配かけてスミマセン……」
「どう? 時間があるなら一度会ってお話しない? 何か悩みがあれば相談に乗るわよ?」
「えっ……でも……」
ま、急に電話されてこんな事言われても反応に困るだけだろう。少し揺さぶりをかけてみよう。
「ほら、学校の事とか……、妹さんの事でご家族にも話しにくい事とかもるでしょう?
相談に乗るのが私の役目なのよ。遠慮しないで?
今ね……、地下街を出てすぐのゲームセンターに居るの。あなたは今どこかしら?」
「えっ……。なんで……、でもそんな……」
「あら? どうしたの? よくこの店には来るらしいわね。
今日も近くまで来てるのなら、お話したいわ。大丈夫、私はあなたの味方よ?」
「でも、だってそんなわけ……」
電話越しにも分かるほどに、明らかに動揺している。これはクロだ。
目配せで森口君と印南君に指示を出す。今すぐ探すようにと。
それを感じ取った二人は、同時に駆け出した。
「そう……。私にも話しにくい事があるのね、残念だわ……。
また気が向いたらこの番号にかけてね。いつでも相談に乗るから。それじゃ、またね」
「……」
彼は何も返事をしない。そして、静かに電話は切れた。
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