「主様、長らく不在に致しまして、申し訳ございません」
「いいよいいよ。サンタの爺さんの手伝いだったんだし」
「ありがとうございます。では簡単にご報告を……」
鬼若はクエストから帰ってきた翌朝、報告のため俺の部屋まで来ていた。
しかし、報告内容はたいした事ではない。元々聞いていたのもあるし、カオリともメッセージのやりとりはしていたからな。
「主様にお伝えしなければならない事はこのくらいでしょうか。
あと……、つかぬ事を伺いますが、俺の不在の間、主様は何をされてましたのでしょうか」
「何をやってたか? うーん、色々やってたけど……」
さて、どうしたものか。恐らくは、俺が裏で動いていた事を知っている様子だな。
けれど鬼若に話せる内容もあれば、話せない内容もあるからなぁ……。
とりあえず順を追って思い出しながら、話せるところだけ話しておこうか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(まくら様、あのような叱責でよろしいのでしょうか)
(ん? ちょっと言い過ぎたって思ったり?)
(いえ、もう少し厳しくすべきだったかと)
(うーん、十分大ダメージだと思うぞ? 特にアルダが)
ベルの腕に抱かれチヅルの元へ向かう途中、念話で反省会を行う。
バーでの一件は、ベルにとってあの程度ではまだまだらしい。しかし……。
アルダのどんよりとした負のオーラが見えそうな、丸まった背を見るとやりすぎだと思う。
まぁアルダにとっては寝耳に水の話だったし、その上爺さん以上に叱られたからな。
(それにしても、この念話って便利だな。作戦会議も思いのままだ)
(えぇ、あの場を抜け出すには、まくら様の作戦は非常に有効でした)
(俺は、急にベルの声が聞こえてビビッたけどな)
(まさか、念話の存在を知らなかったとは思いませんでしたわ。
まくら様は、いつも念話で会話されていらっしゃったものですから)
(考えてみれば、俺に口は無いんだから、普段から全方向に対する念話だったんだよな)
(えぇ。おかげで練習も必要が無かったので、助かりましたね)
俺がまくらでいる間、俺はベルと念話でどうやって抜け出すかを考えていた。
サンタの爺さんの話を聞けば、爺さん自身をどうにかする問題でもないと考えたからだ。
しかし、そのまま爺さんを放っておく事もできないし、できればカオリ達を置いて行きたい。
そう考えた上でベルと相談したいな、とモゾモゾとアピールしていた時に、ベルから念話で話しかけられたのだ。
その顛末が、あのバカバカ⑨連発の発言である。空気が凍ったが、残された奴らは大丈夫だろうか。
(で、ベルはいつもこの念話で、鬼若と罵り合いでもしてんのか?)
(まさか、そのような事……。どうしてそうお考えになりましたか)
(どうせ、朝からの“どっちが俺を連れるか”も、コレでやってんだろ?)
(ふふふ、お見通しというわけですか)
(なんだ、ほどほどにしてやれよ?
仲良くやれない相手ってのはいるもんだけどさ、だからって相手を追い詰めるほどなら、俺も見逃せないからな?)
(まくら様がそう仰るのなら、手加減させていただきます)
やっぱやってんのかよ! っていうツッコミはこの際ナシだ。
なにせ「そのような事」の続きを濁したのだから、その時点で確定だ。
無いなら無いとはっきり言うだろうからな。
(まぁ、その件は今後の課題って事で。今は……、アレをどうするかだ)
(アレとは、売られゆく奴隷のような彼の事でしょうか)
(言いえて妙な表現だが……。まぁいいか)
「えっと、あれだ。アルダ、チヅルにも何か話せない事情があったんじゃないか?」
「えぇ……。そうですね……」
全く、心ここにあらずな反応をするアルダだが、これは大丈夫なんだろうか。
バウムの危機なんかには飄々としていたのに、やはり娘の事となるとキツいのか。俺は娘どころか、結婚もしてなかったからよくわからんが……。
いやしかし、アルダにとってみれば、バウムは飼育してるトナカイの一頭なんだし、俺に置き換えれば“仲のいい会社の同僚”程度の感覚なのかもしれない。
それなら、家族に何かあった時の方が、堪えるのは仕方ない事かもな。
(ダメっぽいな。もう放置でいいか)
(しかし、そうしますとチヅル様と会った時に、また不貞腐れるのではありませんか?)
(んー……。その心配はあんまりしてないなー。ってか、こうなった原因ベルだからな?)
(それは重々承知しております。しかし、アルダ様が必要だと仰いましたので……)
(うん、確かに他に方法思いつかなかったし、俺のせいでもあるか)
ベルが俺に反論するのは珍しい。まぁ俺も“アルダを連れ出せ”としか言わなかったし、その上で理由をでっち上げた、ベルの機転の効いた対応はありがたかった。
(連れ出す必要性をお聞きしてもよろしいですか?
帰りの案内ならバウム様でも可能ですし、契約の関係性から言っても、そちらの方が適当かと思われますが)
(あぁ、それな。今日はずっとバトルを回避してただろ? だからそろそろバトル展開になるよう、調整した方が良いかと思ってな。
あのまま爺さんが引き下がる訳ないし、カオリ達に実戦経験も積ませたかったんだよ)
(なるほど、我が抜ければSSRが減り、彼の言っていた『戦わない理由』が無くなると考えられたのですね。
しかし、アルダ様も理由のひとつだったのでしょうか)
(アルダと戦ったなんて娘と孫に知られたらどうなるか……。
あの爺さんも、それくらい考えそうだろ?)
(契約主が戦うと決めたなら、それに逆らう契約者は居ないかと思われますが……。
契約者の心情への配慮、ということですね)
(そういうことにしておいてくれ)
おそらく今回のイベントで、俺はかなりの回数バトルを回避できていたと思う。
アルダとチヅルの二人に会った時も、ゲームであればバトル展開になっていただろう。それが、俺とカオリによる契約があったため成立していない。
それ以外にも、バウムを探す時はクロが居たため、他のキャラと接触せず済んでいる。
バトルになる展開が必須かどうかは分からないが、イベントのストーリーで全くバトルにならないというのは、ゲームとして破綻していると言えるだろう。
「周回要素があるし、バトルはそっちで十分じゃない?」なんていう、運営の配慮があったなら話は別だけどな。
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