爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

局長業務引継書(別紙)

公開日時: 2021年1月19日(火) 18:05
文字数:2,000

この引継書は、学園都市運営局長のみが閲覧できるものとする。

 まずはこの引継書を見ている君へ、局長就任おめでとう。

君がこの書類を見る事ができると言う事は、私はもうこの世には存在していないのだろう。

しかし、君が私の後を引き継ぎ、学園運営局をより良いものにしてくれると信じている。


 さて、前置きはこれくらいにしよう。

なぜ私が、この別紙を引継書としてしたためたのか、それをまずは書き記す事にしよう。





 私の推測でしかないが、この学園運営局という存在は、ある一人の契約主の事故と共に生まれた……。否、創りだされた存在だと考える。

それは君も局長という存在になったと同時に、いやがおうでも理解させられたかと思う。

一職員であれば知ることのなかった、この世界の実体と過去。そこから導き出される答えとして、私は先の仮説を立てたのだ。


 では、その前の世界は誰が管理していたのか……。

それは局長という立場でさえ、名前も知らされない“上部組織”が直接管理していたものと、私は考える。


 しかし、職員達は神に等しい存在である彼らが、私たちを手足として使い、学園都市を管理してきたと記憶している。

学園都市に住む人々もそれは同じである。そして、その証拠らしきものも多数存在する。

とはいっても、学園都市に住む人々で、上部組織の存在を知るのは、ごく一部であるが……。



 それらの記憶と証拠から、局長となった君は、この世界の実体と過去を強制的に認識させられ、混乱している事だろう。かつての私がそうだったように。


 そこで先ほどの私の仮説だ。

過去におけるそれらの運営局の存在は、上部組織が作り出した幻、もしくは捏造された記憶と証拠である。

そして、私たちもそれらと共に創りだされたのだと。


 すぐに納得する事は難しいだろうが、おそらく君も局長をやっていれば、納得せざるを得なくなる場面に、多く出会うだろう。



 では、なぜそのような事を上部組織は行ったのかだが……。それは私にも見当もつかない。

しかし、私が今まで局長をやっていて、気付いた事はいくつかある。


 まずひとつが、来訪者の増加が止まった事だ。

ある時点から、新たに異世界から、学園都市へとやって来る来訪者がいなくなった。

そして、学園都市外から招かれる契約主候補もまた、同じ時期に来なくなっている。


 その事から、楽観的な予測をするのであれば、世界が安定したため、直接上部組織による管理が不要になった。

今後は維持管理のみ行えばよいため、私たち学園都市運営局が主体となり、運営するように体制移行したという予測だ。


 逆に悲観的予測をするのであれば、上部組織とは異世界の者であり、その世界との繋がりが絶たれたため、バックアップとして元々用意されていた私たちに運営を託された、というものだ。


 どちらの予測が実体に近いにしろ、私たちが運営を行う事になるのは変わらず、上部組織との連絡が途絶えている事実も変わらない。



 そして、ある時点というのが、最初に少し述べたが、ある契約主の事故と同じ時期なのだ。

その契約主の名は「熊の実」という。彼が契約式を行った時、何らかの問題が発生し、彼はまくら姿となり、それ以降彼の行く先々で不具合が発生している。


 彼自身には、見た目以外にも大きな変化があり、纏う魔力が現地民、来訪者、契約主、職員など、あらゆるものがごった煮になったような色を持つ。

不具合もそれに影響されていると考えられるが、詳しくは今後も調査が必要であろう。



 そんな彼が事務局に訪れたため、私は二週間ほど側に置き観察を行っていたが、彼の行動自体には不審な点は見当たらなかった。


 しかし、一介の高校生としては、高いマネジメント力と洞察力を持ち、少なくとも彼のプロフィールにあるような、目立たない普通の学生とは思えない。

事実、混乱していた事務局の業務を体系化し、効率よく仕事を回せるように整えたのは、彼の助言あってこそだ。


 そして彼には、職員のような特徴も持ち合わせている。

私を含め、職員たちは痛覚や恐怖など、一部の感覚と感情を持たない。

それは、世界の管理をするにあたって、そのようなものがあれば公平公正な運営が難しくなる局面が出てくるためであろう。

同じように、彼も一部の感覚を持たないようで、睡眠を必要とせず、疲労・空腹感もないとの事だ。

痛覚などの他の感覚や、感情の有無は不明であるが、私たちとの大きな共通点であると言える。



 ゆえに私は、彼が上部組織から派遣された者ではないかと考えている。

こちらも憶測に過ぎず、決定的な証拠はないが、状況やタイミングを考えれば、ありえない話ではないだろう。


 私亡き今、この書類を手にした君が、私を妄想癖のある精神疾患者と考えるのも無理はない。

けれど、彼には注意してほしい。できれば敵対する事なく、今後も気付かれない程度に監視を行ってもらえればと思う。


 私が、特別伝えねばならないと思った事はここまでだ。

以降のページは実務マニュアルとなっているため、業務を行うために活用していただきたい。

最後に……

 実務ページを喋り口調で書いちゃって「だぜだぜ」うるさくなってゴメンなんだぜ★

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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