爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

880連目 月光差す夜に

公開日時: 2021年2月4日(木) 12:05
文字数:2,398

前回のあらすじ

『まくら氏の過去、明かされる』


外注さんの今日のひとこと

『もはや全然修学旅行関係ねーな』



「そーいう訳でさっ! 俺はあんま親父の事好きじゃないんだよな。

 って悪いな、こんなつまんねー話してさ」



 昔の事を思い出したら、急に小っ恥ずかしくなって、頭をボリボリ掻いて誤魔化そうとした。

けれど、今の俺には無駄に可愛い耳が手に当たるだけだった。



「ううん。話を聞いて、まくま君の事少し分かった気がする……。

 なんで、アリサさんやヨウコさんに怒らないんだろうって思ってたんだ。

 お父さんの事があったから、相手を否定しないようにしてるんだね」


「んー……。そういうワケでは無いと思うけど……。どうだろうな?

 俺も、あんま考えた事なかったな」



 そんな崇高な考えを持って日々過ごしている訳ではない。

けれど、あの出来事がなければ、今の俺は無い。

カオリの言葉は、そんな風に少し肯定的に考えるきっかけをくれた。



「私も、お父さん……とは、うまくいってなかったの」



 少し詰り気味にカオリは話し出す。きっとカオリは、自身の話を聞いて欲しかったのだ。

けれど、少し考える時間が欲しかったのだろう。俺はただ、黙って続きを待とう。



「お父さん……はね、会社や近所の人達にはすごくいい人だと思われてたの。

 だけど……家の中では暴力を振るうような人でね……いつもお母さんは怒鳴られて、叩かれて……。

 なのにお母さんも、言い返したり、誰かに助けてもらおうともしなくてね……。

 ずっとされるがままで、お母さんは悪く無いのに謝って……。

 それでも許してもらえなくて、また叩かれていたの」



 これはまた……、壮絶な家庭環境だな。

放って置かれてた俺とは、別方向にだが。



「でもお父さん……は、私には手を出さなかったの……。

 ううん、そうじゃないかな。お母さんがそうさせなかったの。

 自分を身代わりにして、私を守ってくれていたの……。

 でも私、そんなお母さんを見るのが悲しくて辛くて……」



 だからカオリは、自身を犠牲にしてまで守ろうとするクロに、母親の影を重ねて戦わせたくなかったのか……。



「それで私ね、誰か他の人達に助けてもらおうとして相談したんだけど……。

 どの人もお父さんはそんな事をする人じゃないって思ってて……。

 それでも親切な人が話を聞いてくれたんだけど……、お母さんも私が夫婦喧嘩を大げさに言ってるだけだって言うから、誰も助けてはくれなかったの……」


「信じてもらえないのは辛いな……」


「うん……。

 でもそれよりも、お母さんがどうして嘘をついてまで我慢しているのか、それがわからなかったの……」



 夜の闇に紛れ、カオリの頬に一筋の雫が伝っていた。



「お母さんはね……、父親がいないと、私が辛い目に遭うって……。

 私にそんな思いをさせたくないって……、そう言ったの……」



 昔とは違い、別れるという選択肢だって取れただろう。

けれど、母子だけで生きていくのは今も昔もかなりの苦労が伴う。

自身が我慢すれば、少なくとも我が子に苦労をかける事はない。そう考えたのだろう。


 何より家庭内はどうであれ、カオリの父親は外面そとづらだけはいいのだから、内情を知らぬ周囲の反応が、冷たいものとなるのは想像に難くない。

であれば今の生活とリスクを伴う決断、どちらが我が子にとって良い選択か……。


 しかし無関係の俺から言わせれば、それは思考の放棄だ。

「何をやっても無駄だ」「今より悪くなるよりはマシだ」そんな考えに縛られた愚か者だ。

けれど守るべき存在が居る状況で、自身の行動がその者の存在を脅かすかもしれない。

そんな状況でリスクだけを見て、現状の改善をしないという選択を選んだことを、誰が責められようか。


 いや、もしかすると自身で選んだように見えて、もはや何かを選択する余裕すらなかったのだろう。

正常な判断ができる者なら、このような事を、守られている本人に話すはずないのだから……。



「それを聞いて私……、私が居なければ……、お母さんは酷い目に遭わなくて済むんじゃないかって……」


「まさかお前……」



 最悪の結末が頭をよぎる。



「だから私……お母さんが私のために傷つくのなら、私を消してください……。

 初めから居なかった事にしてくださいって……、毎晩月にお願いしたの……。

 そうしたら……」



 ◆



「いいでしょう。望み叶えて差し上げましょう」



 不意に声が聞こえてきて……。

でもその時部屋には私しか居なくて、私が誰ですかって聞いたら……。



「誰かと聞かれれば、少し返答に困りますね。

 しかし、そうですね……。あなた方が神と崇めるモノ。

 もしくは悪魔と恐れるモノ……。と、いったところでしょうか」



 悪魔って聞いて、私怖くなって……。

でも、私の願いを叶えてくれるって……。



「望みは“自身を最初から居なかったことにする”ですね。

 しかしそれは、今の貴方の存在を消すだけではない。過去の改変が必要……。

 相応の対価を必要としますよ」



 そんな事言われても、私は対価として差し出せるものなんて何も持っていなかったの。

でもその悪魔は、こう続けたの……。



「心配しなくても、貴方にだって差し出せる対価はありますよ。

 もちろん魂を差し出せなんて言いません。そんなもの無意味ですからね。

 過去を改変するための対価、それは……」



 ◆



「…………」


「どうした? 言いにくい事なら、言わなくていいんだぞ?」



 カオリは言葉に詰る。しかし、俺にはもう十分だった。

カオリがこの世界にいる理由、それさえ分かれば悪魔の求めた対価など、俺が知る必要も無い。

だが俺の言葉にカオリは静かに首を振り、ゆっくりと続きを語る。



「……悪魔の求めた対価。それは、未来の改変」


「未来の改変?」


「過去を私が居ないものに作り変えるのなら、その対価は未来を作り変える事……。

 それが対価」


「だからって、お前にそんな事できないだろ?」


「……私はその手伝い。

 いつかこの世界に、未来を作り変える、“世界を動かす特別な人”がやって来る。

 その人を助け、未来を作り変えるのが、私の差し出す対価」


「それって、まさかとは思うが……」




「そう。まくま君の事だよ」



『超展開に草www』


後書き一行目発言がそれか。というか草に草生やすな。


『あの展開からこの話、誰が予想できただろうか』


最終回迫ってるからね。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート