爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

130連目 まくらは空を飛ぶ

公開日時: 2020年12月25日(金) 12:05
文字数:1,916

前回のあらすじ

「出るまで回せば、排出率100%なのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「自己破産は、弁護士が裁判所で手続きするとできるのじゃ」


「では改めて。契約してくれてありがとうベル。俺の事はまくらと呼んでくれ。

 さすがに、旦那様はムズがゆいからな」


「かしこまりましたまくら様」



 あくまで侍女メイドとして振舞うつもりか、深々と頭を下げる。

しかし、服装がメイド服ではなく、深い青色をした水着のような衣装上に、

レースのごとく透けた布を纏っただけのような状態なので、どちらかと言えば踊り子っぽく見える。



「俺は鬼若だ。主様にならって、鬼若様と呼んでくれていいぞ!」


「調子に乗るな小僧。我はまくら様の物なれど、貴様の下に付いたのではない」



 いきなり先輩風を吹かせた鬼若だったが、華麗にカウンターパンチを食らっていた。

あ、やっぱ踊り子っぽくない? うまくステップ踏んで避けた上で、カウンター攻撃する感じとかね。

今回の場合は舌戦だから、見える優雅さではないのだけど、切れ味抜群のカウンターだったよ。



 まぁ、ベルがカウンター口撃しなくても、俺が叱るつもりだったしそれ自体はいいんだ。

今まさに、リアル戦闘バトルが再び始まりそうな点を除いては、ね。



「とりあえず二人とも落ち着こうか。まず鬼若、俺は強さや契約順でひいきするつもりはない。

 だからお前も高慢な態度は慎め。それに強い者は静かにその刃を磨いている方がかっこいいぞ?

 それとベル、鬼若はバグ修正で強くなってちょっと浮かれてるだけだからさ、軽く流してやってくれ。

 共に戦う仲間だ、仲良くしてくれよな」



 俺がなだめると、「スミマセンでした」「承知いたしました」と各々の反応を見せる。

二人とも聞き分けはいいんだけど、犬猿の仲というヤツなのだろうか。

犬と猿っていうよりは、鬼若が犬っぽくて、ベルは猫っぽいよなぁ、なんて思う。

昔、実家で飼っていた犬と猫のように、仲良くやっていってくれると嬉しいんだけどなぁ。



「さて、それじゃぁアレ、やるとするか!」


「アレ? ってなんです?」


「鬼若君、アレと言えば……レベル上げ育成だよ!!」



 そう、俺はこの日のために、育成素材を大量に集めておいたのだ。

そのために何度クエストを周回したことか……。

あの涙ぐましい努力は全て、ベルフェゴールを手に入れたその時のために捧げたのだ!

今こそ全力を持って、素材を突っ込んでやろうぞ!

もちろんGLvグレードレベルを上げるための、特殊素材も集めてあるぞ!!



「ふふふ……、ふふふふふ……、やっと今までの努力が報われる……」


「主様、まくら姿なのでまだマシですが、ちょっとばかり気持ち悪いです」


「!?」



 まさか、鬼若に気持ち悪いと言われようとは……。

まぁいい、確かにテンション上げすぎていたのは否めないしな。



「で……、だ。アイテムはどこに仕舞ってあるんだ?」





 鬼若の説明によると、アイテムもスマホで出し入れできるようだ。

アイテムボックスの画面から選ぶだけで、亜空間に保管されたアイテムが取り出せるらしい。

スマホで注文すれば配達してくれる世界に住んでいたわけだが、こちらの方がより便利だな。


 とはいっても、俺は前世でも買い物は実店舗派だ。「実物を見ないで買って、不良品だったらどうしよう」なんていう、運ゼロを拗らせた思考回路によって、通販というものを信用していなかったのだ。



「それにしても、やっぱ操作しにくいよなぁ」



 俺は、まくらのミミをぴこぴこと動かしながら操作する。

スマホの通販に不慣だというのとは関係なく、まくらの体はこういう作業に向いていない。

本人にしか操作できないのだから仕方ないんだけど、なんとかならないものか……。



「面倒だしさ、一度“全受取”ってヤツで出してみるか」


「あっ! 主様! それは止めた方が……!」


「えっ?」



 鬼若が止めるより早く、俺は押してしまったのだ。魔のボタンを。





 ドバババババババ……! と勢い良く出てくるアイテム達。

それはとめどなく続き、スマホを射出口として滝のように流れ出す。

俺はそのスマホを放さないように必死に掴んでいる。

いやはや、かなりの量を集めたものだ。我ながらびっくりだ、と妙に冷静になってしまう。


 さて、ここで物理の授業だ。

「物体Aが物体Bに力を加えると、必ず物体Bも物体Aに同じ大きさで反対向きの力を返す」

これを作用・反作用の法則と言う。


 ボートに乗って岸を棒で押せば、ボートが進んでしまうのをイメージしよう。

物体Aがボートに乗った人間だ。そして物体Bが岸だね。

岸は人間の力程度じゃ動かないから、ボートが動いてしまうわけだ。


 さて、どうしてこんな話をしたかと思うだろう。

今回の物体Aは、大量に出てくるアイテム、そして物体Bは?

勘のいい人なら気付くだろう、今回の物体Bはスマホを持つ俺だ。

では、まくらと大量のアイテム、どちらがより動かされやすいだろうか。



 そう、俺は空を飛んだのだ。それはまるでペットボトルロケットのように。


前書きの闇が深い……。


「法知識は大切じゃぞ?」


というか、前書きは一体どこを目指しているんだ??


「ろーでぃんぐ画面の読み物のイメージじゃ」


ローディング画面で自己破産を薦めてくる闇のゲーム……。

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